相談
あの日以来、亜美に会うたびに、僕の心は騒いだ。窓際の一番後ろの席から相変わらずの違和感を漂わせる彼女を見つめ続けた。
亜美を好きになってから、何度も不思議な感覚に襲われた。
たぶんこんなささいな違いは、自分以外誰も気づいてはいなかっただろう。ほんの一瞬でも見逃さず彼女を見つめていた僕以外には。
あの日、特別になった瞬間の「亜美」と、それまでの友人だった時の「亜美」。亜美に会うたびに、交互に二人の亜美に会っているような感覚。まるで別人の二人と一緒にいるような。
それはきっと、亜美の魅力なのだろう。天真爛漫な亜美と、清廉可憐な亜美。
僕の好きな亜美は、いつも突然姿を現し、今までの優等生の亜美とは違って、楽しくて、ちょっとぼけてて、かわいくて。
他の男が亜美を見るのが耐えられなくて、いてもたってもいられなくて、自分のものにしたくて仕方なくて。
あの日から、告白する瞬間を何度も狙った。他の男に先を越される前に。
しかし女の子とつきあったこともないし告白したこともない当時の僕は、あの男に頼るしかなかった。
「おまえ、新井のこと好きだったの?」
大輔がすっとんきょーな声を上げた。「すっとんきょー」以外、他に言い表せない声だ。
「まじで?いつ?いつから?」
好奇な顔で大輔が聞いてきた。
「え~と、十月…九日のHRから?」
「ええ?何それ?なにその細かな日時指定!しかもまだ先週じゃん!」
僕は恋をしたのは初めてだったので、そんな日時指定的な恋に落ちるのがおかしいことにまったく気づきもしてなかった。
「へ~。そうかーお前が新井をね。そりゃいいや」
「何がいいの?」
当時の僕はまったくの恋愛音痴で、大輔がイノッチを狙っていたなんてまったく気づいちゃいなかった。この時の大輔の言葉の意味を知るのは修学旅行に行ってからだ。
「がんばれ!」
「それでさ、告白ってどうすりゃいいわけ?」
僕の真剣な問いかけに大輔がおおよそ知的とは言えない顔で答えた。
「え~?普通に告ればいいじゃん」
「普通って?」
「え~?普通俺とつきあってくれとか言うんじゃないのぉ?わかった!じゃあさ、俺がなんとか二人っきりにしてやるから!その時言えよ」
「え!いつ?」
大輔は少し考え、名案が浮かんだとでも言うように笑顔になり、言った。
「修学旅行」