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操魂のまほうつかい  作者: 星川護
四季国編
12/13

12 座するにふさわしいもの


 「唯斗(ゆいと)兄様(にいさま)



 白兎(しろう)たちが城をたってから、少ししたあと。

 支桜(しょう)は国王補佐として、いつもより少し多い書類を執務室に運び込んでいた。執務室には支桜の兄、唯斗が座し、静かにペンを走らせていた。唯斗は彼女の呼びかけに応じず、作業を進める。


 「今回の雪まつり強行に対して、批判の意見書が何枚か届きました」

 「…さすがに今回は少ないな」

 「姉様(あねさま)のまつりですものね」


 唯斗は一番上に上がっている紙の束を手に取り、さらっと目を通す。慣れたものだと紙を戻し、中断していた書類に目を戻す。


 「内容はいつものだな」

 「そうですか…」


 護衛がいながら王族の誘拐事件があり、一般人にも危険が及ぶ可能性がありながら、雪まつりを強行した。今回はさすがに強引すぎたと思った。お咎目(とがめ)の100個や200個は覚悟のうちだった。…双子の姉の六花(りっか)を立て、弟の唯斗を下げるだけのものも含めて。

 なかには、『姉が嫌いな唯斗が姉を貶めるために、国の宝の一つである雪まつりをぞんざいに扱ったのではないか』とも書かれていた。

 そんなことは決してない。


 唯斗にとってそんな比較はどうでもいいが、実際、姉より自分が劣っている自信は誰よりもある。今更いわれようがどうでもいい。



 「そういえば。兄様(あにさま)。どうして正体を明かさず、医者などと白兎さまに嘘をおつきになられたのです?」


 支桜は白兎たちに自ら、国王の妹であること明かしていた。

 だが、唯斗は初めから医者を名乗り、医者として二人を連れてきたのだ。白衣を着ていたのは、城から離れている、異能力を用いた研究施設からふらりと出歩いていたからであり、そのときさらわれたのは偶然だったのだ。


 「国王であることをおふたりのみに伝えることも可能でしたでしょうに」


 あの場から脱する時に、民間人の誘導は駆けつけた兵士たちに任せていた。白兎がどこかに行く前に、つなぎとめるために、唯斗はさっさと白兎たちと孤立し二人を連れてきたのだ。

 別に医者と名乗らずとも、『私は王様です、異能力が暴走して命に関わるかもしれないので、城の確かな医療で助けたい。一緒に来てくれ』と言えば、あの竜花の様子ならついてきてくれたように思える。


 「…たとえ、記憶をなくしていても、彼女の前で『自分が王』などと、口が裂けても言えない。言われる前にその者を殺すか、自決する」


 王の座には、六花が座るべきなのだ。





 六花と唯斗は双子の姉弟だ。六花は『冬』の異能力を、唯斗は『夏』の異能力をもって生まれた。

 六花は幼い頃から、武芸、異能力、頭脳、社交性を併せ持ち、有り余る異能力の観点からも彼女が次代国王になるだろうと噂されていた。そのころから唯斗は六花を敬愛していて、自分が王の座につくなど微塵(みじん)も思っていなかったのだ。


 ある日、六花と唯斗、妹の支桜と兄の天斗(あまと)、そして彼らの両親である当時の国王夫妻が公務を休み、家族で花畑にピクニックしにいった。もちろん、最高の警備のなか伯や(れい)のような護衛もいた。

 その日はちょうど花畑の花が全て花開いていた。『春』の異能力をもつ支桜の心情に影響を受けていたのだろう。普段、公務や学び、他人との交流に時間を割いていた彼らは、とても楽しい時間を過ごしていた。


 ___あの男がくるまでは。



 六花と唯斗、支桜が花冠を作り、天斗と父母に贈ろうと、父が花冠を受け取った瞬間。いち早く何かを感じとった六花が血相を変えて、耳を刺すように叫ぶ。


 「お父様ッ!! お母様ッ!!」


 兵士が何人か父母の前に固まり、そして血を流しながら全員同じ方向に体を曲げる。

 全員が恐怖に包まれた瞬間だった。

 兵士は父母に凶刃が届かないように壁になろうとしたが、その心虚しく、父は胸を貫かれていた。母は支桜を即座に突き放し、同じく貫かれる。


 _…なんとか、子供たちと一部の従者は生き残ることができたのだ。従者に強引に手を引っ張られ、冷えきった二人が放置されたその場から、結界のある城(安全圏)に連れていかれた。あの時の支桜の泣き声は忘れられない。


 国王が凶刃に倒れ、国内は荒れた。

 天斗は、王族の年長者として、外回りの公務に必死に取り組んだ。対して六花は取り憑かれたように書類に関する公務に毎晩毎晩寝ずに取り組んでいた。唯斗と支桜は六花の手伝いをし、とにかく別のことを考えようと躍起になっていた。

 寝不足で限界の六花を支桜と唯斗で捕まえて強制的に同じベッドに寝かせたこともあった。六花に直接触れると凍ってしまうので、毛布は3人別のものを、ぐるぐる巻き三本で川の字になって寝ていた。六花は家族を大事にしていたから、逃げたら、六花に直接触れてしまうと脅しもかけて。


 そんな様子で2年が経過した。

 2年の間国王が存在せず、さすがに決定するべきだと民が陳情した。その時、大きくふたつの派閥にわかれた。

 序列の高く、能力も高い『冬』の六花を王とする派閥。

 同じく序列が高く、能力の制御が巧みで、六花までではなくともある程度本人の能力が高い『夏』の唯斗を王とする派閥。

 唯斗は当事者でありながら六花派として活動していたのにも関わらず、唯斗派は消えず、六花自体が唯斗に譲ろうとしていたのでなかなか決まらなかった。


 そんなある日、六花は行方不明となった。

 さらわれたのでは無い。唯斗と支桜の目の前で、六花自身の意思で、行方不明となったのだ。

 もちろん二人は止めようとした。だが、能力を先打ちされて抗えなくなってしまった。彼女は王族、『冬』の能力者である証であり、魔力制御装置でもある首飾りを無謀にもその部屋に捨て、城から出ていってしまった。しかも入念なことに、王位が唯斗に渡ることを了承する正式な紙まで用意して。

 すごく辛そうな表情をして、いなくなってしまった六花。

 どうしてあのタイミングで、姿を消すことを決心したのか、何も分からないまま唯斗は正式に王位を継承したのだ。




 今でも信心深い『六花派』の残党が、唯斗を見定め批判をし、一部の過激なものは唯斗を陥れることだけを目的として意見書を送ってくる。


 だが今回の意見書の量が少なかったのは、雪まつりは六花の誕生日で『篝火』だからだろう。『六花派』のものも六花に戻ってきて欲しいと願いを込めているのだ。





 誘拐されて、いや、誘拐された『フリ』をして良かった。


 唯斗と伯の前に現れた間者は、ギリギリ感じ取れるぐらいの微量な『冬』の力を纏っていた。恐らく、『冬』の異能力者と接触したものと同一人物、あるいはその仲間だったのだろう。

 僅かな可能性に掛けるため、唯斗側がわざと負けるよう、試作品の異能力に対する耐性を下げる魔法道具を発動させた。城に務めるものは、どのような異能力でもある程度耐えられるように訓練するため、二人には本来異能力の効き目が悪い。

 魔法道具が役に立ったのか、見事に敵の異能力が効いたというわけだ。



 意識が浮上する。

 目を閉じていてもわかった。

 『冬』の能力を持つ者が、この場にいると。どうせなら魔力の気配がここら一体に充満している。やろうと思えばこの部屋を冷凍室に変えられるだけ、魔力が充満していた。

 恐らくその発生源と思われる者を見る。


 「…!」


 唯斗は限りなく目を見開いた。

 間違いなかった。

 なんでこんなところに。でも、また会えてよかった。


 あどけない表情で拘束されながら眠るその少女の姿は、唯斗の姉である六花の幼い頃に酷似していたのだ。


 少女からは何故かずっと純粋な魔力が少しづつ流れ出ていた。六花のときは、彼女の魔力と『冬』の異能力に一部が変換されていた冷気のような魔力だったのに、少女から漏れ出す魔力は、ただ彼女の魔力のみだった。

 間者から感じ取った『冬』の気配は、この魔力が充満した部屋で一定時間過ごしていたからだろう。

 この程度の魔力流出は、彼女の体にあまり良いものでは無いが、あの眠っている少女は、六花よりも自分の異能力の扱いが巧みであることはわかった。六花は無意識で常に異能力を使っていたようなものだったから。


 ふと一瞬誰かの視線を感じる。そちらをちらりと見てみると、ただの娘のようだった。

 唯斗はだてメガネをかけ、白衣を着て、人前で晒しているような王族の姿からはかけ離れている。それにメガネには、もとより正体を知っているもの以外に発動する軽い認識阻害がかけられている。兄妹らや伯や零、六花ぐらいでなければ、ただの一般人に見えているはずだ。

 娘に警戒していると、かの少女の一番近くにいた長髪の男が目を覚ましたのか動き始め、少女に近づいた。少女も目覚めて男と近いままだ。

 かれらは知り合いなのだろうか。



 「…『先生』?」


 伯が小さな声で唯斗に声をかける。唯斗の正体がバレないように偽りの身分で話しかけてきてくれた。


 「お怪我は?」

 「ない」

 「緊急信号がだせませんね」

 「そうだな」


 もしもの時に城や異能力者に知らせるための緊急信号が出せない。この空間は魔力を一切通さないようだ。だからこそ、かの少女の魔力はこの部屋に充満している。


 「…先程からあの子みてますけど、どうかしました?」

 「…。何も感じないか?」

 「……はい?」


 何かを感じ取ろうとして不自然な間が空いたのか、だが伯は何も感じてないらしい。『彼女』のときは伯も力を感じていたというのに。やはり、純粋な魔力であれば唯斗のような『四季』の異能力者でないと察知できないのか。


 そのうち大男が少女に興味を示した。おそらくここの親玉なのだろう。どのような顔をしているのか見ると、ひとたび見ただけでわかった。両親の仇は『あの日』から姿は変わっていないようだった。だが、言語機能に問題がありそうで、少女に近づこうとしていたのが分かった。

 少女が『冬』の異能力者だと気づかれる、あるいは、六花と似ていることを悟らせてはならない。唯斗は縛られた状態で大きな音を出し、暴れた。予想通り、かれらは唯斗を痛めつける。その間、少女がすごく痛そうな表情でこちらを見るから、唯斗は心配をかけないように微笑み返した。


 (…人を心配する表情まで似ている…)


 彼女がこちらに来ようとしたせいで、彼女の髪が無作法な男に無造作に引っ張られ、苦悶の表情を浮かべていた。掴んだやつは殺そうと思った。

 しかし、威圧感のある青年が乱入してきて、白兎に密着し、唯斗がしようと思っていたことを代わりにした。

 彼の威圧で、他の一般人は気絶していた。だが、初めに視線をなげかけてきた娘は意外にも意識を保っていた。それより、怖いくらいに冷静に彼女は乱入者を見ていた。


 乱入者、八尾は今の少女について一方的に知っているようだったが、少女は八尾に対して怯えていた。いつまでも、危険な男と共にはしておけない。重圧の中動こうとすると、ちり、と拘束された手首が熱くなった。そして、何かが、血が流れる感覚。


 「…!」


 先程男を攻撃した銀糸が唯斗の手首を擦れた。何者かが意図的にしたものなのだろうか。だが八尾はそのような素振りは見せていないし、少女に夢中のようだった。

 ならば、八尾の『協力者』が紛れ込んでいたのか。

 少女と八尾の方へ行かなければいくら動いても銀糸は現れなかった。それに気づき、伯と共に犯人の捕縛をする唯斗。

 少女と八尾を邪魔するものを排斥するために、銀糸の罠が敷かれている。


 今意識を保っているものでそのようなことをするもの。

 伯は、無いだろうから除いておいて。

 少女も親しげにしていた男も無いだろう。

 八尾は少女に夢中。

 残ったのは。


 再び娘を見るが、相変わらず手が後ろに固定されており、銀糸を操るなど到底できそうにない。

 だが、確実に伏兵はいると考えた方がいいだろうと結論づけた。


 少女は突然人が変わったように振舞った。八尾は忌避しているようだった。

 __そして異能力が発動する。


 間違いなく、『冬』の派生能力の氷魔法だ。


 だが、唯斗の姉である六花とは異なる魔法の波長だった。この少女の魔法は、(やお)に対面しているからなのか、刺々しく、殺意に満ちていて氷柱(つらら)のようだ。八尾に対して少女は劣勢のようだが、加勢したい唯斗は先程の銀糸のせいで八尾と少女に近づけない。八尾は先程までの優しげな表情とは異なり、嘲るような馬鹿にするような表情を彼女に向けていた。少女もその事に気がついているようで焦っているようだった。

 それよりも、少女の力が先程よりも辺りに濃く漂ってきている。八尾が穴を開けてきたというのに。魔力の密度が大きくなってきたせいなのだろうか。

 少女は何とか力をコントロールしていたが、ちょっとした拍子に、一瞬でこの場の全員を骨の髄まで凍らせてしまうことが出来てしまうくらい魔力が濃い。少女はむしろ力のコントロールに注意を割きすぎていたのかもしれない。なぜこれほどまでに魔力が周囲に放出されているのか。

 恐らくだが、異能力者初心者に多い症状。身の丈に合わない力を酷使したことによる魔力漏洩。だがあの様子が変わった少女は、力のコントロールや攻撃を巧みに行っていた。彼女自体が初心者だとは思えない。いったいどういうことなのか。


 結局八尾は自らその場を去った。


 少女はそのまま男に少し何かを話したあと目を閉じ、男にもたれかかった。ちょうどその頃、捕縛された被害者の拘束をとき、加害者の捕縛を行ったが何人か姿を消していた。姿を消した人間の中には、あの不思議な娘と憎むべき『あの男』がいた。どう考えてもあの娘は徒人ではない。

 それよりも少女だ。意識を失ってしまったのは、魔力が枯渇してしまったからではないのか。長期間魔力が枯渇状態になると体の不調だけでなく命にも関わってくる。


 「待ってください」


 立ち上がり去ろうとした男、竜花の足を止め彼らを城につれて行くことが出来た。

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