五十八話、厚樹、夕飯に乱入!
椅子。
「ただいまー」
あの後、皆でいろいろと案を出し合ったのだが、時間も余り無かったため良い案は出てこなかった
話し合いの途中でピザの取り合いとか、クラス長の乱入とかであんまり話し進まなかったしなぁ
・・・でもまぁ、クラス長が協力してくれる事になったんだし。それだけでも良い収穫だよね。
そんなことを考えつつ、玄関に靴を脱ぎ捨てていると「おぉ! やっと来たのか秋ー!」という騒がしい声が聞こえてきた
聞き慣れた幼馴染の声。なんだ、今日は厚樹が来てたのか。なんとなく早足で、声のしたリビングへと向かった
リビングに入ると、仲良く肩を並べてテレビを見ている厚樹と父上がいた
ちなみに姉は部活で遅いらしく、まだ帰ってはいないようだ
「厚樹、来てたんだ。なんか久しぶりだね?」
言いながら、厚樹の隣に胡坐をかいて座る
「はぁ? 久しぶりって、まだ海行ってから一週間も経ってな・・・いんだけどなぁ? なんか俺も久しぶりな気がするわ」
「この世には謎が多いってことだ。出番の多いやつにはわかんねぇだろうな」
「・・・うるさい、死ねよ父上」
突然意味不明なことを口走った父上に冷たく言い放った
「うぇーん! 秋がいじめるぅー!」
・・・キモっ!?
「ちょ、ちょっと、そんくらいで泣かないでよ・・・」
「おい! 酷いぞ秋! ちゃんと親父さんに謝れ!!」
「うぇええええええええーん!」
泣き叫ぶ大の大人と、ソレをなだめる幼馴染
・・・なんだこの光景。
「知らないっての。あと嘘泣きはやめろ馬鹿」
「はいはい、わかりましたよー」
僕の冷めた反応が面白くなかったのか、嘘泣きをやめた父上がつまらなそうに呟く
「・・・っけ。親子のスキンシップを拒否するとは、さては反抗期だな? まぁ、可愛い娘の反抗期なんてもんは―――」
「 死 ね ! ! 」
ばきいぃっ!!!!
「―――ふぐぉう!!?」
・・・ばたんっ。
その場に横たわる父上。すぐに白目を剥いて、フローリングの上でぴくぴくと痙攣し始めた
「おやじさぁあああああああああん!!!!」
すぐに厚樹が抱き起こしたが、父上の意識は遥か遠く・・・まぁ、演技だろうけど。
「なんの茶番だよ、全く・・・ん?」
そんなやり取りに呆れていると、ふと厚樹の横においてある紙袋に目が留まった
・・・なんだろう。父上に何か貰ったのかな?
気になったので、素直に聞いてみる
「ねぇ厚樹、その紙袋何?」
「・・・っ!」
僕がそう聞いた瞬間、厚樹の表情が硬直した
心なしか、厚樹の頬を大量の汗が伝う。なんていうか、あからさまに怪しいのですが。
冷や汗をだらだらと流しながら、厚樹は一言、
「男のロマンが詰まっている。」
と、真顔で言ってきた
・・・めちゃくちゃ気になる。
「見せてよ」
「・・・駄目だ、男のロマンだからな」
ぐいっ。
僕が紙袋を引き寄せようとすると、厚樹はそれを阻止する
なんとしても見せたくないらしい。そんなに抵抗されると、余計に見たくなるよね
「だったらいいじゃん。僕男だし」
「・・・駄目だ、男のロマンだからな」
「いやだから・・・って、それどういう意味だよ!?」
ぐぎぎぎぎぎぎぎ・・・
僕と厚樹の間を行き来する紙袋。どうせなら、このまま袋が破けてしまえばいいのに。
「これは男が見るものであって、お前が見るものじゃねーんだよっ!」
「はぁ!? 意味わかんないし! 僕男だし!」
「いいや! 秋は俺の『娘』だ!!」
「 寝 て ろ ! ! 」
ドゴォっ!!
「ぐほぁあああああ!!!」
横で死んでいたはずの父上がいきなり飛び起きたので反射的に殴ってしまった
・・・でもまぁ、なんか馬鹿なこと言ってたし。別にいいか。
「おやじさぁああああああああああん!!」
みぞおちを食らった父上は再びフローリングの上に横たわる
今度は本当に痛かったらしく「うっ・・・うぉっ・・・」と悶えている
先程のやり取りと同じように、厚樹が抱き起こす
「うっ・・・そこにいるのは、厚樹か・・・?」
父上は瞳をうっすらと開け、目の前の厚樹に手を伸ばした
「あぁ、俺だよ親父さん!」
その手を固く握り締め、涙をこぼす厚樹
「厚樹、なんだな・・・よく、聞け。俺はもう駄目だ・・・だから・・・俺の、夢や希望を、お前に全部やる」
言いながら、例の紙袋を厚樹の胸に押し当てる
「これが・・・親父さんの夢や、希望・・・わかったぜ親父さん、あんたの全部は確かに受け取った!」
「・・・」
・・・クライシス○アのラストを彷彿とさせる光景だが、どさくさに紛れて紙袋を隠そうとしているのが見え見えだ。
もういいよ、紙袋は諦めよう。
と思ったその時、ダイニングのほうから母上の声が聞こえてきた
「皆ー ご飯できましたよーっ」
「あ、うん! すぐ行くからー」
二人の事を無視して立ち上がると、さっさとダイニングへ移動した
ダイニングにはいつの間にか帰っていた姉と、キッチンで料理を皿に盛り付けている母上の二人がいた
「あ、お帰り姉。帰ってたんだ?」
「さっき帰ったばかりよ。リビングであんたたちが騒いでたから、まっすぐここに来たの」
・・・なんかすんません。
「もう、冗談よ。聞いてて面白かったから許してあげましょう」
僕の心中を悟った姉は、けらけらと笑って許してくれた
ありがたい。持つべきものは、心の大きな姉ってやつですか。
「流石姉。お優しいですな」
「いやいやなんのなんの・・・今度ジュースおごってね」
こいつ、許してなかった!?
末恐ろしい、きっと将来は鬼嫁確定だ・・・きっとそうだ・・・
「秋ちゃん、ちょっと料理運ぶの手伝ってー」
「あ、はい了解!」
姉と話していると母上にヘルプを求められた
この鬼姉から逃れるべく、すぐにキッチンへ移動する
「ごめんね? 今日ラーメンだから、重くていっぺんに運べないのよ」
言いながらラーメンのお椀を手渡してくる
「へぇ、ラーメンなんて珍しいね」
ちなみに母上の作るラーメンは麺は手打ち、スープは手作りという中々本格的なものだ
「ふふ、ちょっとはりきっちゃった」
「ほぉ」
なるほど。味も保障つきってことだね。
そんなこんなで母上と一緒に料理を運び終わる頃には、ダイニングに全員が集まっていた
真鍋家の面々と、厚樹含めて計5人。皆でテーブルを囲んで手を合わせる
「おっし! それじゃあ、いただくとするか! いただきます!」
父上が音頭をとり、皆がそれに続く
「おっしゃぁ! 久々のラーメンだ! ありがたくいただくぜ!」
「いただきまーす」
「なんだ秋? もっと喜べよ、夕食の献立を提案したのは俺だからな! この俺を崇め、ラーメンが食えることのありがたさを深く味わうがいい!」
「・・・ラーメンだけ味わうからいいよ」
てか、何故ラーメン。
「おい秋、厚樹の言うとおりだぞ? ここらには本格的なラーメン屋が無いからな、手打ちのラーメンなんて滅多に食えやしねぇ」
「まぁ確かに。サンクス厚樹」
父上の言葉に納得したので、素直にお礼を言った
「ふ、例には及ばないさ・・・」
「なにそのクールキャラ。」
「なにを言う秋、俺はいつでもCoolじゃねーか・・・」
横文字使うな。どうせウチの姉がいるから、猫被ってるだけなんだろ
そう思いながら、早速母上お手製のラーメンをいただく
「おぉ、流石に美味しいね。母上のラーメン」
「ありがとね、秋ちゃん」
僕の感想を聞いて、やんわり微笑む母上。流石『クッキングママ』。
「っていうか無いなら作ればいいのにね、本格的なラーメン屋」
ラーメンを食べながら、姉がそんなことを言い出した
「そうですよね夏さん! 俺もそう思ってたところなんです!」
嘘付け。姉の台詞だからって、そんな大げさに食いつくなっての
それでも、父上や姉の言った通りこの辺りに本格的なラーメン屋は無いのだ
あったとしても、有名なチェーン店や中華料理屋くらいで。ラーメン好きの舌を唸らせるほどのラーメン屋は無い
なので、どうしても本格的なラーメンが食べたい人は、わざわざ隣町まで行かなければならないのだ。
・・・なんでないんだろう、本格的なラーメン屋。出来たら絶対流行ると思うのになぁ
「・・・・・・あ。」
そんなことを考えながら、ずるずるとラーメンを啜っていると・・・
「ラーメン屋だ。」
実にいいことをひらめいてしまった。嬉しくなって、ひらめいたことを口に出してしまう
「『ラーメン屋だ。』って、何の話だ?」
やけに嬉しそうな僕の顔を、厚樹が不思議そうに見ていた・・・
次回、姉の詮索!
厚樹:こらこらさつきちゃん!超時空しりとりはどうしたんだよ!?
さつき:・・・何それ?
厚樹:あんた言いだしっぺですよね!?
さつき:さぁ、記憶にないわ。
厚樹:っく・・・何故この素晴らしいしりとりの価値がわからないんだ・・・
又二郎:厚樹、話がある。
厚樹:なんだよ、冬休み用の書き貯めを結局三話先までしか書けなかった野郎。
又二郎:書き貯め関係無いだろ!!?・・・ごほんっ・・・しりとりの話なんだが、ぶっちゃけ毎朝考えるのがめんどくさい。
厚樹:天上天下天地無○刀!!
ずばしゃっ!!
又二郎:ふごああああああああああっ!!何と言うキレ味!!白か!!・・・ぐはっ
秋:全力でぶっちゃけたね、又二郎。血とか、しりとり嫌だとか。
さつき:・・・馬鹿の極みね。私は帰るわ。
秋:あ、僕も帰ろっと。