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2.天使に出会ったようです


 ◆◆◆




 ――――4年前




 ルペリオ暦628年5月4日


 5月の風は心地良い。

 暖かく穏やかな風が吹き抜ける。


 その日、バルテッド王国王太子であるディートハルトは、校舎裏に赴いた。


(⋯⋯疲れた。隣国との交流で溜まった政務もやっと終わった。少し休みたいな⋯⋯)


 暖かく穏やかな風が吹き草木が揺れる中、ディートハルトは長いため息をついた。その目の下にはうっすらと隈が出来ている。


 校舎裏にある木々が生い茂るその場所は、他の者からの視線を隠してくれる。ここ最近は普段の王太子業務や学園での生徒会業務に加え、隣国の大使の接待に社交パーティーと、慌ただしい日々を過ごしていた。


 今は昼休みだ。軽く昼寝をする時間くらいはあるだろうと思って行ったその場所には、人の気配があった。


(くそ、先客か⋯⋯。――――っ!)


 心の中で悪態をついたその時、木にもたれ掛かりながら眠る彼女を見て、ディートハルトは息を飲んだ。



 ――――そう、天使に出会ったのだ。


 作り物かと思うくらい白く滑らかな肌、揺れる長いまつ毛、うっすら開いた形の良い桃色の唇。

 シルバーの艶やかな髪が風に靡き、彼女に降り注ぐ木漏れ日はスポットライトのように彼女の美しさを照らした。まるでこの光景が一枚の絵画かのように神々しい。


 (美しい⋯⋯)


 しばらく放心していたディートハルトだが、この光景を壊してはならないと、場を離れる為踵を返した。


(身長は私の胸くらいだろうか。体重はりんご10個分⋯⋯なんてな。⋯⋯本当に美しい女性だった。あの光景を忘れないように何かに書き記しておこう)


 頭の中にはずっと先程の光景が残っていて、暑くも寒くもなく心地良い季節のはずなのに、身体が熱く火照ってくるような気がした。


(彼女は⋯⋯なんと言う名前なのだろうか)


 彼女はこのエルシア学園高等部の制服を着ていた。着けていたタイの色からすると1年生か。


 また、彼女に会えるだろうか。


 同じ学園に通っているのだ、明日は起きている彼女に会ってみたい。ディートハルトは来た時よりも軽い足取りで校舎に向かう。


「――――シュタッフェル嬢」


 途中、すれ違った女子生徒がディートハルトに気づき慌てて頭を下げた後、天使に向かってそう声を掛けていたのを後ろで聞いた。






 ◇




 ルペリオ暦628年5月5日


 王立エルシア学園。

 バルテッド王国王都に広大な敷地を構えるこの学園は、貴族の子息令嬢方が規律や集団生活を学ぶ場として、勉学や教養を身につける為に通う由緒正しき学園である。


 その学園の生徒会長であるディートハルトには、生徒名簿の閲覧権がある。


 天使が「シュタッフェル嬢」と呼ばれているのを聞き、すぐさま生徒会室で名簿を調べた。


(1年生⋯⋯シュタッフェル⋯⋯。⋯⋯あったぞ!『ロゼリア・シュタッフェル』)


 エルシア学園高等部1年2組、シュタッフェル侯爵家次女、ロゼリア・シュタッフェル。それが天使の名前と肩書きのようだ。


 彼女らしい愛らしい名前である。

 きっと『可愛らしい』という意味の『ロゼ』と神話に出てくる聖女『マリア』を合わせて付けられた名前なのだろう。素晴らしいセンスである。シュタッフェル侯爵夫妻に名付け親金賞を与えたいくらいだ。


「ロゼリア⋯⋯」


 ぽつりと漏れ出た声に頬が熱くなる。


 名前を口にしただけで気恥ずかしくなるのは何故だろうか。


 どこぞの教師が書いたであろう『ロゼリア・シュタッフェル』の文字を指でなぞってしまったのは何故だろうか。


 ディートハルトは、生徒名簿から顔を上げると、今日は起きている彼女に会いに行こうと、彼女のいるであろう教室に向かった。





 ロゼリアは、おっとりというか、ぼんやりとした性格のようだ。ぼうっと景色を眺めていたり、静かに本を読んでいる事が多い。


 1年生の教室にて天使を発見したディートハルトは、嬉々として物陰に隠れていた。


(ロゼリアの瞳は濃い紺色なのだな。瞳に映る光がまるで夜空に輝く星のように美しいな)


 話しかけに行けよと思うかもしれないが、彼女が神々し過ぎて、自分があの瞳に映るのははばかられるような気がしたのだ。


 よって、少し離れた場所から観察している。


(⋯⋯今日はまだ話しかける話題が無い。そう、王太子からいきなり話しかけられたら困るだろうからな、今日は見ているだけにしよう。うむ、そうだな、それがいい。⋯⋯だから、もう少しだけ、ロゼリアを見ていてもいいだろうか)


 そのうち声も聞きたいな、なんて考えるディートハルトは、その行為が俗に言う『ストーカー』だという事には気づきもしないのだが。






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