出会い
新井亜美と出会ったのは、高校の入学式だった。
いや、出会ったというよりも、ただ、一方的に「見た」に近い。
入学式、母親と一緒に学校の門をくぐった。
同じ中学の友人も何人か同じ高校に入学したので、友達を作る不安は特になかった。ホームルームが終わって帰るまで、友人と校門の前でしゃべっていた。
そんな時だ。亜美を見たのは。
桜の下、「入学式」という看板の前で、母親らしき人がカメラを携え亜美を撮っていた。
幸せそうな笑顔で。
亜美を見た瞬間、時が止まったようだった。
友人に、もう帰ろうと腕を引っ張られるまで、亜美しか見えなかった。
当時の自分は女にまったく興味がなかった。
いや、興味がないわけではない。好きなアイドルもいたし、男が好きなわけでもない。ただ、「生身の女」に嫌気がさしていた。
中学生の頃は女が恐怖だった。知らない女が家までついてくるわ、呼び出されて集団で詰め寄ってくるわ。そういう女たちのせいで、中学の頃はまったく女に興味がなかった。やつらは悪魔だ。とすら思っていた。
極めつけは、二歳年上の姉の存在だ。確かに仲はいいが、金がなくなると弟の写真を撮って売るわ、携帯の番号を売るわ、散々食い物にされた。身内だから容赦がない分たちが悪い。
そんなわけで、女嫌いになるのは当然といえば当然だった。
そんな僕に、どうして亜美が目に入ったのか。
「見た」ことがあったから。どこかで「見た」ことがあったからだ。
その時は、それがどこだか思い出せもしなかったけど。
「じゃあな、直樹。俺たち寄るとこあるから」
「またね」
店の前で大輔と彩花と別れた。二人の後ろ姿を見送る。自然に腕を組み、歩き出す二人。
一度別れたことがあるのは大輔に聞いていた。それでもまた復縁し、結婚する。生涯の伴侶になろうとしている。
そこにいて当然の雰囲気。自分にはもういない。できない。
つくるわけにはいかない。
直樹は新宿駅に向かって歩き出した。週末の新宿のひどい混雑にため息がもれる。
今日は朝から悪い夢を見て、打ち合わせも何件も続いたせいで、二人と別れた途端体がどっと疲れたのを感じた。幸いにも、ホームに降りると新宿始発の電車が止まっていたので空いている席を見つけてあわてて座る。座った途端、直樹は目を閉じていた。
ここのところ、目を閉じると浮かんでくるのは亜美の顔だった。亜美の七回忌が近いせいなのか、何度も思い出していたせいでもう癖になったのだろうか。思い出す亜美の顔が笑顔だということがまだ慰めだった。
亜美の顔を思い浮かべながら、直樹は高校時代を思い出していた。
今でも目を閉じればすぐに思い出すことのできる、あの苦く幸せだった思い出を。
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