プロローグ
夢の始まりは、三月十五日。
堪えきれなくなって、暗闇の中、目を覚ました。
まるで夢の続きのように心臓がうるさく鳴っている。静まり返った部屋で時計の秒針の音がいやに大きく聞こえる。
久しぶりにまた、あの夢を見た。
Tシャツが汗で滲んでいた。
あの夢を見たあとは吐き気がひどい。起き上がり、キッチンのシンクに向かって嗚咽を繰り返す。
冷蔵庫から水を取り出してペットボトルのまま飲み干した。
冷えた水が体を通っていくのを感じた。身体が落ち着き始め、またベッドに戻る。
この二年、一体何回この夢を見ただろうか。
山内直樹は暗闇の中、ベッドにもたれてタバコに火を点けながら思った。
見なくなったと思ったら、またフラッシュバックのように思い出す。
まるで戒めのように。
タバコの匂いに包まれて、ようやく落ち着きを取り戻した。
時計を見ると、朝の五時すぎだった。外はまだ暗い。眠気は覚めてしまった。
直樹は立ち上がり、玄関のドアポケットに入っている新聞を取り出した。何かしていなければあの夢が頭を駆け巡る。電気をつけて新聞を読み始めた。
一面の経済の記事を読み始めた時に、ふと、すぐ上にある今日の日付が目に入った。
二月十四日。
突然、蘇る思い出に苦痛を感じて目を閉じた。
あと一ヶ月で、あの日が来る。
あの残酷な日が。