百合に挟まる王子さま
ある日、アルルは気がついた。
「そ、その髪飾り、似合わないわよ。あんたにはこの色が似合うって言ってたじゃない」
「あら、今日も趣味がよろしいようで。ふふっ」
「なによっ! 褒めても何もでてこないわ」
「あなたの照れた顔が褒美だわ」
あれ? 俺を挟んで、いちゃついてんじゃね? と。
アルル、一国の王子。王太子やってる。
国内貴族の関係性により、侯爵令嬢の婚約者レオノーラがいる。気が強い美女でアルルはちょっと苦手だ。
王子、というより王太子と王は後継者が確実に必要なため一夫多妻を採用している。そのためアルルは他の癒し系をさがした。
それが男爵令嬢のパウラ。元気でアルルを励ましてくれる。癒し、ではないかもしれないが、かけがえのない女性である。
この二人は、一人の男性の愛情をめぐって恋のさや当てをしていた。
つい、一か月前までは。
知らん間に、喧嘩ップルになっていた。いや、気のせいかもしれないしとアルルは静観していた。
ところが今まではあったパウラとの軽いスキンシップも避けられ、レオノーラとのお茶会も断られた。そして、アルルの知らんところで二人が会っているところを見てしまったのである。
パウラのお膝にレオノーラが乗って可愛らしく照れてた。
見たことない顔してた。
そこで気がついた。
俺、百合に挟まる男じゃね? と。最初は確かに好かれていたんだけどな俺、とアルルは首をかしげるが現状、そんな感じじゃない。
それ以降、なんとなーく感じるお前邪魔感。
アルルはやばいと感じた。
「わが友よ」
学友という名のお友達に相談する。
なお、親の付き合いで付き合っているということを承知の上の付き合いなのでドライだ。
「へい」
「うっかり廃嫡されそうな気配を感じる」
「レオノーラ様は容赦ないタイプですし……」
「だよなー」
有能令嬢レオノーラ。何ならアルルより人望がある。婚約者にした王に先見の明があったというべきだろうが、今となってはアルルの敵となりかねない。恋に狂う有能な人。嫌すぎる。
「婚約解消したらいいかな」
「それしたら、殿下のほうがまずいんじゃないですかね」
「なんで」
「うちの娘の何が問題だと侯爵閣下は殴り込み。陛下も王妃にはレオノーラしかおらんという。
解消するなら、殿下の過失じゃないと。そうするとうっかり毒杯コース」
「……わお」
「皆が幸せになれるコースはありますが、どーですかね」
「なんだい?」
アルルは、それを聞いてちょっと身投げしようかなと思った。
結婚式を三か月前に控えたある日、アルルは二人の女性を呼んだ。
「レオノーラを正妃に、パウラを側妃に迎えたいと思う」
「承知すると思いますの?」
嫣然と微笑むレオノーラにびびったが、アルルは澄ました顔で紙を出した。
「君の動向を調べさせてもらったよ。
相手が異性でなければ、浮気にならないと思うかな?」
「私がいけなかったの。レオノーラ様のせいでは」
「いいえ、パウラは、悪くないわ」
アルルは微妙な顔でそれを見ていた。なんか、寝取られたの俺だけど、どっちに寝取られたんだろと。
「というわけで、両方、妃に迎える。
で、二人で仲良くやって。
都合よく、うちは一夫多妻。もう一人、奥さんを捕まえるので、それで話をつけよう」
ぽかんとした顔で見返された。
「なんつーの? 仕事としての王妃と側妃。閨なし。ただし、子供がいないと言われるのは我慢して。できる?」
「なぜですの?」
「有能な友人に死地に追いやられるのも嫌だから。
俺に悪いと思うならうちの国のために頑張って」
アルルは二人を置いて部屋の外に出た。
「いいんですか。アレで」
部屋の外で待っていた友人が嫌そうな顔をしていた。
「提案したのおまえ」
「ですがねぇ……。浮気でしょ」
「貴族の大半は浮気する。
あと父もなんだかんだで愛人いっぱいいるし、そういうの言ってもなぁって。
それに、王妃の仕事を任せられるということは俺のこと好きなだけの子を選べる。お得」
「そう言うところは嫌いではありませんが……」
「まだ見ぬ癒し系美女を求めて」
アルルはそういうことにしておいた。
失恋、二倍。わりとツライ。でも命より大事でもない。
一度は好きになった相手の幸せを願いたいし、利用もしたい。さらに恩を売ったら、どんな子を連れて行っても怒られることはあるまい。
皆、仲良くできる。
良いことずくめだ。
今、いい相手がいないということを除けば。
「自棄酒ならつき合いますが」
「おう」
アルルはドライな関係でも友人がいるしーと多少は慰められるのであった。
アルルは予定通りレオノーラと同時にパウラとも結婚式を挙げ、数年後に側妃を迎え、女好きの王として近隣に知られることになる。
真実は闇の中。
その後、ハーレムにはなりません。
いちゃつく王妃と側妃を横目に俺も早くお嫁さん欲しいと呟いていることでしょう。
友人は終始男で実は女でも女体化もしません。