第3話 出会い系勇者はお断りです!
「離してくださいっ!」
「そう言わずにさ、俺と行こうよ」
転送室の扉の前で、魔法使いのお姉さまは、チャラい勇者さま――もとい出会い系勇者に腕を掴まれ、明らかに困っていた。こんなの、見過ごすわけに行かない!
「すいません、離していただけますか。お客様が嫌がっていますので!」
私が間に割って入ると、勇者が不機嫌に言う。
「ああ? 邪魔しないでもらえる? 俺のパーティに誘ってただけだから」
勇者は凄んで私を睨む。でも、怖くないもんね。私はひょいと勇者の腕を掴み上げ、お姉さまから離す。現実だったら腕力じゃ敵わないけど、マリッジ・オンライン内は別だ。GM権限でこちとら全パラメータカンストなんだから!
「あいででで! いきなり何すんだ!」
「ギルド規約通り、仲裁します!」
冒険者ギルド規約第8条、強引なパーティ勧誘はギルドが仲裁を行います、だ!
「ちっ! 離せ!」
勇者は無理やり私の腕を振り払い、バッと跳び下がると、背中から大きなブロードソードを抜き、中段に構えた。私は努めて冷静に警告する。
「……それ以上は、除名になりますよ」
「うっせえ! 所詮ゲームだろうが、好きに遊ばせろよ!」
私はその言葉にカチンと来て、ちらと横目で受付カウンター内のケイさんを見れば、目が『やれ』と言っていた。
私は腰に差した短刀を抜いて構え、炎を纏わせる。短刀を包む炎は刀身よりも長く鋭く伸び、灼熱の炎剣と化した。GM仲人用ユニークスキルの一つ、剣に炎を付与する【誓いの炎】だ!
勇者は炎の剣に少し怯みながらも、破れかぶれに振りかぶって斬りかかる!
「おらあッ!」
勇者が真っ直ぐ振り下ろす大剣を、私は半歩右に避け、勇者の首めがけ炎剣を薙ぐ! 炎の刀身がピタと寸止めされ、勇者の首にじりじりと熱が伝わる。
「ひっ……!」
勇者は恐怖に顔をひきつらせた。マリッジ・オンラインは、熱や痛覚もリアルに感じる――仮想世界と分かっていても、本能的に反応してしまうのだ。私は炎の剣を寸止めしたまま、はっきりと伝える。
「ゲームだから好きに遊ばせろ、じゃないんですよ。マリッジ・オンラインは、真剣な恋愛を応援する婚活サービスです。お遊び目的で他のお客様を困らせるユーザは、お呼びじゃないです」
私の静かな怒りに、勇者は力なく大剣を離し、大剣がガランと音を立て床に落ちた。私は反抗意思喪失とみなし、炎を消して短刀を腰にしまう。
「すいませんが、3度目の警告はありません。除名させていただきます」
「……ああ」
呆然と頷く勇者。私は手元のコンソールから勇者を選択し、除名ボタンを押した。勇者の姿が、光となって消えていく。あとの処理は、バックヤードの事務員にお任せだ。
「あの……ありがとうございました」
絡まれていた魔法使いのお姉さまが、申し訳無さそうに頭を下げた。私はぶんぶんと手を振って、バッと頭を下げる。
「いえ! むしろ、こちらがご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!」
せっかくワクワクしてクエストに向かおうとしていたお姉さまが、絡まれてしまったのはむしろサービス側の落ち度だ。お姉さまは、頭を上げて、と優しく言って、続ける。
「ううん、とっても心強かったです。私、安心しました。ちゃんと守ってくれるんだなって」
「……! もちろんです! 我々ギルドは、皆様の真剣な恋愛を応援していますから!」
私が笑顔で言うと、お姉さまもにこっと笑ってくれた。お姉さまは、少しもじもじしながら言う。
「あの……もしよかったら、一緒にクエストに来てもらって、パーティ編成の支援をお願いできますか? あなたなら、良い人見つけてくれそうだなって」
お姉さまはそう言って、私の手を取った。GM仲人は、ギルド受付だけでなくクエスト支援も行う。より直接的にマッチングに関わる、重大な業務だ。初日から支援指名してもらえるなんて、めちゃ嬉しい!
「ええ、ぜひお手伝いさせて下さい!」