五話、僕とあいつは学食派
世の中いい事もあるって!
「昼だ! 飯だ! 学食だ!」
午前最後の授業が終わったところで厚樹が思い切り叫んだ。
「厚樹うるさい」
間髪入れず文句をたれるが、もう一人強烈なのがいることを忘れていた。
「昼だぁ! 汗だバスケだ友情だあああああああああああああ!!」
又二郎がベランダから校庭に向かって叫でいた。
そんな馬鹿を、皆当然のようにスルー。まぁいつもの事だから仕方ないんだ。うん。
初めてこの雄たけびを聞いた時は「昼も食べずにバスケするのか……」なんて思ったけど、今となってはそれが普通のことであり、皆が無視するのは当然。それが法則であり法律であるのだ。
「なぁ腹減ったってぇ! 学食行こうぜ学食!」
「わかったってば。さて、何食べよっかな」
僕と厚樹は席を立ち、何を食べようかと話し合いながら学食へと向かった。
「うぉおっ? 今日は結構人居るな?」
学食のカウンターに続く行列を見て厚樹が驚く。
「今日の日替わりランチは味噌カツ定食だからね」
うちの学食が誇る看板メニュー『味噌カツ定食』。
学食のおばちゃんにより洗練されたその味はそこら辺の定食屋じゃ到底及ばない程。
月に一度だけしか販売されないため、味噌カツ定食のある日は学食が混雑するのだ。
「まじか! んなら、今日は日替わりランチで決まりだな!」
「妥当だね。僕もそうするよ」
僕達もカウンターに続く列に並んだ。
学食で昼食を済ませた僕達は、又二郎の様子を見に体育館にやってくると、ヤツはバスケ部の先輩達に混ざり3on3をしている最中だった。
「又二郎っ、スリー!」
「任せろぉ!!」
先輩からパスをもらい、素早くスリーポイントシュートの構えをとる又二郎。
「……秋!」
「……わかってる!」
その絶妙な瞬間を狙い僕達は揃って声を張り上げた。
「又二郎! 今日のお昼は味噌カツ定食だったぞー!!」
「又二郎! カワウィー女の子がお前のこと探してたぞー!!」
突如響いた僕達の声に又二郎が動きを止める。
「おぉいいな! 味噌カツ定食! ……って知るか!! 何の自慢だ!?」
又二郎がシュート体勢のまま僕らにツッコミを入れる。
そのツッコミにかける執念は見事だが、試合中にそんなことをするのはタダの馬鹿です。
「他所見すんな馬鹿!!」
すばやく先輩が又二郎からボールを奪いとり、反対側のゴールに向かって駆け出した。
「え? あ……あぁああああー!!」
慌てて追いかけるが今からではとても追いつけない。
「ちょ! 先輩ヘルプ!!」
「アホか! 無理だわ!!」
又二郎が先輩に助けを求めるが、先輩は既にゴール付近を独走。そのまま綺麗にレイアップシュートを決められてしまった。
「何やってんだ又二郎!!」
厚樹が又二郎に向って怒鳴る。
「今のはお前のミスだからな!!」
続いて僕も怒鳴る。
「お前らが余計な事言うからだろおおおおおおおおおがあああああああああ!!」
まぁ正論だな、今のは僕らが悪かったよ。
そんなこんなで、バスケ部の3on3は終了した。
「お前らは俺の邪魔をしに来たのか・・・」
又二郎が眉間にしわを寄せ、僕等を睨む。
「いや又二郎が頑張ってるか様子見に来たんだよ」
「大人しく見るとかできないのかよ!」
がつんと、僕の爽やか笑顔に又二郎が手刀を落とす。
「痛て……いや、だって暇だったし」
「ふざけんな!」
「怒鳴んないでよ」
「っち……それはいいよもう、それで? カワウィー女の子は?」
舌打ちを打ってから厚樹の方に視線を向ける又二郎。
「……は?」
しかし厚樹は、なに言ってんだコイツ? みたいな反応で返す。
「いやいや、かわいい子が俺の事探してたんだろ? どこだよ?」
「あぁあれな? ありゃウソ」
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
ご愁傷様である。
「はいパン、今日は三百円な」
「あぁいつも悪いな」
又二郎の怒りが静まったところで学食で買ってきたパンを手渡した。
普段昼食をとらずにバスケを頑張る又二郎。そんなバスケ馬鹿に毎日パンを買って来てやるという習慣があるのだ。
ちなみにパン代は貰っているので、無駄な出費は一切無し。
又二郎はバスケ部の先輩と先程の試合の反省点を語り合いながら、僕達が買ってきたパンの袋を開けた。
「ふむ」
「ん? どうした秋?」
「いやいやお気になさらず」
「……?」
……青春だなぁ。
好きなことに打ち込める又二郎が、なんとなく眩しかった。
次回、再びファミレスへ!
又二郎:ふざけんなよお前らあああああああああ!!
秋:・・・いきなり叫ばないでよ、うるさい。
厚樹:まだ怒ってんのか?いいじゃん一回カットされたくらいでウジウジしやがって。
又二郎:なめんなよ!てめバスケなめんなよ!!
秋:いや別になめてないし。
厚樹:あれはお前のミスだ。
秋:その通り。
又二郎:どこがだよ!・・・まぁいい!次こそ俺の本当の強さを教えてやるぜ!!
秋:またバスケか。
厚樹:又二郎はどうでもいいとして、バスケは楽しいよな。
秋:だね、僕らもやってみようか
又二郎:ノノノ、君たちじゃ俺の足元にも及ばないぜ!
厚樹:黙れ。
秋:そして、腐れ。