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第7話 先輩に褒めてもらいます……?

「へへへ」

「何ニヤケてんだ」


 GM業務を終え、フルダイブ式VRユニットから降りた私。思わずニヤケていた所を、ケイ先輩に突っ込まれた。だあって、初仕事にしてマッチングうまくいったし? 幸せな笑顔見れたし? これこれ、これが見たくてGM仲人になったの、私は! というわけで、ニヤニヤが止まらない。


 マリッジ・オンラインのGM仲人達は、本社のVRユニット室にある各社員用ユニットからマリッジ・オンラインにログインする。GM仲人業務を終えてログアウトしたら、今度は隣の事務室で、日次報告などの事務作業を行うのだ。ログアウトすれば勤務終了、ではない。


 事務室に移動してカタカタっとパソコンで日次報告書を作ったら、指導担当のケイ先輩に報告だ!


「――という感じで、今日はもー最高でした! ばっちりです!」

「……おい」


 対面のミーティングブースで、私は自信満々に日次報告書を読み上げた。ケイ先輩は、アバター通りのビシッとセットしていた頭を、くしゃくしゃと掻いて崩す。アバターと違って、現実は気だるげニイちゃんなんだよね。


「感想聞いてんじゃねえんだよ」


 ケイ先輩はクソデカため息をついた。こ、怖い……褒めてもらえると思ったのに……!


「『2人は見つめ合って良い感じでした』……で? これお前の主観だろ。何だ良い感じって。互いに結婚相手の条件をクリアもしくは妥協できたか? サラさんはソウさんの海外勤務が許容できるのか?」

「……っ!」


 ケイ先輩は日次報告書とユーザ情報を見比べながら言った。私は思わず言葉に詰まる。2人の会話の中でも、その話題は出なかった。


「確認してないんだな。お前今日、何してた。ただ着いてって見てただけか」

「……そう、です。あまり介入しない方が良いかと思って……」


 私はだんだんしょんぼりしてきて、語尾が小さくなった。ケイ先輩はふーとまたタメ息をつく。


「リン。うちのミッションとゴールは何だ」

「……? お客さまの真剣な恋愛を応援することで、結婚を成立させることです」

「そうだ。で、お客様も俺たちにそれを期待してる」


 ケイ先輩は、真っ直ぐ私の目を見た。


「恋愛結婚なんてな、奇跡みたいなもんだ。一生に出会う人の数なんて限られてて、そん中から互いに条件を満たす人と出会って、かつ仲が良くならなきゃいけない」

「……はい」


 ケイ先輩は前のめりに話す。見たことないほど真剣な顔で。


「だからうちの会社は、現実の制約を取っ払った出会いの場を提供し、条件の近いユーザ同士が同じサーバに入るようAIで調整し、仲を深める仕組みをサービスの随所に仕込んでる……【奇跡】を【必然】にするために」

「……!」


 ごくりと、息を飲む。


「その一番フロントにいるのが俺たちGM仲人だ。偶然を待つな、確率を上げろ。条件確認はキホンのキだ」

「……はいっ!」


 私は大きな声で返事した。ケイ先輩は、よく使い込まれた冊子をポンと机に投げる。


「俺のマニュアルをやる。参考になりそうなとこ付箋貼っといたから読んどけ。わかんねえことあったら放置せずすぐ聞けよ」


 ケイ先輩はいつものダルそうな顔に戻って、がたっと席を立つ。私に背を向け、片手を上げて言う。


「やる気あんのは買ってる。頑張れ」

「……! ありがとうございますっ!」


 褒めてもらえた……のかな? 先輩も自分の仕事で忙しいだろうに、いつの間に私のために付箋貼ってくれてたんだろう。何だかんだ言って、ケイ先輩はやっぱり優しい。よーし、熟読するぞ! 私、明日も頑張ります――!

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