対面
夢を見た。
それはいつもの夢ではなかった。真っ暗闇というシチュエーションは一緒だった。けれど、倒れている亜美の姿は無く、あるのは向かい合った椅子だけだった。
そして直樹は片方の椅子に座って誰かを待っていた。
どんなものが向かいに座るか。それは、どんな恐ろしい悪夢なのか。
なんてことはない。そこに座ったのは自分だった。
—なんのようだ?
ソレは言った。僕は言葉がでない。ずっと隠してきた。ソレを心の奥にしまって出て来れないようにしていた。
—何を怯えている?俺が何を言うかわかっているんだろう?
「何も言うな」
—お前が俺を招待したんだ。今更それはない。
「言わないでくれ」
—お前が何をしたかを?
—お前は何もしてないじゃないか。…いや。何も言わなかったというのが正しいか。
「やめろ」
—何も言わなかった事がお前の罪だ。
「やめろ!」
—言えよ。彼女が殺したんだと。
「違う!」
—何が違う?彼女を追って亜美は死んだ。
「彼女は何も知らない!」
—だがお前は知っている。
「…」
—彼女に言ってやれ。お前が亜美を殺したんだと。お前が俺の恋人を殺したんだと。
「違う」
—何が違う?お前は恋人を殺されたんだ。憎いんだろう?彼女が
「…」
—お前は彼女を憎んでいるんだろ?今まで、お前を騙し続けていた彼女を。
「違う」
—殺してやりたいくらい憎いんだろう?
「違う!」
—何が違う。何が違うのか言ってみろ。お前は何が違うと言うんだ?
「彼女のことを…憎んでいない」
—なぜだ?恋人を殺されたのになぜ憎まない?
「…あれは事故だった」
—事故だって?でもお前の恋人は彼女を追いかけて事故にあったんだろ?彼女のせいで事故にあったんだ。なのに彼女が憎くないのか。
「憎くないんだ」
直樹は顔を手で覆う。その手は震えていた。
—お前は何故そんなに震えている?怯えているのか?何を恐れている?
恐れている。ずっと、恐れていた。
—お前が一番恐れている事はなんだ?
一番恐れている事。
それは…
「彼女に…知られる事」
—何を知られる事だ?彼女が亜美を殺した事をか?
「違う…」
—ではなんだ!




