13 雪の舞
「…って言うことがあってさ」
当事者にしては、やけに他人事のようで遠い事のように話す伯。短くもさすがに疲れたのか、伯は小さくため息を吐いた。白兎は素直に疑問を口にする。
「姫様と現王様って双子?」
「そそ」
「雪まつりは姫様の誕生日なんですよね……、王様の誕生日はどうなんです?」
「……あ」
その場に沈黙が訪れる。伯はそれまでの表情のまま停止する。
「……え?」
白兎は伯の様子に困惑した。
伯は手を口に当てて、自分でも驚いたかのような表情をした。
「……2人は双子なの、内緒にしてくれる? うっかり身内のネタ言っちゃった」
「え」
「対外的には王サマの誕生日、夏ってことになってるんだ。その方が色々都合が良くて」
「そ、そうなんですね……」
なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったらしい。とりあえず話題を転換しようと白兎は焦る。
「ひ、姫様は、なんで城から離れたんだろう」
「むしろ俺が聞きたいところだね」
「頼れる両親を亡くしたからなのか、襲撃に怖気付いたのか、王になるのが嫌だったからなのか」
「うーん」と伯は続ける。
「襲撃に怖気づいた、はないかな。言ってなかったし報道もされてなかったけど、一応王族だから姫サマも何回か襲撃は体験してる。ま、本人が強いから、護衛なんて要らなさそうだけど」
「…家族から、慣れた環境から離れるのは、すごく勇気が要りそうだね」
白兎がポツリとつぶやくと、その場が静まり返った。竜花は白兎の横顔を静かに見つめる。しばらく街の喧騒が場を支配する。伯は突然手を叩く。その音で白兎と竜花はびくりと肩を揺らす。
「!?」
「今日はお祭り!その場におらずとも国民から愛される姫サマのお誕生日を祝う祭り! シリアスな感じはやめて、楽しく笑顔でいようぜ!」
「…! うん!」
白兎は伯の言葉を聞いて、パッと明るい返事をした。それを安堵したように見る伯は楽しげに続ける。
「よぉーし! 別名、誕生祭の目玉である舞を見に行こう!」
「舞?」
「そう! 本来なら本人、六花サマが踊ってたんだが、いないから代わりに王サマが代役をするんだ。代役もかれこれ3回目だよ! 誕生日を祝ってくれたお礼として異能力を応用しながら美しい舞を披露するんだよ」
「王様!? まだ見たことない!!」
「初めて見るな」
「あっ…そうだよな、うん…」
「「?」」
「ま、楽しみにしとけばいいと思うよ」
白兎と竜花は、この間会った医者を装っていた唯斗がこの国の王だということはまだ知らない。なんとなく面倒な状況を予測する伯。ふと、伯は都合よく唯斗が言っていたことを思い出す。
先頭を歩いていた伯は後ろの白兎と竜花に向き直り、ニコニコと笑みを浮かべていた。
「そういえば、俺の護衛『雪まつり付近』までだったよな! 多分この人の流れに乗っていけば、会場まで着くから」
伯は打算的に別れを切り出したが、そうとは知らない白兎と竜花は少し寂しげに伯に声をかける。
「お別れ…ですか」
「なに、また会えるよ」
「伯、帰りは気をつけて」
「お互い様な、竜花。2人とも楽しんでいってくれよー」
「ありがとうございました!」
久しぶりに2人になった白兎と竜花。寂しい気持ちと懐かしい気持ちに包まれ、白兎が前を歩こうとすると。
「竜花さん?」
竜花は白兎の小さな手を掴んでいた。
「人混みだし、念の為だ」
「! はい!」
白兎の心は温かいもので満たされていた。
◆ ◆ ◆
会場は階段のように観客席があり、背の低い白兎でもステージは見えた。だがかなり遠いし、人が沢山いて圧巻だ。
「うわぁ…人がぎゅうぎゅうですね」
「何かあったら直ぐに叫ぶんだぞ」
「分かりました!」
観客の動員が終わり、少しした後、どこからか声が聞こえてきた。
「この度は我が姉、六花の誕生祭雪まつりにお越しくださりお祝いしてくださりありがとうございました。この唯斗が代わりに御礼申し上げます」
「この声…」
白兎は聞き覚えのある声に思わずつぶやく。一方、竜花は普通では無い声の聞こえ方から、異能力により声を大きく聞こえやすくしているのかと考察していた。観客からは拍手が聞こえる。しかし近くの席から悪意の籠った声が聞こえた。
「なにをふざけたことを。自分で姫様を遠ざけて押しのけたくせに」
「忌まわしい……」
その声は一部でだんだん大きくなって、ステージ上でまだスピーチをしている王の耳にも入った。王もさすがに黙る。すると王は、大きな白い火の玉を右手に出現させる。観客がざわつく。白い火の玉は拡散し、確かに方向性を持って飛ぶ。火の玉はスピーチ中に文句を口にしていた者の目の前に来ていた。
「これから行われる舞は、『姉上を祝ってくださった方に対するお礼』です。『姉上の誕生日を祝う気持ちのない者』にこの会場への出入りを許しておりません。即刻立ち去れ」
「そうだそうだ」
「いまはそんなことよりも六花様のお誕生日をお祝いする場なのだ!」
「考え無しが! 場を汚すなー!!」
観客からも王の発言を支持する声が大半だった。
ざわつきの中、その警告で何人かは渋々出ていく。そして入口から人がさらに入ってきてその空白を埋めていく。
「待っててよかったー」
「今年は見れるなぁ」
まだ並んでいる人がいるらしい。それほどまでにこの舞には価値があるのだと感じられる。
「気を取り直して、我らが姉、六花の誕生日を祝おう」
花火と共に王はパフォーマンスを始める。見慣れない白い衣服が揺蕩い、手首につけている鈴がシャランと涼し気な音をたて、空からはキラキラ輝く光の粉が降り注ぐ。
とても、綺麗だった。
彼に目を奪われていると、隣のおじいさんが声をかけてきた。
「そこのおふたりさん、『返納舞』をみるのは初めてかい?」
「あ、はい」
「ちょいとこの老いぼれが解説をしてやろう」
「唯斗陛下は『夏』の異能力者で、熱や火、気分の高揚に関わる力なんじゃ。この光の粒も、色が違うように見えるじゃろ。普通火というのは温度や燃えるものによって色が変わる。この無限のような数の火の粉の条件を変え、さらにわしら観客に火傷を負わせないこの異能力の扱いの巧みさは滅多に見られないぞ。もちろん陛下の舞も美しいが、それらを際立たせる異能力がとても高度なのじゃ」
「でも、……本当は『冬』の異能力者である六花姫がやっていたんですよね。どんなものだったのでしょうか」
「六花様の異能力も素晴らしかった。だがわしが最後に見たのは今の唯斗陛下より数年若かったから、異能力の練度と言うよりかは六花様の舞が美しく、かわいらしかった。六花様は今の唯斗陛下のこの光の粉のように、氷の粒を変形させて空から振らせておった。氷で複雑で美しい構造物を作り上げたり、異能力でないと溶けない氷で冷たさを感じないもので小物を配布していた時もあったな。あれはガラス細工よりも透明で頑丈で良いものだったなぁ。幼き唯斗陛下も、六花姫から小物を貰って大層お喜びになられ……、配下にも自慢していたものだ」
熱弁するおじいさんと若干距離を置きつつも、白兎と竜花は王様、唯斗の舞に心を奪われていた。
ふと、引っかかる。
「『唯斗』陛下?」
記憶を探る。確か、今日会った医者も唯斗と言う名前ではなかったか。声も見た目も、……顔はあまり覚えていないが、髪の感じが似ている。
そして演舞が終わり、王が礼をすると多くの拍手が飛び交った。そして、おかしなことに、白兎と王の目が合って微笑まれた。その微笑みは、顔を覚えていなくとも、明らかに既視感があって。
「……え?」
王族愛が強いおじいさんに白兎は思わず尋ねた。
「王様ってお医者様も兼業してたりします?」
おじいさんは、「はて?」と不思議そうに首を傾げた。




