桃槃楼・途中のはなし。
黒い雲が地球を覆った頃、地球上は氷河期にも匹敵する寒さで動植物は死に絶えるありさまで。
そんな中でもいやむしろそんな時だから人間は争う。
そして飢えと争いで死体の山ができる。
寒い中にさらされた死体はやがてカラカラに干からびてミイラになる。
それをこちらも飢えと寒さでミイラみたいにがりがりにややせ細った人間が、拾って薪代わりに燃やす。
『ヒト燃料』『ヒト資源』なんて言われ始めたのはその頃。
ほんの少し黒い雲の隙間が現れ始めると徐々に争いから資源開発へと人々の意識は移って行く。
農耕・畜産、だが何をするにも燃料は必要となる。
先の争いで掘りつくされたなけなしの石油や天然ガスは一部の人間しか使えず、多くの場所ではまだまだ『ヒト燃料』『ヒト資源』は重宝された。
資源もろくに行きわたらぬような小さな地方都市で病が流行ることは、珍しい話でははい。
厄介だったのはその都市に、近年とある教団が根を張り始めていたことだった。
戦場の死体を拾って糧にしていた人々が、やがて家族を売るのに時間はかからなかった。
子供は家畜となり、老人は燃料となった。
やむにやまれぬ事情とはいえ、心が痛まぬはずもない。
教団はそんな人々の心に寄り添った。
誰かのために命を差し出すことは悪いことではない。何かをなすための犠牲は仕方のないことだ。差し出したものは命を長らえ、後の世界に貢献すれば良い。差し出されたものはその命で世界を照らせば良い。
口当たり良く命の売買を容認した言葉はどん底で限界まで追い詰められた人々の支えになり、都市は丸ごと教団に飲み込まれた。
皮肉なもので人を資源として売買していた都市は活気を取り戻し始めた。
活気が戻れば人を売る必要は少なくなる。でも都市を維持するため資源としてのヒトは欲しい。
ヒトという資源を求めながら教団は、別の都市へと勢力を広げる。諍いの絶えない土地で、そこにある死体を資源とするきっかけを与え、諍いが落ち着けば流行り病が蔓延する土地へ。
諍いが先か教団が先か。
流行り病が先か教団が先か。
いつしかそう言われ始めた頃。