表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

だから、そう言う事だよ

作者: 所 滝高

近くにはお笑いや演劇の小劇場。商店街の路地を一つ曲がると見渡せる飲み屋街。活気がある風情からは外れた場所にその店はある。

『カランコロン』

店の扉が開き、一人の客が店に入って来てカウンター席に座った。同じカウンター席に座る高志とさくら。高志の視線からは対面である事から違和感に気づき、さくらに顔で『観てみろよ』と合図するように顔を横に振ってその客の方を指した。さくらは、その客を見てから直ぐに向き直り、高志に驚きの表情を見せた。二人は、俯き加減で視線だけはその客に焦点を合わせていた。

その客は、席につくなりビールを二つ注文すると、矢継ぎ早に喋っている。時折、視線が気になるのか、高志とさくらの方をチラッと見ては鬱陶しいそうな表情をしながらも再び喋っている。

いつの間にか顔を上げていた高志とさくら。その客の事を物珍しそうな顔で凝視するものだから、堪りかねたその客は高志とさくらに対し怒りを露わに怒鳴る。

『何だよ、さっきから私の方を見て』

すると、高志とさくらは顔を見合わせ『あっ、いやっ』と予想外の怒り露わな怒鳴り声にモジモジとするばかりで返答出来ず。

『何なんだよ、こいつら』

そう言うと、その客は『マスター、ツケで』と言い、高志とさくらの方を見て舌打ちしながらお店を後にした。

その客が出ていった後、二人は暫く顔を見合わせていた。あの客の怒鳴り声の名残が残り身体は強張っていた。残っていたグラスのお酒を一気に飲み干すと、落ち着いた所で高志が恐る恐るマスターに質問した。

『あのお客さん、誰と喋っていたんですかね?』

おかしな人が来店していたのかと思っていた高志とさくら。すると、マスターがひと言。

『さぁね』

高志とさくらは再び顔を見合わせた。ビールの残ったグラスを片付けながら、マスターが付け加えるようにひと言。

『ところで、君らはあの客が話しかけている方は見えなかったのかい?』

高志とさくらは、頭の上に『?』が浮かんでいた。

『話しかけている方?』

『見えなかった?』

高志とさくらはマスターの問いを理解出来ず、三度(みたび)顔を見合わせた。

『だから、あの客が話しかけていた方だよ』

何を言っているのか益々理解出来ず、二人ともお酒の酔いも相俟ってか思考が停止したように黙り込む。

『だから、そう言う事だよ』。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ