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5.平行線なようです


 どうしてこうなった。


 目の前で恭しく礼をする令嬢を見ながら、心の中では頭を抱えた。


 コリンナ・シュタッフェル侯爵令嬢はロゼリアの姉で、ディートハルトと同じ17歳だ。

 彼女は明るく社交的、美人で所作も美しい。『貴族令嬢の鑑』と言われるほど優秀で評判の良い人物である。


 王太子妃に最も近いとも言われている彼女も確かに生徒会書記として相応しいだろう。相応しいだろうが⋯⋯ディートハルトが求めていたのはロゼリアだった。


「⋯⋯イシス。何故コリンナを勧誘して来たんだ」


 こっそりと耳打ちすると、彼は不思議そうに瞬きをした。


「え? 殿下がおっしゃったのではないですか。『シュタッフェル侯爵令嬢に書記を頼みたい』と」


 なんてことだ。


 ディートハルトの中ではシュタッフェル侯爵令嬢(イコール)ロゼリアだったが、イシスの中ではシュタッフェル侯爵令嬢(イコール)コリンナだったらしい。


(そんな勘違いが起きていたなんて⋯⋯。ロゼリア⋯⋯)


 だが、メンバーの顔合わせも済んだ今、間違えてたからチェンジなんて出来るはずもなく⋯⋯。


「⋯⋯よろしく頼む」


 顔はいつもの無表情なディートハルトだったが、いつもより落胆した声色で挨拶を返したのだった。




 ◇




 ルペリオ暦628年10月4日


 ディートハルトは今日もロゼリアを観察している。


 ⋯⋯というか、生徒会での接点が無くなり、もはや密かに観察をすることでしかロゼリアを拝む機会がないのだ。


「⋯⋯今日は、空が青いわね⋯⋯」


 ぼんやりと空を眺めながら幸せそうに目を細めるロゼリアが可愛い。


 コリンナも魅力的な女性には違いないのだろう。でもやはりディートハルトは、おっとりとしていて、ちょっぴり抜けていて、小さなことで幸せそうにしている可愛いロゼリアがよかったと思った。


(私とロゼリアの『イチャイチャ生徒会のお仕事タイム』が⋯⋯。ロゼリア⋯⋯今日も可愛い。やはりコリンナとは似ても似つかんな。ロゼリアのが断然天使だ⋯⋯ロゼリア⋯⋯)


 今日もディートハルトはロゼリアに話しかけられなかった。




 ◇




 ルペリオ暦628年10月6日


「学食においしいと評判のメニューがあるのです。たまには学食で昼食を摂りませんか?」


 昨日イシスにそう提案され、今日は学食に来た。


 いつもは王族専用ラウンジで昼食を摂るので、学食は初めてだ。学食専用のメニューもあると聞くので、少し楽しみにしている。


「何がオススメなんだ?」

「ヒレステーキがおいしいです」

「ではそれで」


 ディートハルトが僅かに頬を緩めたのを見て、イシスもホッと息をついたのが分かった。


(⋯⋯気を遣わせてしまったか)


 ロゼリアとの邂逅が無くなってしまって、ディートハルトはここ数日落ち込んでいた。


 表情にはあまり出ないようにしていたが、長年一緒にいるイシスはディートハルトの気落ちに気づいていたのだろう。


 少しでも元気が出るように、気分転換も兼ねて学食に誘ってくれたのだろう。


(やっぱり優しいやつだな⋯⋯って、ろ、ロロロロゼリアっ?!)


 ディートハルトの席から少し離れたところにロゼリアがいた。その向かいにはコリンナもいる。


 どうやら二人は一緒に食事をしているらしい。


(ロゼリアは学食派だったのか。また一つ新しいロゼリア情報を知った。⋯⋯ふむ、メニューはビーフシチュー。なんだかロゼリアが食べているだけで美味しそうに見えるな)


 ディートハルトがロゼリアの方をチラ見しながら食事を始めた時だ。


 コリンナと話していたロゼリアが――――ふわりと笑った。


「――――っ!」


 いつもぼんやりとしている紺色の瞳が柔らかく細められて、ふにゃりとした笑顔になるロゼリアはまさに天使そのもの。


(可愛い⋯⋯)


「⋯⋯? 殿下? 大丈夫ですか? お口に合いましたか?」

「⋯⋯おいしい」

「よかったです」


 神々し過ぎる笑顔に見蕩れたディートハルトは、学食の味は分からなかった。


「明日はビーフシチューにするか⋯⋯」

「気に入っていただけてよかったです⋯⋯?」




 ◇




 ルペリオ暦628年10月21日


 今日のロゼリアの昼食はチキンソテーのようだ。


 どうやらチキンの皮のカリッとした部分が好きらしく、最後に口に入れて幸せそうに咀嚼している。


 好きな物は最後に食べるのがロゼリア式である。


 ちなみにピーマンが嫌いらしく、こちらは早めに口に入れて水で流し込んでいた。


 その嫌そうな顔も堪らなく可愛いと思うのだから、ディートハルトは相当ロゼリアに溺れているのだろう。


 そんな風にロゼリアを観察していたら、視界の端に赤いものがよぎった。


「⋯⋯イシス」

「なんでしょうか」


 いつも通りキリッとした顔で答えるイシス。


「いい加減好き嫌いなくせ」

「⋯⋯それだけは無理なんですよ」


 ディートハルトの皿には、先程まではなかったミニトマトが増えていた。よそ見をしているうちにイシスが乗せたのだろう。


「だいたい、そのぶちっと潰れる感じが嫌なんですよ。皮はちょっぴりがにがにしていますし、中身はどろどろしているってなんなんですか。もうちょっと統一性をもちましょうよ⋯⋯」


(⋯⋯しょうがないな)


 ぶつぶつと文句を言い始めたイシスに苦笑すると、ディートハルトはミニトマトを口に入れた。


「それが美味いんだがな」

「じゃあ全部殿下にあげますよ」


 その仲の良いやり取りを、ジットリとした目で見られていることには気づかなかった。





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