変化
大学三年の三月一五日。悪夢を見るようになってから、直樹のすべてが変わった。
何が?と聞かれてもわからない。けれど、変わったという事は間違いなかった。
変わった事は自分でもわかっていたし、家族や友人も口を合わせて言った。
「お前、変わったな」と。
大学の友人達とは、更に表面上だけの付き合いになった。
香奈に別れを告げたのも、あの日のすぐ後だった。
香奈も気づいたのだろうか?直樹が変わってしまったことを。
だからすんなりと頷いたのかもしれない。自分の目は、きっと香奈に向かって言っていたのだ。
お前じゃない、と。
亜美がなぜ彼女の事を追いかけたのかはわからない。そして、なぜ彼女が亜美から逃げるように走っていたのかも。
でも直樹は、自分が亜美を殺したとしか思えなかった。どれだけの人にお前は悪くないと言われても、どうしてもそうとしか思えなかった。
どうしてそう思うのか、その理由を考えようとすると思考は停止した。
だって自分が悪いのだから。それ以外の理由などいらない。
恵美の存在を知ってから、何度も彼女の家に行きたいという衝動に駆られた。
決して行く事はなかったが。
この感情はなんなのか。
それを、考えようとしても、思考は停止し続けた。
「特別な亜美」が恵美だと分かった瞬間、浮かんだ恐ろしい考え。
今は思い出す事ができない。
彼女のことが、憎いのか。
自分は、彼女に会ってどうしようというのか。
…殺したいのか。
考えようとすればするほど、眠りに襲われた。
そして、その眠りは悪夢を連れてきた。
夢は続く。
直樹の目はいつも足下の亜美から、背中を向けて立ち去る恵美に向かう。
なぜ。直樹は思う。
なぜ、逃げていくのか。
待ってくれ。
直樹がいくらそう思っても、声は出ない。
そして、彼女が振り返る事もない。




