威徳・1
戦場の車のエンジンルームはあからさまに大きかった。
死体をそのまま放り込めるようにだ。
小回りの利く小さめの車はエンジンルームも小さかったが、その分死体を切り刻んで入れる手間がいったので、おおむね大きな車の方が多く流通していた。
そんなあからさまな車も戦争が落ち着いてくると少なくなった。
ましてや街中など、まき散らす臭いも嫌悪され、眉をひそめて避けられる時代に表向きやっとなった。
ただ、虚勢を張りたい一部の者たちでまだ乗り回す者も無きにしも非ずではあったが。
そんな時代も馬に乘る者たちだけは信用されていた。
世界が黒い雲に覆われてから、もちろん馬も絶滅の危機があった。
大気が汚染され、馬自体が食べるものもなくなり、人間が消費するために生きている馬は狩られた。
だが、太古の時代から馬と共に暮らす草原の部族が馬を守り切った。
食料としても燃料としても決して馬には手を付けず、外敵からも馬を守った。
そしてその部族のおかげで馬は生き延び、個体数を増やした。
今もその部族は馬と共に生き、移動は絶対に馬を使う。
その部族の族長は今、街にいる。
領土の北の果てに侵入した宗教者から身を守るために隠された。
隠された先は桃槃楼。
名は、威徳とされている。
丸い顔に小さな目鼻。決して美人ではないが愛敬のある顔立ち。それでも威徳はこの店の稼ぎ頭の三番手である。
といってもそこは秘密でも族長。身体は売らない。
客は威徳の先見の明を求めてやってくる。
今も領土を守る民、他の国へ忍ぶ間者達からもたらされた情報を元に世間話を語る威徳の元へ、客は遊戯を楽しみにやってくる。囲碁に将棋に茶道に詩歌。
そして今宵の客は麻雀だそうで。