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アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて ※ シリーズまとめに収録開始  作者: あいの あお


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67.罰

 ちらりとレナーテに視線をやると、レナーテはアレクシアの後ろでほっとしたように口元を緩めていた。何も分かっていないその様子にグローリアはため息を吐きアレクシアへ視線を移しゆっくりと首を横に振った。


「わたくしは、あなたの後ろにいる女性の名も知りませんわ」


 「どうして!」と声を上げたレナーテをグローリアは黙殺した。嘘ではない。グローリアがレナーテの名を知っているのはレナーテの監督官であるシモンが彼女をレナーテと呼んだからだ。


「わたくしは誰からもその女性の紹介を受けていないし、その女性から名乗りを受けた覚えも無くてよ」


 それを聞いたアレクシアの目が大きく見開かれ、ぱっと横にずれるとアレクシアはレナーテを振り返った。


「あ、この者は」

「要らないわ」


 レナーテを紹介しようとしたであろうアレクシアをグローリアはぴしゃりと止めた。そうしてレナーテを見ると、グローリアは表情も無く首を傾げた。


「シモン卿はあなたに何もお伝えにならなかったのかしら?」


 グローリアは扇を出すと閉じたまま口元に当てた。グローリアはシモンに言ったのだ。騎士団に残すのならしっかりと伝えろと。


「シモン卿は関係ありません!!」


 レナーテがアレクシアの隣に並び、首をぶんぶんと横に振りながら大きな声を出した。ふたり並ぶと色彩がよく似ている。特に珍しい瞳の色が。

 グローリアは眉をひそめ更に目を細めると、その表情のままアレクシアへ視線をやった。


「関係が無いのかしら?アレクシア・ガードナー」


 アレクシアは目を閉じぐっと眉根を寄せると「いいえ」と首を横に振った。


「従騎士が起こした問題の責任は全て監督する正騎士が負うものです。従騎士レナーテ・ノヴァクの公女様への無礼は全て、監督官である第二騎士団第三隊隊長シモン・コーネルを主として、その上官である第二騎士団副団長、および第二騎士団団長の負うものです」

「そんな!!!」


 レナーテの顔が悲壮に歪められる。先日グローリアは忠告したはずだ。何のためにグローリアがアレクシアの思惑にわざと乗せられたと思っているのか。腹の中のもやもやが更に重さを帯びた気がした。

 グローリアのライラックの瞳がさらに冷たさを帯びる。


「では、あなたの無礼は誰が負うのかしら?アレクシア・ガードナー」

「はっ……第一騎士団の正騎士は王族の最も近くに侍る騎士として、また高位貴族の一員として、自らが全ての責を負うものです」

「そう」


 グローリアは閉じた扇の先をレナーテに向け、それからすっと、アレクシアへと向けた。


「二度目ですわ」


 実際には、レナーテは二度目だが今回は事が起こる前にグローリアが止めたためアレクシアの粗相はまだ一度だ。だが、謝罪するでもなくレナーテを止めるでもなくその背に庇った時点でほぼ変わらない。アレクシア自身も分かっているはずだ。


「次は、本当にありません」


 幸い、グローリアの腕が掴まれてからここまで回廊を通る人間はひとりも居なかった。グローリアはまだ許すことが許される。

 レナーテひとり、アレクシアひとりであればグローリアはそれなりの罰を課したかもしれない。ただ許すことはただの甘やかしであり、相手のためにもなりはしない。シモンの経歴に疵をつけることは忍びないが、レナーテの態度はあまりにも酷すぎる。監督不行き届きでの叱責は必要だろう。


 問題は、ふたりが共に東側の人間であることだ。現在、王都から見て北東に位置する隣国の王族ベルトルトと高位貴族のフォルカーが王国にいる。モニカが隣国へ嫁げば最も近い王国領は東の国境伯家と北の辺境伯家となる。国境伯家の関係者であるふたりを強く糾弾することで東との関係を悪化させることは今は避けたい。

 グローリアはこれで二回許したこととなる。三度目はさすがにグローリアだけでなく東も許しはしないだろう。


「はい、心よりお詫び申し上げます」


 アレクシアが膝を折り、王族に対する深い騎士礼をとった。レナーテが隣で「え?」とぎょっとしている。

 グローリアは通常、普通の貴族として過ごしている。だが低くとも王位継承権を持つ父とグローリアたち兄妹は準王族。最敬礼でさえ無ければ王族への礼を受けることが許されている。

 アレクシアの礼は少々大げさではあるが深い謝罪とすればやり過ぎとは言い切れない。


「立ちなさい、アレクシア・ガードナー」

「はっ」


 グローリアが淡々と言うとアレクシアは立ち上がり右手を左肩に当て、左手を後ろ手に腰に当てた。


「此度の件、わたくしからは何もいたしません。上官である第一騎士団長、および第二騎士団長へ自分たちの口でこの場で起こったことを全て正しく報告し指示を仰ぐことをわたくしからの罰といたします。アレクシア・ガードナー」

「はっ」


 グローリアはひと言も発さぬまま項垂れるレナーテをちらりと見ると再度アレクシアへと視線を戻した。


「そちらの女性は従騎士として正しく行動することが難しいようですわ。直属の正騎士であるシモン卿にはあなたが共に報告へ行き正しく報告を行い、第二騎士団団長への報告にはシモン卿と共にあなたも赴きなさい」

「承知いたしました」

「シモン卿へは謝罪は不要、今後に期待いたしますと伝えてちょうだい」

「確かに承りました」


 そのまま深く腰を折るアレクシアに、グローリアは深くため息を吐くと苦く笑った。


「アレク卿、素敵な舞をまた期待しておりますわ」


 はじかれたようにアレクシアが頭を上げた。


「グローリア様……」


 くしゃりと顔を歪めたアレクシアにゆるく首を横に振ると、グローリアはまた無表情に戻りこれで終わりだとばかりに胸元で扇を広げた。ずきりずきりと上手く働かない頭と重い腹が痛む。


「次は無いともう一度言っておきますわ―――行きなさい」


 広げた扇を顔の前にかざし視線を横にずらしこれ以上言葉を発する気はないと示す。アレクシアは唇を引き結び一度俯くと、「ご恩情に感謝申し上げます」とまた深く一礼してレナーテを促し鍛錬場へと戻って行った。

 回廊を曲がる寸前にちらりとアレクシアが振り向いたことに気づいたが、グローリアは逸らした視線をそちらへ向けることはしなかった。


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【 ある王宮の日常とささやかな非日常について 】


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