七十話、秋の決断!
スカートめくりに必要なものは、たった二つ・・・下心と勇気!
カラカラーン。と有紀の手から、箸が落ちる
「なっ・・・なんだ、このラーメンは・・・!?」
私は今、かつてない衝撃を受けていた!
例の『海鮮ラーメン』を口に入れた途端・・・口の中で踊りだしたのだ。なにがって? 海の幸がだ。
正直に言おう。あの店長が作ったラーメンは、美味だった
今までこれほど美味なラーメンを食べたことがあったか。と聞かれれば、NOだ。
「っく・・・」
心の中ではこの海鮮ラーメンを絶賛しているのだが、素直に口には出せなかった
なぜなら、目の前で「どうだ見たか」といわんばかりの表情でふんぞり返っている・・・
「ッハッハッハ! どうだ見たか! 美味すぎて何もいえないってかネエちゃん!?」
・・・この男に、負けを認めるのが嫌だからである。
「ぐぬぬっ・・・」
「いやぁ、こちとら海鮮ラーメンだけにはかなりの自信があってな! 美味くて当然なんだよ!」
この野郎。子供相手にムキになるとは、大人気ない。
「ふん・・・まぁ、中々だったな・・・」
「そうかそうか! ッハッハッハッハッハ!!」
・・・いつか一服盛ってやる。そう心に誓った私であった・・・
昼食を終えた僕達は、その後店内で世間話と洒落込んでいた
僕は有紀とクラス長と一緒に、創立祭の出し物の話をまとめておこうというわけで、三人離れた席についた
「そうそう。創立祭のことで、二人に朗報があるわ」
まず口を開いたのはクラス長。
『朗報』というワードに、僕と有紀が期待の眼差しを向ける
「坂部殿。朗報というと、なにかいい案でも浮かんだのか?」
「ふふ。まさか、そんなんじゃないわよ。実は昨日の夜、学校に掛け合ってみて茶道部にちゃんとした場所で出店できる許可を取っておいたのよ」
おぉ、それはありがたい。まともな場所が得られたことで、根本的な問題は解決したも同然だ
「へぇー、すごいじゃんクラス長? そっかぁ、茶道部がちゃんとした場所で出店できる許可を・・・許可を・・・って、ええええええええええ!!!?」
「ほ、本当なのか!? 一体どうやって!?」
予想を遥かに超えた朗報に、僕だけでなく有紀も驚愕する
「えへへ、ちょっとお願いしただけよ。今まで真面目にやってきた甲斐があってのことね! ・・・どう? すごいでしょ秋君?」
「うん! なんかもぉ、すごすぎるよクラス長!!」
「それが聞きたくて頑張ったのよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!」
・・・発狂した!?
「し、しかし。ちゃんとした場所というのは、具体的にどこなんだ?」
少し冷静戻った有紀が言いながら、頬を伝う汗をぬぐう
「えっと・・・確か・・・生徒玄関の、真ん前だったかしら?」
思案しながら、平然と告げる
・・・あぁ、生徒玄関の真ん前ね。確かにちゃんとした場所ではあるなぁ。
そう、生徒玄関の真ん前。
「・・・あれ?」
生徒玄関の、真ん前?
生徒玄関の・・・真ん前?
・・・生徒げんかんの、まんまえ?
「あのさ、有紀。生徒玄関の・・・真ん前? って、どこだっけ?」
「・・・そうだな、生徒玄関の真ん前・・・じゃないか?」
「そっか、そうだよね・・・ははは・・・」
「全く、秋氏は馬鹿だなぁ・・・っはっはっは・・・」
「「・・・Bravoooooooooooooooooooooooooooッ!!!!!!!」」
なんてこった!? めちゃくちゃ目立つ位置じゃないか!?
生徒玄関ってアレでしょ!? 学校内と校庭を繋ぐ中心点! 人が一日中ひっきりなしに出入りするところ! その真ん前だって!?
「なんかね? 人通りが多い絶好の場所だっていうのに、そこだけ余ってたらしいのよ。なんで余ってたのかしら?」
あまりに目立ちすぎるからだよ!! そんなところに下手な出店を出したら大恥モノだからだよ!!
「な、なんということだ・・・あんなところで出店だと・・・?」
そう思ったのは有紀も同じらしく、珍しくうろたえていた。
「ヘマは、許されないってことだね・・・」
「忘れたのか秋氏・・・ヘマを打つどころか、我々はまだ出し物すら決めていないのだぞ・・・?」
・・・そうでした。
「いやでも! 目立つ場所だからこそ、僕の言ったラーメン喫茶が栄えるんじゃないか! いけるって有紀!!」
「もう一度言うが、忘れたのか秋氏・・・我々には『理想のラーメン』が作れない」
・・・そうでした。
即席で作れて、低コスト、それが量産できる本格的なラーメンのレシピなんて存在しない。以前有紀が言っていた言葉を、すっかり忘れていた。
どうしよう。このままでは、創立祭で儲けを上げるどころか、当日に大恥を掻いてしまいそうだ
「・・・ん? 待てよ?」
そこで、ふと思った。
・・・よく、考えたら・・・僕って何も役に立ってないような?
有紀は今回の創立祭で部室を大きくするための計画を立てた。そしてクラス長は、茶道部にはもったいないくらいのスペースを確保してくれた
・・・それで、僕はどうなんだ? 一つでも役に立っていたのだろうか?
「・・・。」
・・・役に立ってねぇー。なんか茶道部でお菓子食べながら雑談してた記憶しかないのですが。
絶望したよ。まさか自分がここまで使えない人間だったとは。
僕が挙げた『ラーメン喫茶』の案。あれが実現できたのなら、少しは役に立ったんだろうなぁ・・・
「・・・理想のラーメン、ねぇ。」
憂鬱になりながら、ポツリとつぶやいた・・・その時、
・・・ぽん。
「理想のラーメンってのは。一体どんなラーメンだ?」
突然、僕の肩に手が置かれた
驚きながら振り返ると、そこにいたのはこの店の店長だった
「え・・・? 店長?」
「理想のラーメンってのは、なんだって聞いてんだ」
あっけらかんとする僕に同じ質問を繰り返す店長
「いや、それは・・・」
理想のラーメン。即席で作れて、低コスト、更に量産可能なラーメンなんです。
・・・そんな夢みたいなことを、そのまま店長に言った。正直こんな馬鹿みたいなことを口走るのは、かなり恥ずかしかった
僕の話を聞いた店長が「なるほどなぁ」と腕を組む
「・・・やっぱり、無理ですよね? そんなラーメン、あるわけ・・・」
「いや、できるだろ?」
「・・・はい?」
できるだろって・・・そう言ったのですか、この店長は・・・?
「いやいやいや! そんな馬鹿な!?」
「まー、普通は無理だろうな? だが、俺にはできる・・・海鮮ラーメン限定だけどな」
「ほ、ホントですか・・・?」
「あぁ。」
「即席で作れる?」
「あぁ。」
「低コスト?」
「あぁ。」
「それを踏まえて、量産もできる?」
「・・・あぁ。すぐには無理だろうけどな、修行を積めばなんとかなるだろ」
すぐには無理だけど・・・作れる。作れるようになる。有紀が無理だと言った、理想のラーメンが。
・・・そうすれば、ラーメン喫茶の案も通る! というか・・・僕でも役に立てるってことか!?
残りの夏休みは、一週間程度。既に宿題は終わってるし、夏の思い出も沢山できた
つまり。残りの休日をいかに過ごそうが、悔いは残らないはず・・・だったら、残りの一週間を茶道部のために使うってのもアリだよね。
「あの、店長」
「なんだ?」
「その、理想のラーメン・・・どのくらい修行すれば、作れるようになりますか?」
「・・・おいおい、お前。まさか・・・」
僕の言いたいことを悟った店長が、まじまじと見つめてくる
・・・そんな店長の目を、僕はしっかりと見据えた。
「・・・本気だな?」
「はい!」
「わかった・・・そうだな。この店に住み込みで、5日だ。24時間俺が付きっきりで教えてやる。もちろん寝る間も惜しんでな」
寝ずに、5日・・・大丈夫だ。それくらいなら、やってやろうじゃないか。
「お前が本気だっつーなら、その間店は閉めるつもりだ。俺も本気で教えるつもりだからな」
「・・・」
「・・・半端な覚悟で、修行はさせねぇ。いいな?」
悩む必要など無い。僕の中では、既に覚悟なんて決まっていた。
・・・さようなら、僕の夏休み。随分長く感じたけど、総じて楽しい夏だったよ
残りの一週間、僕は辛く苦しい日々を送ることになるだろう・・・それでも、茶道部員である以上、なんでもいいからお役に立ちたい。
そう、心に決めた僕は・・・言った・・・
「店長・・・僕を、弟子にしてください!!」
この日から、僕のラーメン修行が始まったのであった・・・
次回、新学期!
秋:・・・これが、無理矢理じゃないと?
又二郎:おうよ!かなりナチュラルに終わったな!夏休み編!
厚樹:又二郎・・・今回の話で、一度も台詞の無かった人物が何人いるか、わかるか?
又二郎:そ、それは・・・・・・
厚樹:それは?
又二郎:・・・・・・・・・・アイキャンノットスピークジャパニーズ・・・
秋 厚樹:くだらねーよ!!
又二郎:すみませんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!
秋:というか、お前前回から台詞無いだろ! 馬鹿だろ!?
又二郎:あ、そういえば・・・
厚樹:今回は、俺と美咲ちゃんとさつきちゃんと未来ちゃんと女将さんの台詞が一切なかったじゃねーか!!
又二郎:・・・っはっはっは。
厚樹:笑ってんじゃねえ!!
又二郎:ま、待て待て!次回からはちゃんと活躍させるから・・・っ、うごぉっ!!?
秋:・・・哀れ又二郎。