五十二話、帰宅部の終焉!!?
サイ・・・って大きすぎない?
「はぁ・・・」
気が重い。ただ茶道部部室でお菓子を食べるだけだというのに、どうして足取りが重くなるのか
・・・怖いからです。あのブリザードガールこと、服部有紀さんが。
「い、行きたくない・・・帰ろうかな。うん、それがいいよ・・・帰ろう・・・」
叶わぬ願いをひたすら呟きながら、昨日ぶりの校門をくぐった・・・
昨日。茶道部の一件だけじゃなく、バレー部での一件で心身ともに疲れ果てていた僕は、
その翌日に茶道部へ行く予定があったことをすっかり忘れていたのだ。
その事を思い出した今朝は絶望した。占い師に『明日死にますよ?』って真顔で言われたときくらい絶望したよ。
「やっべ、なにこの意味不明なモノローグ・・・」
あまりの恐怖に頭をやってしまったのか。と心配になるが、
・・・いやいや、大丈夫だ真鍋秋!
今までどんな困難も乗り越えてきたんだ! 今回もなんとかなるだろう!
「って言っても。これまでの人生に、言うほどの困難は無かったんだけどねーはははー」
・・・頭のほうは大丈夫じゃなかった。
足取り重く、憂鬱な気分で廊下を歩いていくと、あっという間に茶道部部室までやってくる
扉の前で足を止めた僕は、ゆっくりと部室の扉に手をかけ・・・
「すぅー、はぁー・・・ッヒッヒッフー」
そのまま深呼吸&ラマーズ呼吸法で心を落ち着ける
・・・いやいやいや。なんでこんな警戒態勢なんだよ、普通に入れよって話なんだけど。
なんとなく、っていうか本能的に警戒してしまうと言いますか
敵地に入るのに、偵察は怠れないと言いますか
・・・などと一人でうろたえていると。
「・・・・・・? あ、この音。」
ふと、部屋の中からテレビの音が漏れていることに気付いた。恐らく有紀がプ○ステをやっているのだろう
耳を澄ましても、聞こえるのはその音だけで未来と話している様子もない・・・ということは、いきなり有紀と二人きりってことか・・・
「二人きり・・・っは!?」
密室+女の子+二人きり = ランデヴー(?)
ランデヴーってなんだよ。っていうか・・・
「お、女の子と密室で二人っきりになれるというのに、どうして胸が高鳴らないのか・・・」
いろいろ混乱していたが。とりあえず、思い切って扉を開けた・・・
「お邪魔しまーす、秋でーす」
「ん? おぉ秋氏、遅かったじゃないか」
部室には例によってテレビの前を陣取る有紀の姿があった
やってきた僕を見て有紀はコントローラーを置いて立ち上がり、宴会机の上にあったジュースを紙コップに注いだ
「・・・あ。注いでくれたの? ありがとう有紀」
なんだ? 今日は妙に優しいじゃないか。と、思いながら有紀の持つ紙コップに手を伸ばした
ぺちっ。
「痛っ」
・・・伸ばした手を叩かれました。意味不明です。
「なんだよ?」と、訴えのこもった目で睨むと、有紀は鼻で笑う
「これは私のジュースだ。今朝私が買ったものであり、私の所有物」
「・・・さいですか」
紛らわしいことしないで欲しい。っていうか、一瞬でも有紀を見直した自分を殴ってやりたい
・・・来たばかりだけど、猛烈に帰りたいです。
「・・・あのさ、昨日言ってた頼みごとの話なんだけど」
さっさと用件を済ませて帰ろうと、こっちから話を切り出した
「なんだ、随分とやる気じゃないか?」
「早く帰りたいので」
「・・・随分と素直だな」
呆れた様子の有紀は、テレビの前から宴会机の方へ移動してきた
僕と対面の位置に腰掛け、話を続ける。
「ぶっちゃけると、茶道部に入部してくれ。というお願いなのだが」
「丁重に、お断りします」
「・・・・・・」
即答する僕に、とても不機嫌そうな顔を見せる有紀
「・・・拒否権は無いと言ったはずだが」
「うっ・・・」
そうだった。僕が有紀の頼みを断れば、例のボイスレコーダーが火を噴くことになる
それを防ぐためには、彼女のどんな頼みも聞き入れなければならないのだが・・・茶道部に入部しろというのは無茶すぎる
「っていうか、僕が入部して何になるって言うのさ?」
「それには深い訳があるのだよ。とりあえず、文句は話を全部聞いてからにしてくれ」
文句って。僕に拒否権はないんだから、文句を言っても仕方ないんだけどね
でも、僕が入部することにどんな意味があるのか気になったので、大人しく有紀の話を聞くことにした
「ところで、秋氏はこの部室を・・・」
がらがらがらーっ
「おはよー 有紀ー! ・・・ってあれ? なんで秋君がいるの?」
・・・タイミング悪っ!?
丁度有紀が話し始めたところへやってきた未来は、僕の顔を見ると驚いたように目を丸くした
「あぁ、未来。そういえばお前は、とことん空気の読めない子だったな・・・」
向かい側の有紀が、そんな未来を見て嘆いた
「えぇ!? なんなの、その残念なものを見るような目は!?」
「・・・残念な子を見ているから、こんな目になっているのだ」
「ひどっ!?」
ごめん未来、今回ばかりは否定できないよ。残念な子とは言わないけどね
急な登場に驚きつつも、気を取り直して挨拶を交わす
「おはよう未来。えっと、お邪魔してます」
「あぁ、うん! おはよう秋君! それで、なんで秋君がいるの?」
「それは・・・」
・・・どうしよう。なんて言えばいいのかわからない
救いを求めるように有紀の顔を見ると「任せろ」とウインクを寄越してきた
流石有紀だ。彼女に任せておけば、多分大丈夫だろう
普段はアレだけど、こんな場面では彼女ほど頼もしい存在は他に無い
「あのな未来? 実は秋氏、昨日で随分茶道部が気に入ったらしくてなぁ」
「そ、そうなの!?」
・・・そうだっけ? まぁいいや、とりあえず口出しはしないでおこう。
「あぁ。それで、ついさっき『是非茶道部に入部させてください!』と頭を下げに来―――」
「おおおい!? なんてこと言ってんのさ!?」
「・・・なんだ、秋氏。うるさいぞ」
「違うでしょ!? 僕、そんなこと一言も言ってないでしょ!?」
「・・・っち」
舌打ちしやがりましたよこの娘!?
「あぁ、そうだったな。すまん間違えた『毎日未来みたいな かわいい子とお菓子が食べられるなんて、夢のようだ。是非茶道部に入部させてください』・・・だったな」
「『だったな』じゃねーよ!?」
ってか、さっきよりひどくなってるよ!?
慌てて未来の顔を窺うと、彼女の顔はなんだか赤くなっていた
有紀が変なこと言うから、怒ったんじゃないか? と、心配になったが、
「あ、秋君が・・・そんなことを?」
どうやら、怒っている風ではなかった。むしろ変な勘違いまでしちゃってるみたいだし。
「あぁ、確かに言っていたぞ? しかし帰宅部の秋氏は入部の手続きとか、わからんだろうしなぁー。私もあまり詳しくないし、誰か代わりに入部手続きを済ませてくれないかなぁー」
「はい! あたし、行ってきます!!」
「ちょっと待て! 勝手に話を進めるのやめい!!」
「それじゃあ、行ってくるね秋君!!」
「ちょ、本気なの!? だから僕は一言も・・・」
がらがらがらーっ、ばたん!!
・・・結局、未来は返事も待たずに飛び出していった。
未来が出て行った後、僕達は再び話し合いを始めた
「・・・有紀。たった今、強引に入部させられたんだけど、訴えてもいいのかな?」
ジト目で睨む僕に、有紀は笑顔で答える
「元々拒否権はなかったんだ。申し訳ないが、入部は嫌でもしてもらう。 それとも、秋氏は茶道部がそんなに嫌いなのか?」
「う・・・それは・・・」
正直、ここに来るとこれ以上ないくらいに疲れる
だけど、本気で嫌っているのなら僕はこの部室にいないわけで・・・
「いや、嫌いって訳じゃないけど」
僕の返事を聞いて、満足げに頷く有紀
「そうか、だったらいいじゃないか。実は私も、邪険に扱ってはいるが別に秋氏が嫌いというわけじゃないんだ」
とても信じられないが、嘘を言っている感じではなかった
・・・よかった。実際、嫌われてるんじゃないかって心配してたけど、そうでもないらしい。
「それじゃあ、今まで邪険にしてたのって何か理由があったの?」
「うむ。実は私、男が苦手なのだよ。だからどうしてもきつい冗談しか言えなくなってしまう」
「・・・な、なるほど。それは気がつかなかった」
そういうことなら、まぁ。仕方ないか。
有紀の意外な秘密を知った後、気を取り直して本題に移った
「ところで秋氏、この部室をどう思う?」
「・・・部室?」
予想外の質問に少々面食らったが、とりあえず部室の中を見渡してみる
特になんとも思わないけど・・・そうだなぁ・・・
「んー・・・部活をやるには、ちょっと狭いかなぁ・・・?」
確かにゲームをしたり、お菓子を食べたりする分にはちょうどいい空間なのだが
ここでは、部活動など到底できないだろう。そう考えて答えたのだが、言った後にもう少し気の利いた答え方をすればよかったと後悔する
しかし、有紀は特に気にした様子は無く、笑って答える
「ははは、正直な感想で助かるよ。秋氏が今言ったように、この部室は狭い。それは事実だ」
「いや、でも部員は二人だけなんだからこのくらいでも十分だと思うけどね?」
「何を言っているんだ、たった今三人になったところじゃないか」
・・・はい。そうでしたね。
っていうか、帰宅部所属だった僕が突然部活を始めるというのは、結構えらいことなんじゃないのかな?
当然、今までの怠惰な生活は終わるし、ファミレスに通っていた日々も厚樹と駄弁りながら帰る日々も捨てると言う事だ
・・・なんというか、あっさり入部なんかしちゃって良かったのかな?
一応、僕にだって、僕なりの日常があるわけで・・・
そのことをそのまま言うと、有紀は「あぁ、なるほど」と手を打った。
「言い忘れていたが、別に入部したからといって毎日来る必要はないよ。秋氏に来て欲しいときは、ちゃんと連絡するから」
「え? そうなの?」
「というか、あまり来てもらっては私が困る。言っただろう、私は男が苦手だと」
「・・・そうだったね」
なんだ、そういう事なら安心だ
むしろ好きなときにお菓子を食べに来れるという素敵なメリットまである
「話が逸れたな、とりあえず秋氏が入部することは決定事項だ。異論は認めない」
「入部・・・」
異論は認めないって言われても、簡単には決められないんだよなぁ・・・
・・・どうしよう。帰宅部人生、唐突に幕を閉じそうだよ。
次回、有紀の優しさ!!
秋:眠い・・・
厚樹:体か重い・・・
又二郎:す、すまない、つい他の人の作品を徹夜で読んでしまった・・・
秋:ふざけるなよ、なんで四時まで・・・
又二郎:だがしかぁし!!!参考にはなったのだ!!!!
厚樹:おぉ。
又二郎:でも、今は眠い・・・ぐっ。
秋:あれ?又二郎が倒れた。
厚樹:すまん秋、俺も限界だ・・・うは。
秋:ちょ、厚樹・・・っく、僕も危ない、早く次回にあとがきを繋げないと・・・
有紀:お困りのようね、秋氏。
秋:え?有紀・・・なんでここに?
有紀:いや、なんとなく。
秋:よかった、それじゃあとは・・・頼んだ・・・ZZZ・・・
有紀:おやすみ秋氏、あとは任せろ・・・それじゃ、次回は私が活躍するぞ。次回もお楽しみに。