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六十一話、僕の案。

スイート!

 茶道部の歓迎会は日が落ちるまで続いた


 気が付いた時には 外は真っ暗で。

有紀の「そろそろ解散しよう」という一言が無ければ、僕達は未だにあの部室で馬鹿騒ぎを続けていただろう。



「うぐぅー・・・ヒック。」

「本当に酒臭いなぁ・・・結局、あのジュースはなんだったのか・・・」


 学校からの帰り道。

 僕は酔い潰れたっぽい姉を背負って、ゆっくりと歩いていた

・・・今の姉を無闇に揺すって、リバースされても困るしね。


 ・・・言わせて貰うけど。決して、

 背中に当たっているふくよかな感触を長く味わっていたいとか、

 酒の匂いに僅かに混ざった、女の子特有のいい香りをもっと堪能していたいとか、


 そんな健全男子万歳な理由で、ゆっくり歩いている訳ではないのだよ?

 ・・・えー、僕のことを疑っている健全男子の皆さん。よく聞いて下さい。


 本当に、下心なんて無いんです。なぜなら・・・背負っているのが『姉』だから!

 実際にお姉さんのいる人にはわかるだろう! 実姉に・・・ 萌 え は 無 い っ ! !



「・・・ねぇ、秋ー?」

 ふと、背中の姉が僕の名を呼ぶ

「何さ?」

 歩みを止めることなく、そのまま答えた


「あんたが、急に『部活』なんてどうしたのかな。って思ってたんだけどね?」

「うん」

「今日、実際に茶道部を見て・・・あぁ、面倒屋のあんたにはぴったりだなって」

「・・・うん。しょ、っと」


 姉の言葉に相槌を入れながら、少しずり落ちてきた姉の身体を背負い直す


「ちょっと、落とさないでよ?」

「わかってるよ」

「ならいいけど・・・それでね、あんたが部活をやり始めたのには、何か理由があるんだろうけど」


 『創立祭』。その単語が頭に浮かんだ

・・・僕達茶道部は今、創立祭のために必死で頑張っている。有紀が僕を入部させた理由は『創立祭』を成功させるためだから。


「それでも、あんたがやるって決めたことだもん。私は何も言わないわ。・・・それに、茶道部の美少女二人、いい子だったし」

「姉・・・」


 昨日姉が「茶道部に連れてって」と言い出したのは、僕のことが心配になったから? 自惚れ過ぎか。

 ・・・まぁ、そこんとこは、よくわかんないけど。


「・・・サンクス、姉」

 背中の姉に感謝しつつ、僕は続けて言う

「とりあえず。創立祭が終わるまで、頑張ってみるよ」


 有紀の計画が成功するのか、それはわからないけど

 僕が決めたことだから。とりあえず頑張る。今は、それでいいんだよね



「んー? 創立祭って、なにかやるの?」

「まぁ、いろいろやると思うから。姉は茶道部の出し物に来てくれればそれでいいからさ」

「わかった、絶対行くから・・・ごめん、ちょっと寝ることにするわ・・・おぇ・・・」

 後ろで吐くなよ、怖いから。


 なんて、酔っ払いを背負いながら歩く帰り道は、そう悪いものでもなかった・・・





 僕達が茶道部を後にする少し前のこと。


 歓迎会の主賓である姉が『葡萄の国』へ旅立ってしまったため、僕達茶道部の面々はいつも通りのんびりと過ごしていた


「あのさ、有紀?」

 例によってテレビの前を陣取っていた有紀に声をかける

「なんだ秋氏、もう帰るのか?」


「いや、創立祭の事で話があるんだけど」

「・・・創立祭の事? まさか、いい案が浮かんだと?」

 少し驚いた様子の有紀に「まぁね。」と得意げに言う

有紀に、昨日僕がひらめいた案を聞いてもらおうと思ったのだ。


「やるな秋氏。家に帰ってからも案を考えていたとは、

 私なんて昨日家に帰ってからはずっとゲーム漬けだったというのに」

「・・・ゲーム漬け?」

 あんた真面目に考えてたんじゃないのかね?

僕のジト目に「冗談だ」と笑ってごまかす有紀。

 

「まぁ、いいけどさ・・・実は昨日、僕等の近所には本格的なラーメン屋が無いって話になってさ」

「ふむ。なるほどな」

「え・・・」

 流石。有紀はあれだけの言葉で、全て悟ったようだ


「つまり、『無いものは作れ』。ということだな?」

「正解。流石ですな、有紀さん」

 話す手間が省けたというか、せっかくだから全部言いたかったというか・・・



 有紀の言った通り『無いものは作れ』。僕がひらめいた案は、茶道部の出し物をラーメン屋にするという案だ

喫茶店やお化け屋敷は定番だが、ラーメン屋というのは盲点なはず。それに、この近所に本格的なラーメン屋は存在しない


 そこで、僕達でラーメン屋を作ってしまうのだ

他の出し物からはそこそこ浮くし、もし本格的なラーメンを作ることが出来れば、もしお客さんの舌を唸らせることが出来れば、多くのお客さんを呼び込むことが可能だ


「ラーメン屋・・・名づけてラーメン喫茶。いかがでしょうか、有紀様!」

「ラーメン喫茶・・・ネーミングは最悪だが・・・ううむ・・・」

 ごめんなさいね、最悪で。


 そこから有紀は難しそうな顔をして唸り始める

・・・どうやらラーメン喫茶について、真剣に考えているようだ。



「ねぇねぇ、秋君?」


 有紀の考えがまとまるのを待っていると、後ろから未来が声をかけてきた

「・・・ん? うわっ!?」

 振り返ると、僕のすぐ目の前で、顔を真っ赤に染めた未来がとろんと微笑んでいた


「ねぇー あきくーん、有紀とばっかり話してないでー あたしともー・・・ヒック。」

 ・・・おい、酔ってないかこの子?


「み、未来? まさかあのジュース、飲んだの?」

「へー? えへへ、飲んでないよ? ちょっと匂いを嗅いでただけ・・・なんだけど・・・」

「・・・だけど?」


「・・・匂いを嗅いでたら、ヒック。なんか、いい気持ちになってきたのだー」

 匂いだけで酔った!?

なんてことだ、姉に続いて未来まで・・・


「や、やっぱり、お酒だったのか・・・?」

「もーっ、違うよ。ジュースだよあれは、ジュース・・・ヒクッ。」


 がしっ。

「・・・へ?」

 上手く呂律の回っていない未来が、のろのろと呟きながら、僕の両肩に手を置き・・・


「あ、あ・・・足元が、揺れてるよぅ」

「揺れて、ませんけど・・・って、ちょっと!?」


 ゆっくりと、僕の身体を押し倒していく

・・・待て待て待て! なんだこの展開は!?


「あれー、秋君が遠く見える。なんでそんなに離れてるのー?」

「いやいや! かなり近くにいるから! なんていうかっ、ゼロ距離なんですけど!?」


「もーっ! なんで逃げるのー!?」


 僕が遠くに居ると錯覚した未来は、僕に近寄ろうとして更に身体を密着させてくる

しかし。それは未来の錯覚で、本当の僕等は既に密着状態。もはやハグの領域だ。


「ちょっ、それ以上近づいたら!? ・・・あっ、あぁ、いやぁあああああああああああああ!!!!!!」


 甘い! 葡萄の甘い香りと、女の子特有の甘い香りが、一気に僕を襲ってくる!

 そして、いろいろと当たっている! なにがとは言わないが、とりあえず二つの果実が当たっている!


 うっ、いかん。なんだか、僕も酔ってきた・・・のか? どこからともなく、葡萄の・・・甘い香りが・・・



 ひょい。

「これ、未来さんや。おふざけはおやめなさい」

「・・・ふぇ? 有紀?」


 僕が葡萄の果樹園にトリップしかけたところで、有紀が未来を引き剥がしてくれた

・・・ありがたい。ような、残念なような?


「ふふ、邪魔しない方が良かったかな秋氏?」

 未来の襟首を掴みながら、楽しそうに笑う

 そんな彼女に、僕は素直に答えた。


「うん。正直いらんお世話だった」

「 殺 す ぞ 。」

 ごめんなさい。冗談です。



 気を取り直して、ラーメン喫茶の話に戻る

ちなみに酔っ払った未来は、畳の上で深い眠りに落ちてしまった。なんて空気の読める子。


「ラーメン屋の案だが、確かに使えるよ秋氏」

「ホントですか! ありがたきお言葉!」


 有紀の言葉を聞いて素直に嬉しくなったのだが、彼女の話はまだ続いていた


「だが、我々には本格的なラーメンが作れない」

「・・・そうだった」

 しまった、そのことが頭からすっぽりと抜け落ちていた


 有紀のもっともな意見に、やっぱりこの案も駄目かと考えてしまう

・・・そんな時、母上の顔が頭に浮んだ。


「いや、僕の母上がかなり美味しいラーメンを作れるから、レシピとか聞いて・・・なんとか・・・」

「秋氏。即席で作れて、低コスト、それが量産できる『本格的なラーメン』のレシピなど、存在しないよ」

「そ、それは・・・」


 確かに、大きな儲けを出すためには客の周りが肝心だ

 一杯のラーメンを作るのに時間を掛けるほど、客の周りは遅くなる

そこで即席のラーメンを作ったとしても、それはもはや本格的なラーメンとは言えないだろう。


「・・・」


 なんというか、無理じゃね? ラーメン喫茶。


「・・・僕の案、全く使えないじゃん」

「まぁ、一応候補には入れておこう。ラーメン屋が盲点というのは本当だからな」


 落胆する僕をフォローするかのように言う有紀

・・・面目ない、完璧な案だと思って調子に乗ってましたよ。


「はぁ、仕方ないな。秋氏、これをやるから元気出せ」


 そう言って、僕に差し出したのは・・・


「ラーメン半額クーポン? それって・・・」


 昨日、厚樹が持っていたものと同じヤツだ

そう思いながら、差し出されたクーポン券を受け取る


「ラーメン喫茶の話は、本格的なラーメンを食べながら考えようじゃないか。もちろん、茶道部全員でな」

「有紀・・・ありがとう。本格的なラーメン、食べに行こうか・・・」


 こうして、僕のラーメン喫茶の案は一時保留となった

・・・そして、このクーポン券が思わぬ展開を招くことになるとは、誰も予想できなかっただろう・・・


次回、ラーメンデート!!


秋:あれ?あとがきに又二郎いないじゃん、どうしたの?

厚樹:部屋にこもって出てこないぞ?


秋:・・・まだいじけてるのか?あいつ。

厚樹:いや、PSPの新作ソフトを遊んでいるそうだ。


秋:続き書けやボケええええええええええええええええええええええ!!!!!


又二郎:ぎゃあああああああああああああああああああああ!!?

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