告白
亜美に告白をしたのは、修学旅行一日目。長崎に行く前に行った熊本の旅館だった。
大輔は「直樹告白大作戦」というそのまんまの作戦を勝手にたて、勝手に盛り上がっていた。当の本人である僕には、なんのアドバイスもなく。
熊本の旅館は、本当になんの変哲もない普通の旅館で、周りにコンビニさえない立地条件だった。
僕は告白するとは決めたものの、なんの作戦も戦略もなく、ただひたすら緊張していただけだった。
そしてその緊張が原因で、不覚にも僕は夜ご飯を食べるや否や、部屋で眠りに落ちてしまった。
亜美たちのグループの部屋でゲームをする約束をしていたにも関わらず。
一生の不覚だ。
しかし、それが功を奏したのか。もしくは、これが大輔のたてた「告白大作戦」だったのか。
僕が真っ暗な部屋で目を覚ますと、彼女がいた。
「おはよう」
彼女は僕に向かってにっこり笑った。一気に目が覚めた。
途端に、顔が上気した。彼女に寝顔を見られていた?
「お、おまえなにやってんだよ!」
「え、タッチーたちが起こして来いって言うから起こしに来たのよ」
「だったら起こせよ!」
あいつ殺す。
「いや、よく寝てるなって思ってちょっと見てたんじゃん」
これがあいつの「告白大作戦」なのか?というか、一言相談してほしい。
「うちらの部屋行こっか。みんな待ってるよ」
彼女が立ち上がってドアの方へ向かった。このままでは、作戦が失敗に終わってしまう。そんなわけにはいかない。大輔に後で何を言われるかわからない。
「新井」
思わず呼んでいた。彼女が振り返る。
「何?」
「あのさ」
とは言ったものの、何度も言うが告白なんてしたことがないのだ。戦略も戦術も練っていないのだ。なんて言ったらいいのかわからない。僕はここで初めて告白の言葉を考え始めていた。
やばい、やばい、やばい。
彼女は呆然と僕を見ている。でもこの状況は明らかにあの状況でしかないと思う。彼女は気づいているのだろうか?僕がしようとしている事を。
「好きなんだ」
思わず、焦って出た言葉だった。というか、もうこの言葉しか思いつかなかった。だって、この気持ちしかなかったのだから。
彼女の顔を見るのが怖い。どんな顔してる?僕は布団を握りしめながら、もう一言絞り出した。
「俺と付き合って」
彼女を見た。相変わらず、呆然としている。けれど彼女の口はこう動いた。
「うん」
その後、何を言ったのかも、自分がどんな顔をしていたのかも覚えていない。ただ、彼女の呆然としていた顔が、笑顔になったのをはっきり覚えている。彼女の表情で、一番好きだったのが笑顔だった。
今でも変わらず思い出す、亜美の笑顔だった。