第5話 はじめてのくえすと、開始です!
高遠草介――ソウ兄は、昔マンションの隣の部屋に住んでいた、4つ年上のお兄さんだ。親同士が仲良しで、物心着く前からよく遊んでもらっていた。子どもの頃の4歳差は今思うよりずっと大きくて、完全に兄と妹の関係だった。私が中学の時にソウ兄は引っ越しちゃったんだけど、それがまさか8年ぶりにマリッジ・オンラインで再会するなんて!
……ま、アバターは現実と顔が違うし、向こうが私に気付くことは無いんだけど。GM仲人はフェアじゃないといけない。私とソウ兄が現実で知り合いだなんて、要らぬ誤解を招きかねないからね。内緒内緒。
「よし、それじゃあ探索クエストを始めましょう!」
山頂にそびえる石造りの神殿跡の門前。4人のメンバーで簡単な自己紹介をしあった後、ソウ兄は楽しそうにかけ声をあげ、サラさんは小さく手を挙げて遠慮がちに「おお~っ」と言った。ほか2人のパーティメンバーも応える。
「あらためて確認すると、僕らの目標は神殿頂上の【天空の鐘】を鳴らすこと。道中は迷路のように入り組んでいて、頭を使う仕掛けやスライムなんかもいるみたいです。協力して頑張っていきましょう!」
ソウ兄が、早速リーダーシップを発揮してクエスト内容を確認した。このクエストは、頂上の【天空の鐘】――二人一緒に鐘を鳴らすと愛が成就するという、いわゆる恋人の鐘を鳴らすのが目的だ。今回は男女2人ずつのパーティだから、クエスト中に仲を深めて、うまくマッチングすればその二人で鐘を鳴らすことになる。
……裏側を言えば、一緒に頑張ったのに誰とも鐘を鳴らさないなんて寂しいから、大抵誰かと鳴らし合う。すると共に鳴らし合った相手を意識しやすくなる、というサービス設計だ。
「サラさん、頑張って下さいね! 私は一歩引いて応援してますから」
「はい!」
私は緊張するサラさんを励まし、4人の後ろから着いていく。GM仲人は、クエスト中は手出ししない。パーティメンバー同士で問題解決して仲を深めてもらうためだ。
4人は大きな木扉をぎぎいと開け、最初の部屋――礼拝堂に足を踏み入れた。所々崩れた石造りの壁はひんやりと苔生し、青暗い堂内に漏れ射す日が、祭壇の古びた十字架を照らす。少しカビた匂い、静寂に響く足音。雲海が広がる開放的な外界から、時に忘れ去られた閉鎖空間に突然入り込んだような非日常感に、パーティメンバー全員がごくりと息を飲んだ。
4人は、礼拝堂から続く廊下や階段を進み、神殿内を慎重に探索していく――。