第6話 あの鐘を鳴らすのはあなたです!
「んー? この暗号はどう解くんだろう」
「あ! ここの文字を並び替えて――」
古い書物がうず高く積まれた神父室にて。聖書の暗号を解き、天空の鐘へ続く扉の鍵を探す一行。ソウ兄が聖書を見てうんうん唸る横から、サラさんが覗き込んでページを指差す。うんうん、いーね! だんだん距離が縮まって来て、自然に話せるようになってきた!
4人から一歩引いて見ていると、それぞれのお目当てが良く分かる。ソウ兄は明らかにサラさんの隣をキープしてるし、サラさんもまんざらじゃなさそう。他の2人もお互い良い感じだ。下手に私が介入しない方が良さそう、とっても順調!
「わかった! 最初の礼拝堂だ! 十字架の下に鍵が隠してあるらしい」
「やったね!」
ソウ兄とサラさんは、とびっきりの笑顔でハイタッチした。私はニマニマが止まらない。ふむふむ、これは良き! ユーザによっては、「振り出しに戻るのかよ」なんて不機嫌になる人もいる。……これも裏側を言えば、辛抱強さとか一緒に困難を楽しめるかとかを見るサービス設計だったりするのだ。
「私、地図ばっちり作ってるから! 迷わず戻れるよ」
「そりゃ助かる! ここまで結構複雑な経路だったもんね」
サラさんが手書きの地図を覗き込みながら、神父室を出ようとしたその時――
「危ない!」
――ザンッ!
廊下に出る扉の影から、スライムがサラさんめがけ飛び出すのを、ソウ兄が気付いて斬り落とした。斬られたスライムは光の粒となって消えていく。
「あ……ありがとう」
「守るのが騎士の役割だからね」
サラさんが顔を赤らめてお礼を言うと、ソウ兄が優しく微笑んだ。おやおや、これはもう、あらあら。マッチング成立しているのではなくて?
――そんなこんなで。いったん礼拝堂に戻って鍵を見つけた一行は、いよいよ屋上に続く扉を開け、天空の鐘に辿り着く。屋上に出ると、頭上には真っ青な空、周囲は一面雲海が広がる大パノラマ。一気に開けた世界に出て、心もぱあっと明るくなる。思わずサラさんが両手を広げて感動の声をあげた。
「うわあ、開放的!」
「ずっと薄暗い神殿の中にいたもんね」
そう言って、じっとサラさんを見つめるソウ兄。自然と手を取り、屋上の中心にある天空の鐘に2人並んで歩く。あとの2人も手を繋ぎ、ソウ兄達に続いた。私はこっそり、後ろの2人に「目を瞑って待ってて下さいね」と伝える。鐘を鳴らす時は、2人だけの世界だから。
崩れかけた石造りのアーチにさがる銀の鐘のもとで、サラさんとソウ兄は目を合わせてウンと小さく頷き合うと、鐘の紐を一緒に引いた。
――カランカランカラン……
澄んだ銀の音が、静かな雲海に響き渡る。瞬間、所々崩れていた神殿は往時の姿を取り戻し、鐘のさがるアーチも美しく色付いた。爽やかな風が吹き、さらに鐘を揺らして、空一面に音を運ぶ。まるで世界が、2人を祝福しているかのように。
「……すごい。とっても、綺麗……」
「うん。ホントに、綺麗だ……」
サラさんとソウ兄は、一緒に紐を握ったまま、ぽーっとして見つめあった。やがて鐘の音が収まると、アーチや神殿は元の遺跡の姿に戻る。私は後ろの2人に「もう目を開けて良いですよ」と伝えた。目を瞑らせたのは、実はネタバレ防止のためだ。GM仲人としては、皆さんにドキドキを経験してほしいからね!
――それからサラさんとソウ兄は、鐘から離れてもずっと手を繋いでいた。クエストも無事達成! 神殿から出て転送陣まで戻ると、サラさんが私の前に来て、ぺこりと礼をした。
「ありがとうございました」
「いえいえ! 私は何もしてませんよ。素敵な出会いがあって良かったですね!」
サラさんはソウ兄をちらと見て、見つめ合いながら2人とも微笑みんで。私に向き直り、満面の笑みで言う。
「――はい!」
――こうして、私の初仕事は無事完了した。幸せいっぱいの素敵な笑顔が見れて、これだからこの仕事はたまらない。次のマッチングも、頑張るぞ――!