七十一話、新学期!
きっとかっと!
狭い厨房。熱い熱気。店長の怒声。
熱い・・・苦しい・・・
「おい! 鍋から目ぇ放すな!!」
「は、はい!!」
熱い・・・苦しい・・・眠い・・・
「火が強すぎんだよ! ちったぁ学習しろ!!」
「すみません!!」
熱い・・・苦しい・・・眠い・・・暑い・・・
「不味い! こんなラーメンが食えるか!!」
「すみません! もう一度お願いします!!」
熱い・・・死ぬ・・・
「・・・秋! ちょっと、秋!?」
「―――っ!? すみません、店長!! ・・・あれ?」
肩を揺すられ、僕の意識は覚醒した
顔を上げると、目に入ったのは見慣れた教室。更に横を見ると、心配そうなさつきの顔。
「・・・えっと、さつき?」
「さつき? じゃないわよ。ぐっすり寝てると思ったら、急にうなされ始めて驚いたわ」
「うなされてた? 僕が?」
そう言われると、確かに悪夢を見ていたような気がしないでもない
「しっかりしてよ・・・ホラ、とりあえずこれで汗拭いて」
呆れたように言ったさつきは、鞄の中からスポーツタオルを差し出す
何故にタオル? と首をかしげると、頬を汗が伝った。寝汗までかいていたらしい
「うわ、汗かいてる。サンクスさつき」
素直に受け取ってお礼を言うと「いいのよ」と微笑む
・・・洗って返そう。なんて思いつつ汗を拭いていると、前の厚樹が振り向いた
「お、やっと起きたか! おはようございます麺職人!」
「誰が麺職人だ!」
開口一番わけのわからんヤツだ。麺職人て。
「いやいやご謙遜を。自ら進んでラーメン修行の日々を送ってたじゃねーか?」
「・・・それには、深い理由があったのですよ」
「深い理由ねぇ? どうせ、タダで食えるまかないのラーメンが食いたかった、そんなところだろ?」
こいつ、いつか死なす。
あの長かった夏休みが終わり、今日から新学期が始まった
今話題に上がっている『ラーメン修行』。僕は夏休みの残り一週間の間、ラーメン作りの修行をしていたのだ
五日間、寝る間を惜しんで修行に明け暮れていたため、夏休み最後の二日間を爆睡して過ごしたが、 あまりの疲労に三日目の今日も若干眠かった。ちなみにと言っては何だが、あの修行の日々は、もう思い出したくないほど辛かったです。まぁ、得たものもあったけどさ。
そんなこんなで、本日に至る。
「違うっての、誰がそんなくだらん理由でやるか」
例えまかないが貰えたとしても、あの苦行とでは割に合わないしね。
「んじゃ、なんでラーメン修行なんてやってたんだ?」
「私も気になるわ」
厚樹が理由を聞いてくると、隣のさつきまでもが話に加わった
「そ、それは・・・マリアナ海溝より、深いわけがありましてですね・・・」
「そんなベタな事言ってないで、早く説明しなさいよ」
さつきさん。そんなに急かさなくても。
・・・というか、今説明するとややこしくなりそうなんだよなぁ。
ラーメン喫茶をやるため、なんて言ったら次はそれについて説明しなくちゃだし
そうなると、僕が茶道部に入部した話まで言わなくちゃいけなくなるだろう。
説明するのはまだいいが、茶道部の話を聞いた厚樹がどんな反応をするのか、と思うと説明する気が滅入る。
「なに勿体つけてんだよ秋! 素直に『タダでラーメンが食べたかったんですぅー』って言っちまえよ!」
・・・そのむかつく言い方やめれ。
はぁ、仕方ない。いつかは説明しなくちゃいけないんだし、今からでも同じだよなぁ。めんどくさいけど。
・・・なんて、半ば諦めかけたその時。
「おっはよーう! 今日から新学期だー!」
一際元気な声が教室に飛び込んできた。美咲が来たときのお馴染みの挨拶だ
「おはよ、美咲!」
ナイスタイミング! と美咲に感謝しつつ、声をかける
「あ、てめっ! 話し逸すな!」
これで話が逸れたと思いきや、厚樹が更に問い詰めてきた
「え? なになに何の話?」
「秋がラーメン修行してた話よ。なんで修行なんて始めたのか、中々口を割らなくて」
「おぉ! それはあたしも気になる!!」
・・・しまった! 状況が悪化してる!?
いや落ち着け! こんな時こそ、ヤツの出番だ! きっとヤツなら都合よく現れてくれるはずだ!!
ばぁんっ! と扉の開く音。そして、お馴染みの・・・
「新学期すたぁとだぁぁぁぁぁぁああああああああああああああっ!!!!!」
はい、来ました又二郎ぉぉぉおおおお!!!
ここぞとばかりに、又二郎に駆け寄っていく
「又二郎! おはよう!」
「おぉ秋か! 今日もバスケ日和だなぁ!」
言っている事は意味不明だが、ここはヤツに合わせよう
「そうだねー、こんなバスケ日和の朝は、バスケの話で盛り上がるのが一番だね! 早速バスケについて語ろうか!」
「お、おぉ!? 珍しいな、お前がバスケの話をしようなんて! いいだろう、朝のHRまでバスケの話に花を咲かせようではないか!!」
「っち。又二郎を使いやがったか」
「これじゃぁ、聞くに聞けないねー」
「・・・仕方ないわね、ラーメン修行の話はまた今度問い詰めることにしましょ」
その場でバスケ議論を始めた僕等を、ジト目で見つめる三人
何故彼等が諦めたのか。それは、このバスケ馬鹿がバスケの話を始めたら、誰に求めることが出来ないからである。
ごめん、皆。また時間がある時にちゃんと説明するからさ・・・多分。
そんなこんなで、今日から新学期が始まった・・・
次回、SHR!
又二郎:寒い・・・
秋:気温1℃だってさ。
厚樹:寒っ!?
又二郎:これじゃあ指がかじかんで、まともにキーが叩けないなあ・・・
秋 厚樹:それを言い訳にするなよ?
又二郎・・・ごめんなさい。