九話、又二郎の策略。後編。
恋は唐突!
「おはよー」
机の上に鞄を置き席につくと、隣で本を読んでいたさつきが僕に気付いて顔をあげた。
「おはよう、昨日は助かったわ」
昨日のデラックスパフェのことだろう。
突然の出来事で驚きはしたが、お腹いっぱいパフェを食べれたので昨日の一件はむしろありがたくもあった。
……思わぬ役得もあったしね。という事実は墓まで持っていこう。
「ううん、こっちこそごちそうさま」
「いいのよ別に、大したことじゃないから」
さつきは笑顔でそういって本を閉じる。
……そういや昨日のパフェってほとんど僕達が食べちゃったけどお金とかいいのかな。よし、また今度お礼でもしよう。
「それにしても、あのパフェ美味しかったなぁ」
おっといかん。思い出したら猛烈に食べたくなってきた。
「私も食べたのは初めてだったけど、あれは美味しかった」
「ボリュームもあったけど、味のほうもかなりのものだったね!」
パフェの味を思い出しながら二人絶賛しあう。
「普段は高くて買えないから、またしばらくお預けね」
「そっか、もう普通の値段に戻っちゃったんだ。またやらないかなぁカップル限定半額」
あの企画は昨日限定だったらしく、今はいつも通りの高額商品に戻っているのだ。
流石にあの高額商品に手を出す勇気と資金はないですな。食べたいけど。
「あのさ、秋?」
一人で考え込んでいると、耳元からさつきの声が。
「ん? ……うわっ、どうしたの?」
横を見ると、何故か赤くなったさつきの顔がドアップになっていた。
ち、近いよ奥さん! 僕の耳はそんなに遠くないですよ!?
「あのさ? え、えっと」
「……?」
ドアップになったまま、何か言いたげな表情なさつき。
い、一体どうしたと言うのか?
さつきは少しだけ間を空けてから、思い切ったように口を開いた。
「こ、今度またっ、カップル限定で半額になってたら、その……一緒に食べに行かないかない?」
「……え?」
「い、いや! ごめん! 嫌なら、全然いいんだけど!」
全部言い終わらないうちに僕から離れて、また本を読み始めてしまうさつき。
「え、えっと?」
本を読んでいるというか、本に顔を押し付けているさつきを見ながら首をかしげる。
神様、なんでしょうかこの状況は?
「……あぁー、なるほどね」
なるほど。さつきの考えがやっとわかった。
なんだなんだ、考えればすぐわかることじゃないか。
「さつき」
「……なに?」
本に顔を埋めたままだが、ちゃんと返事が返ってくる。
「大丈夫! 心配しなくても、一緒に食べに行くからさ!」
「え、いいの……? ホントに!?」
弾ける様に、本から顔をあげたさつきの顔は見事なまでに赤く染まっていた。
「当たり前でしょ、僕とさつきの仲じゃん!」
「あ、秋っ!」
よし。彼女の喜び様を見るに、どうやら僕の予想は的中していたらしい。よかったよかった。
と、すっかり安心しつつ話を続ける。
「さつきの気持ち、僕にはわかるよ?」
「え、私の気持ち? ……って、えぇっ!? そこまで!?」
「もちろんさ、なんなら当ててみせようか?」
「そんな、いきなりなんて……心の準備が……っ」
僕はさつきの目をまっすぐに見つめた。
……え、あれ? なんか目が潤んでるなぁ、さつきのやつドライアイか?
「でも、そうね。私の気持ちがわかってるなら言ってみてよ、秋……」
「あ、あぁ。うん」
ドライアイについては後で聞いてみよう。
そう思いながら、僕の予想した『さつきの気持ち』を言ってみる。
「やっぱり、美咲達の前でパフェをがっつくのは恥ずかしいもんね! さつきは女の子なんだし!」
「うん。そうなの、実は……って、え? パフェ?」
「でも僕ならさつきが牛丼を食べるようにパフェをがっついたりしても、絶対引いたりしないから安心だよね! ……ってあれ、どうしたのさ? 本なんか振りかぶって?」
ふとさつきを見ると、彼女は先ほど読んでいた本を手に、大きく振りかぶっていた。
そして、その本を僕にめがけて。
「こんのっ……アホぉーーーー!!」
投げたぁあああああああああああああああああ!!
「な、なんでぇええええ!? ……ふごぉっ!?」
……神様? 僕には、女の子の考えが全くわかりません。
「おっはよー! 朝練頑張ってきたぞー!」
しばらくして、美咲が教室に舞い込んできた。相変わらずの元気娘である。
「おはよー、美咲ー」
と、美咲に声をかけつつ、視線は目の前で鼻歌を歌う厚樹に向いてしまう。
昨日あんな事を言われたんだ。気にならない方がおかしいだろう。
「おはよっす! 美咲ちゃん!」
「おっす厚樹!」
しかし、そんなことは僕の気にし過ぎなだけで、厚樹と美咲のやりとりに変化があるわけではなかった。
「あれ? 秋くん、涙目になってるよ?」
「そこは触れないで」
ちなみに僕に本を投げつけたさつきは、顔を真っ赤にしながら教室を出て行ってしまった。
そして時は放課後。
「はいこれ! サイズはあってるだろ!?」
放課後の体育館で、いつもと同じくハイテンションな又二郎からバッシュ(バスケットシューズ)を渡された。
「又二郎、こりゃ何の真似だ?」
まず口を開いたのは厚樹だ。
鋭い視線で又二郎を見つめる厚樹は、誰がどう見てもキレている。
僕のほうも放課後の帰宅活動を邪魔されているので気分がいいとは言えない。
そんな僕達のお怒りオーラは完全にスルーで又二郎は次にバスケットボールをよこしてきた。
「ふ、昨日のお礼だよ」
「……え、昨日?」
「あぁ? 昨日なんかあったか?」
昨日僕達が何かしたのだろうか? 少なくとも放課後の自由を奪われるほどの罪を犯した覚えは無い。
「いやいやいや! なんか身に覚えが無いって顔してるけどさ!? 昨日先輩達と俺の熱いバトルを邪魔した事忘れてないだろ!? そのお礼だよおおおおおお!!!!」
「んな事したかー?」
厚樹が僕の方を見て首をかしげる。
「さ、さぁ?」
「したろ!? だからそのお礼に、今日バスケでお前らをボコボコにしてやるって言ってんだよぉぉおおおおおぉぉおおののいもこぉおおっ!!!!!」
「いや、バスケっつってもなぁ?」
厚樹はダルそうに頭を掻いてから、この場にいる人数をぐるっと確認する。
「こっちは俺達二人だけで、お前等はバスケ部の精鋭三人ってか? 素人相手にずいぶんと用心すんのな?」
確かに。こっちは素人二人で、相手は実力者であり経験者であるバスケ部の三人が相手なのでは、あまりにも分が悪い。
「ふん! そう言うと思って、お前らのために助っ人を呼んでおいたぜ! さぁ出て来るがよいっ、美咲ちゃんさつきちゃんカモンッ!!」
又二郎が声を張り上げた瞬間、体育館倉庫の扉が開いた。
驚いて体育館倉庫の入り口を見ると。
「はーっはっはっは! 今日は部活サボって、バスケの試合に出場するぞー!」
「なんで私まで……」
ハイテンションな美咲と、明らかに面倒くさがっているさつきの二人が出てきた。
「さぁ選べ貴様ら! これからやる3on3に、この美少女達のどちらを参加させるかなぁ!!」
「私パス。美咲が出たがってるから出してあげて」
ノリノリの又二郎を完全無視してさつきが僕達に訴えて来た。
「そうなの? じゃあ、美咲が参加ってことで?」
僕が美咲に聞くと「ったりめーよ!」と笑顔で答えた。
「じゃあ決定だな! それじゃ俺は先輩達と作戦立ててくるから、お前らはアップでもしてろや!」
それだけ言って、又二郎が先輩達の元へ掛けて行った。
「さぁ、やるよー! バスケやるよー!」
「……ダルいな、厚樹」
「……全くだ」
三人でコートの上に立つと、更に面倒くささが増してきた。
次回、試合開始!
秋:だるいなぁ・・・
厚樹:何が?
秋:バスケだよ。
厚樹:だな、まぁ俺は美咲ちゃんが出るから特にめんどくは無いけどな
秋:おめでたいねー、告っちゃえばいいのに。
厚樹:っな・・・!
又二郎:ちょちょちょ!あとがきで本編に影響すること言うなよ君達!
秋:お前には関係ないだろ?
厚樹:とっとと帰れ。
又二郎:扱い酷!!
秋:妥当だ。
厚樹:妥当だな。
又二郎:うぐぅー
秋:さてはて次回は試合開始だぞ!
厚樹:バスケに興味無い人は意味不明な内容だけど見てってくれよ!!
又二郎:いや多少理解できるようになってるから!!!!!