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操魂のまほうつかい  作者: 星川護
四季国編
7/13

7 異能力者

1ヶ月ぶりの投稿です。これからも不定期で参ります。

 「ずっとこんな埃っぽいところで縛られて大変だったよね? 僕と一緒に行こう? 僕と一緒ならもうこんな目には合わせないから」


 成人男性の低い声なのに、口調は少年のようだ。

 八尾(やお)白兎(しろう)にどうしても一緒に来て欲しいようだ。

 しかし、白兎からしてみれば恐怖の対象である。

 すぐそこに倒れている男。ピクリとも動かない。先程、『目隠し』されたときに、恐らくこの八尾が殺ったのだろう。


 髪を切られ、男の手からは助けられた後、口の布以外の拘束を解いてくれたところまでは、ヒーローかと思っていた。

 しかし、八尾の腕にすっぽりと埋まってしまったとき、通常とは違っていた。あの押さえ方では、隙間から周りの音や八尾の服と白兎が擦れる音など雑音が聞こえ、光がある程度漏れだすはずなのに。

 何も聞こえず、見えず、ただ、八尾のほのかな木のような香りと八尾の体温だけが在った。とても怖かった。『気絶』しかけたが意識を懸命に保った。


 直感で思った。

 八尾も黒ずくめの男たちと同様のことをしそうだと。


 確かに埃っぽいところからは解放されるかもしれない。しかし、感覚を奪われて独占されるような嫌な予感がした。



 仮に八尾がただのヒーローだったとしても、恐らくやり方が正しくない。竜花(たつか)達だけでなく、黒ずくめの男たちも怯えている。


 八尾の先程の問いに対する答えはひとつしか無かった。何とか声を絞り出す。



 「__…い、や、です…。そもそも、…私はあなたの事を、知らない」



 静寂に消えそうな音。しかし、八尾の耳にはちゃんと届いていた。一瞬、八尾の瞳を見ることが出来なかった。一応自由になった手足で、八尾に背を向けず少し距離を置く。

 一方の八尾は、少し黙ってから、「あ」と軽い声をあげる。そして軽やかに笑いながら白兎に視線を合わせる。


 「そういえば、『はじめまして』だったね! 僕は八尾(やお)。白兎のことずーっと前から知ってたんだ! 『前』は仲良く一緒に遊んでたりしてたんだよ?」


 白兎は何となくデジャブを感じつつ、それどころじゃないのでその感覚をスルーした。


 「1回、僕と遊ばない? そしたら何か思い出せるかも」

 「…何して遊ぶんですか」

 「え? うーん…。花冠作りとか? 散歩、かくれんぼ…」


 八尾は無邪気に片手で数を数えながら、遊びを列挙する。

 意外にも穏やかで子供のような遊びが出てきて、一同は驚いた。ただ、明らかに成長による変声期を終え、体格も大きい成人男性がやる遊びとは思えない。


 一方の八尾は「…これぐらいしか思いつかないなぁ」と呑気にしている。白兎の胡乱げな視線に気づき、にっこりと穏やかな笑みを湛えた。


 「…?」


 一瞬、白兎にかかっていた圧のようなものが弱まり、気が抜けかけた。しかし、また緊張状態になる。そして、周辺にいた老人や一般の人達が倒れる音がした。白兎が見回すと、白衣のお兄さんや町娘さん、竜花は、動けはしないようだが起きていた。


 白兎のその様子を、八尾は表情を変えずに見ていた。

 そして八尾は突然息をつく。白兎はピクリと肩を動かした。


 「…それにしても、竜花さんさぁ…」


 八尾は緩慢な動作で竜花に顔を向ける。


 「まんまとやられちゃって攫われちゃってさぁ。白兎も危険な目に遭わせて…どうなの? 僕、不安だよ…」

 「………っ!」

 「真面目な竜花さんだから、わかってるとは思うんだけどね。でもさ、今もこうして動けなくて、僕がただのヤバい奴だったら、今、白兎をどうにでもできちゃうよ?」


 八尾は煽るような表情で淡々と竜花を批判する。竜花は俯き返す言葉もない。

 竜花とて、動ければ助けに行きたい。だが、八尾は以前とは違って圧をかけてきている。濃厚な闇の気配にまとわりつかれて、『昔』を思い出して、気分も悪い。それに。

 白兎を守りきれなかった自責の念で気がやられている。



 「__あの…」


 白兎は八尾に呼びかける。八尾は少し驚いて、白兎の方を向く。


 「あなたは、何者なんですか。どうして私のことを助けてくれたのですか。竜花さんのことを…嫌っているんですか。私…とはどんな関係だったの…」


 白兎はだんだんぼんやりとしながら口を何とか動かす。竜花に起こされたおかげで夜の眠りが中途半端になっていたのだ。そして、怪しげな人達の脅威が一応去り、圧の中になぜか落ち着く雰囲気をもつ八尾のせいで眠気が白兎を襲う。


 「__知りたい? でもね、ここでは言えないなぁ。恥ずかしい!」


 八尾は一瞬で頬を赤く染めて恥ずかしがった。

 白兎は「えぇ…?」と少し引いた。

 八尾は眠そうな顔をしている白兎の頭に手を乗せてポンポンと優しく叩いた。


 「もう夜も遅いしね…眠いの?」

 「……うん…」


 白兎は敬語も忘れて必死に声を出す。眠気のせいなのか背中がソワソワする。


 「そっかぁ…じゃあ、今回はここまでだね」

 「……?」

 「…じゃあね白兎。おやすみ」


 白兎は静かに目を閉じた。力がすーっと抜けていく。


 「面倒なやつが『起きる』前に行かなきゃね」


 八尾は白兎を横たわらせようとする。




 八尾は突然、冷気を感じた。

 手遅れか、と諦めを感じた八尾。

 白兎に触れている手から肘まで、服も凍りついていたのだ。



 「__触るな」



 それは八尾の腕の中の『白兎』から発せられた、蒼雨(そうう)の声。

 八尾は少し不快そうな表情をする。


 「__別に君のものでもないだろうに。て言うか、君が凍らせたせいで触りっぱなしになるんだけど、これいいの?」


 白兎の服と八尾の手が接着したままになっている。

 蒼雨は器用にも、八尾の手を凍らせたまま一部だけ溶かし、八尾から離れた。


 「あんまり、力酷使しないでよ? 負担かかるの白兎なんでしょ? 僕はもう帰るからさ」

 「…今この場でお前を落とせれば、これ以上力使うことも無くなるからな」


 そう言って蒼雨は、八尾の腕の氷を首元まで拡げる。八尾は静かにその氷を見つめていた。蒼雨も静かに八尾を見つめる。


 「……、まだ2回目だもんね。この程度なら普通に破れるよ」


 八尾は目を閉じて力を込める。たちまち、氷は硝子の欠片のようにパラパラと崩れていった。


 「………」

 「この前の、かまくらの方が良かったよ? まだ回復しきってないみたいだね。『君』を消すには今ぐらいがちょうどいいんだけど…、時間切れなんだよね」

 「『時間切れ』…?」

 「そ。じゃあ、今度こそじゃあね」


 蒼雨は追わず、八尾は自らが開けた穴から出ていった。



 朝日が差し込む。

 気絶していたもの達も起き始めていた。気づいたら白衣の男性らが、誘拐犯たちを縄で縛り付けていたが、白兎に話しかけていた奇妙な男と他2、3人は姿を消していた。


 竜花は呆然と白兎を見ていた。

 その視線に蒼雨は気づき、竜花に近づく。


 「落ち込むな。お前が白兎を守るんだ、『お前しか』白兎を守れない」

 「よく言う。どう考えても、白兎を守れる、守っているのはお前だろう『蒼雨』」


 「名前……『あの男』に聞いたんだな。……『今』はそうかもしれない。だがな、本当の意味で白兎を守れるのはお前だ竜花。ほんとうに」


 「……」

 「…またしばらく白兎は体調を崩すだろう。看病を頼んだぞ」



 そう言って白兎はかくりと膝から崩れ落ち、竜花は咄嗟に抱えた。あどけない表情で、規則正しい寝息を立てる白兎。だが頬はいつもより赤く、額に手を当てると、熱があるようだった。しばらく白兎に顔を向けて、白兎を見ずに静止した後、横に抱え直して、立ち上がった。

 その時、竜花の背後から駆け寄る足音。


 「待ってください」

 「?」


 竜花が後ろを振り向くと、記憶によく残っている白衣の青年がいた。白兎に近づく男の気を引いて暴行を受けたり、いつの間にか誘拐犯の一部を縛り上げていたりしていた青年。


 「僕は見ての通りの医者なんです。とくに『異能力者』専門で、城に務めています。その子、いきなりの力の使いすぎで魔力が垂れ流しの状態になっていて危険です。寝ている間に魔力が枯渇して、健康に害を及ぼしてしまいます」

 「『異能力者』…?」


 『異能力者』とは、言葉の通り、異なる能力をもつ者たちのことだ。この世界では、産まれてくる時に様々な要因が絡んで、ランダムに異なる能力が与えられる。能力がない徒人(ただびと)もいる。今回の白兎たちの本来の目的であった、雪まつりを盛り上げる『冬』の能力を持つ王族も異能力者だ。そして恐らく白兎らを誘拐した犯人も何かしらの異能力者。


 「白兎が『異能力者』…?」

 「他の連れてこられた方と一緒に治療しますので、一緒に来ていただけますか」


 竜花は専門家がそう言うならばと、了承し、共に城へ向かった。






 白兎の体を使う蒼雨は、確かに、薙刀を(くう)から出現させるだけでなく、相手を凍らせていた。紛れもなくそれは異能力者の証とも言える。

 彼の言うことが正しいとすれば、白兎はこの世界の人間、なのだろうか。


 竜花のような『外』から来た『人間』、『訪問者』も、特殊な力を魔力を用いて使うことがある。しかし、それはその世界の(ことわり)と『訪問者』の力の使い方が合致した時。


 つまり、この世界で言うならば、『訪問者』が魔力を行使するには、基本的に異能力者、生まれながらの能力者である必要がある。


 天野(あまの)を例に出すと、天野の憑依先である女性が例えば「火」の異能力者だったとき、天野の扱う術が同じく「火」のようなもので、一致していれば、天野は「火」に関する能力を使える。

 しかし竜花は体ごと『外』から来ていて、異能力を授かっていないので、竜花自身がどのような術を使えても、この世界で能力として使うことは出来ない。


 別の世界では『訪問者』が異能力者、先天性の能力者でなくとも魔力を使うことができる場合もある。だが、この世界では決まりが厳格だ。




 白兎は、少なくとも『白兎の体』はこの世界で生まれたものだ。記憶を失っている白兎の魂と記憶がある蒼雨の魂は置いておいて。


 竜花は今まで『この世界育ちの白兎に蒼雨が憑依している。しかし天野のような従来のやり方と違って、憑依されている白兎に自我がある』と認識していた。『外』の人間はあくまで蒼雨”のみ”なのだと。


 『あの』八尾が白兎と蒼雨を知っている。

 それはいつから。

 もし、八尾が2人のことをこの世界で知ったのなら、白兎のことを『蒼雨がくっついている女の子』として認識していた可能性もある。

 八尾は、「白兎とは以前から親交があった」と言っていた。八尾はただの人間では無い。妖の力を奪い、好き勝手に世界に出入りでき破壊できる敵だ。そんな彼が、白兎を以前から知っていると。


 それに夏騎(かき)が以前白兎と蒼雨について話していた時。



 『気づいたら、それぞれ原子(たましい)が独立してるくせに分子(ひとつの魂)のような振る舞いをし始めたんだってとこだ。おかげでその世界に生を受けた時も一緒(ニコイチ)だった』



 あの言い方は、『外』では各々独立していて、なぜか今のようにくっついてしまって『この世界』でそのまま生まれた、とでも言っているような。


 表現が正しいのか分からないが、『白兎”と”蒼雨が、今の白兎の体に、憑依した』と。




 今まで、世界を移動するには、三つの方法があった。

 一つは、八尾のように、妖と一体化して移動すること。これは一般には確立されていない方法で何が起きるのか分からない。

 一つは、天野のように、魂の状態で、その世界に元々住んでいる人間に憑依すること。これは『この世界』のように先天的な能力がないと術が使えない場合に最適だが、行動範囲が結界内で、あまり長期間連続して滞在できないし、その世界の人間との交流も絶たれる。

 一つは、竜花のように、魂と体を一緒に移動し、代償として記憶などを支払うこと。これは自分の体の能力を維持したまま動けるし、行動は制限されず、長期間いることができるし、住人として生活することも出来る。ただ、先天的な能力を得られない。



 夏騎の言うことを信じるならば、白兎と蒼雨の場合。

 産まれる前に魂を胎児のまえの受精卵に憑依させ、世界に誕生させ、成長させる。そうすれば、体は世界の住人だから先天的な能力も使えるし行動制限もない。しかし、蒼雨を見る限り魂と記憶はそのまま移動しているのだから代価が必要だろう。


 「…!!」


 眠る白兎を見る。


 まだ分からない。もしかしたら八尾のようになにか不正を働いていたり、竜花にはまだ知らないことがあるのかもしれない。

 こんな思いつきが憶測であることを願う竜花であった。

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