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四十四話、夏休み、二度目の職員室にて

る・・・る・・・ルビー。


「ん、また真鍋か。まさか夏休みに、二度もお前の顔が見れるとはな」

「はい。勉学にいそしみたいが故、自主的に勉強しに来ているのです」


「・・・いや、嘘はいいから」

 さいですか。気の利いた嘘をついたつもりだったのだが、あっさり嘘だと見破られてしまった

とりあえず、こちらの男性教員が僕の担任兼、茶道部顧問の 佐藤健太(さとう けんた) 通称サトケンである。

特に今後活躍することは無いので、紹介もいらないだろう。どこにでもいる普通の男性教師とだけ、覚えておいて欲しい


「真鍋。お前なんか、失礼なこと考えて無いか?」

「いえいえとんでもない。尊敬する先生に向かって、印象の薄い、人の記憶に残りにくい人だなぁ。なんて思ってませんよ?」

「・・・よし。お前の単位数、少しいじっておくか」

「待ってください先生! ちょっとした冗談じゃないですか!?」

「冗談にしてはタチが悪いんだよ! 結構気にしてんだぞ!!」

 気にしている割には、少しも目立と努力する意志を感じないのだが。それを言うと本当に単位が危ないので、黙っておこう

そんな、前置きにしては少々危険なやり取りを交わした後、ようやく本題を切り出す


「ところで先生、実は友達が財布をなくしたんですけど届いて無いですか?」

 ちなみに、未来には職員室の前で待ってもらっている。

もしサトケンの馬鹿が「財布だぁ? 届いて無いぞ? 交番にでも聞いてこい」などと

身も蓋も無い事を口走った時、未来がどんな顔をするのかを想像したら、とてもこの場に連れてくることが出来なかった



 事情を聞いた先生は自分のデスクの引き出しを開け、中からピンク色の可愛らしい財布を取り出した

「財布ねぇ・・・ 実は今朝、とても可愛らしい財布を拾ったんだが、これが目当てのものなのかは保障できないな」

「あ、多分そうだと思います。本人連れてくるんで、ちょっと失礼します」

 それを見て物凄く安堵したが、先生の言ったとおりそれが未来のかどうかはわからないので、職員室の前で待っている未来を呼んでくる事にした



「未来、財布。あったみたいだ」

「え? ・・・ほ、ホント!?」

 職員室を出た先の廊下でボーっと突っ立っていた未来にそう言うと、彼女の表情がぱっと笑顔に変わった

まだ未来の財布だと決まったわけじゃないが、恐らく彼女の物で間違いないだろう。とりあえず確認だけして欲しいと、彼女と一緒にサトケンの元へ戻る



「先生! 拾った財布ってそれですか!?」

「う、うぉ! なんだ浅田!? 財布を落としたのって、お前だったのか!? ・・・ホラ、これでいいか?」

 全速力で駆け寄ってきた未来に驚きながらも、デスクの上にあった財布を未来に手渡すサトケン

それを受け取った未来は満面の笑みでその財布を受け取った。どうやら、あの財布は未来のもので間違いなかったらしい


「よかったね、未来」

「うん! よかった! 本当に良かったですよ、秋君!」

 4時間探し続けてようやく手に入れた財布を大事そうにしまう未来

よかったよかった。僕も今まで付き添ってきたので、嬉しさのあまり笑みがこぼれていた


「ていうか、お前等って付き合ってるのか?」

「え?」「・・・はぁ!?」

 そんな僕等が、サトケンには仲睦まじく見えたのだろうか。急にとんでもないことを言い出した


「いや、夏休みに校内デートって・・・神聖な学校で、お前等はなにをやっているんだか。財布がなくなったのも、その天罰なんじゃないか?」

「ちょ! 冗談にしてタチが悪いですよ! 今日はたまたま、偶然会っただけです!」

「そ、そうだよ! ばっ、バッカじゃないの!? これだからサトケンはいつまでたっても印象の薄い、どこにでもいるような教師どまりなんだよー!!」

「お、おまっ!?」

 おおう。未来のヤツ、さっき僕がつけた傷跡を、容赦無しにえぐりおった

流石のサトケンもこれにはカチンと来たのか、少し声を荒げて言い返す


「おおおおおお前な!? つーか! その財布が落ちていた場所と、この状況を踏まえたら、お前等が付き合ってるとしか思えないじゃないか!!」

「・・・財布の場所?」

 なんだ? 急に、サトケンの口から予想外の言葉が飛び出してきた

僕等が付き合っている。と間違えた理由が、財布の落ちていた場所だって?


「えっと、ちなみに・・・その財布が落ちていた場所って?」

「なんだ真鍋? 知らないのか? その財布が落ちてたのはな・・・お前のせ―――」

「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーぉぉぉおおおおおおおおおぉおおおおお!!!!!!!」


 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!!!

「―――いでででででででででででででっ!!!!!!!」


「なっ!?」


 未来がサトケンの胸倉を掴んで、往復ビンタを繰り出した!!?

あまりの現実離れした光景に、思わず絶句する・・・いいのか、校内暴力・・・


 何十回かビンタが往復したところで、未来はようやく手を止めた

「うっ・・・うおぅ・・・」

「先生、顔が腫れてタコみたいになってますよ?」

「し、しんぱいするな・・・もんだいない・・・」

 おそるおそる尋ねた僕に、にこりと笑顔を浮かべるサトケンだったが、その顔では笑顔かどうかの区別が付かなかった

そんな悲惨な姿になった先生の胸倉を離し、ふぅー・・・っ。と一息つく未来。支えを失ったサトケンの身体は、デスクの上にうつ伏せになった


「サトケンの馬鹿! アホ! なにわけのわかんないこと、口にしようとしてるのかな!?」

「すまん、あさだ。じじょうは、なんとなくさっした・・・たしかに、せんせいがわるかった・・・」

 口の中まで腫れているのか、うまく呂律が回らなかったが、それでも未来に謝罪する先生

事情とかはよくわかんないけど、大丈夫か? 先生?


「あの、すみません。僕が聞いたせいで」

「きにするな。おとめごころはふくざつなんだよ・・・」

「・・・はぁ」

 それ、先生が言っても説得力無いですけど

よくわかっていない僕に、先生は更に言う

「まなべ、いいか? でりかしーってやつを、つねにいしきしろよ・・・」


「・・・はぁ」

 ・・・結局、なにが言いたいのか、全くわからなかった





 その後、改めてサトケンにお礼を言ってから僕と未来は職員室を後にした

そのまま生徒玄関に向かった僕は、この学校から立ち去る。という本当の目的を達成するために、未来に別れを告げようと試みた


「さて、今日はお疲れだったね! 未来の財布も無事に見つかってよかったよ!」

 テキパキと上履きを履き替えながら、隣にいる未来に言う

「うん! みんな秋君のおかげだよ! ホントにありがとう!」

 屈託の無い笑顔が向けられ、思わず顔が赤くなる

やっべ。未来かわいすぎるだろ。みたいな?


「い、いや・・・たいしたことでは。・・・ところで未来?」

 少し照れながらも、たった今発生した疑問を未来に投げかける

・・・なんで彼女は、僕と一緒に上履きを履き替えているのだろう。という疑問だ


「ん? どうしたの?」

「いや、なんで上履きを履き替えているのかなって」


 どうしたんだろう。急に冷や汗が頬を伝ったんだけど・・・

なにか、とても危険な香りがする。今までの人生で身に付いた防衛本能が、このままでは危険だと言っている様な


「今日のお礼に、秋君に何か奢ろうと思って! 駄目かな?」

 なんだそんなことか。よかった、どうやら僕の思い違いだったようだ

未来がお礼をしたいと言っているんだ、それなら喜んで引き受けるのが、僕の務めだろう


「うん。それなら、何か奢ってもらおうかな? 僕は別に、お菓子とかでいいんだけど」

「よかった! なら、いろいろ買ってきて、部室で食べよう!!」

「いいねそれ! やったぁ! あのブリザード・ガールの待つ部室で、皆で仲良くおやつを食べるってホントに、最悪のてんか・・・ぃ・・・―――――― な、なん・・・だと・・・っ!!?」


 ちちち、ちょっと待て!? どこだ!? 僕は一体、どこで間違えた!?

どこで『茶道部』ルートのフラグを立ててしまったんだ!?


 驚愕しながら、バックステップで未来から遠ざかる

やややばい! まだ、片方の靴を履いていない!! このままでは逃げられない!!


「どうしたの秋君? 靴が片方履けて無いよ?」

「あぁ、うん。嬉しすぎて・・・靴を履くのも待っていられなかった・・・というか・・・」

「なーんだ、もぉしっかりしてよ! そんなだと、あたしみたいに財布落としちゃうよ?」

「あぁ、そうだね。ははは」

 やばいやばい! どうやって、この状況を回避するんだ!?

考えろ、考えるんだ! 未来を傷つけずに茶道部との縁を切る方法を・・・!



「あー! 急に腹の調子がぁあああー!」

 白々しい! 白々しいわ、真鍋秋! いくら即興で考えた回避方法とはいえ、それは無いだろ!

しかし、今更やめるわけには・・・!


「これじゃぁ、お菓子を食べるどころじゃない! どこかに医者はおらぬか!?」

「えぇ!? ホントに!? どうしよう、救急車・・・110!?」

 違うわ! それは警察だ! 警察にお腹の調子なんて心配されたくも無いわ!!

と、ツッコミたくなるのを全力で堪えて、冷静に返す


「ち、ちがう! 119だよ救急車は! ・・・救急車はいいから、とりあえず家で安静に―――」

「あ! 保健室は開いて無いけど、部室ならゆっくり休めるよ! 下痢なら、学校のトイレを使えばいいし!」

「いいねそれ! やったぁ! あのブリザード・ガールの待つ部室なら、恐怖に怯えながら永遠のような長い時間を、ゆっくりゆっくり過ごせ・・・る・・・―――――― こ、こんな・・・はずでは・・・っ!!?」


 結局、回避はできませんでした・・・と。そういうことです





 未来と一緒に、近くのスーパーへ行きいろいろと買出しをした僕等は、再び学校へと戻ってきた

向かう先は、当然茶道部部室。ここまで来たら、流石の僕も覚悟を決めていた


 お菓子やジュースがたんまり詰まった買い物袋を腕にぶら提げ、校内を歩く僕。隣には同じく買い物袋を提げて歩く未来。

彼女と僕のテンションは、本当に真逆だった。未来は鼻歌でも歌いそうな勢いでご機嫌なのだが、対する僕はまるで首吊り台に向かう死刑囚の如く、暗い表情をしていた



 それでも、気まずい沈黙は御免なので、会話だけは休まず続けてたけど


「それにしても、こんなところに部室があったとはねー」


 薄暗い廊下を見渡しながら呟く

旧校舎の奥の奥。照明が届いてるのか心配になるほど、放置されているって感じの廊下だ。入学してからこんなところに来るのは初めてで、なんか新鮮だ


 この学校の旧校舎は、俗に言う部室棟というやつで、

吹奏楽部や美術部などの室内系の部活が使用している教室が多いため、僕達のような帰宅部や運動部の人間が訪れる機会はあまり無いのだ


「でもねー こんな端っこのほうに部室があるのは、茶道部くらいじゃないかな? 多分だけど・・・」

「そうなんだ。が、がんばれ茶道部・・・」

「はい! 頑張ります!」

 実績が無いので仕方が無いといえば仕方が無いのだが。それでも同情してしまったけど。僕に出来ることなんて何も無いんだよなぁ



 そんなこんなで、あっという間にたどり着いた茶道部部室は、本当に旧校舎の端に位置していた

「それじゃ入るよー 有紀ー、ただいまー!」


 がらがらがらー・・・

「あ、ちょ・・・!!」

 まだ心の準備が出来てない。と、言い出すよりも先にさっさと部室のドアを開けて中に入っていく未来

慌ててその背中を追いかけ、僕も部室の中に入った






 畳の香りがふわりと鼻をくすぐる、茶道部部室。

茶道部というだけあって室内の全体的な印象は和風。清潔感のある鶯色の畳が敷き詰められた床、部屋の中央には背の低い宴会机、部屋の隅には小型冷蔵庫、扇風機、テレビ、etc・・・


 なんというか、のんびりだらだら過ごすのにはもってこい。と言わんばかりの部屋だった

しかも、部室にテレビっておい。まさか、盗で・・・いやいや、許可は取ってあるはず、だよね?



「あ、おかえり未来。4時間ぶりだけど、今までどこでなにを・・・って、何故キミがここに」

 そのテレビの前に体育座りでプレ○テ3をやっていた有紀が、僕を見てあからさまに迷惑そうな顔をする

出たな、ブリザード・ガール! 流石と言ったところだね、いきなり随分なご挨拶じゃないか・・・


「えっと・・・お邪魔します」

「邪魔をするなら、帰ってくれ」

「へーぃ・・・って、いやいやいや! そんな邪険にしないでよ!?」

 よ○もとノリか! 僕はヤクザじゃないっての!

いきなりこれでは、先が思いやられる。やっぱり来るんじゃなかった


「もー そんなひどいこと言わないでよ有紀ー。今日は秋君にいろいろお世話になったからあたしがお招きしたの! つまり、あたしのお客さん!」

「なんだと・・・っ!? キサマ、いつの間に未来を手懐けた・・・っ!?」

 未来の言葉を聞いた途端、有紀の目が鋭く光る

怖えぇ! なんだよ、僕が何かしたって言うのか!?


「手懐けてないから! 普通に探し物を手伝っただけだって!!」

「そ、そうだよ! 変なこと言わないで有紀!」

「む。未来がそう言うなら、まぁ」

 二人して否定すると、有紀はまだ不安そうだったがそれ以上は何も言わなかった


「えっと、お邪魔なら、僕はお暇しますけど・・・」

「それはいい判断だ。さぁ、そこの窓からとっとと出て行くがいい」

 せめてドアから退出させて欲しかったなぁ

「なに言ってるの!? 駄目、出て行かなくていいよ秋君。っていうか有紀なんて放っといて、こっちで一緒にお菓子でも食べようよー」

 いつの間にか先程買ってきたお菓子を宴会机にぶちまけていた未来が、僕を手招く

『放っておいて』と言われた有紀は少しいじけたように「むぅ・・・」と唸ると、再びテレビに向き直りゲームを再開した


 どうやら、この部室に入ることを黙認したらしい。

あまり釈然としないが、まぁいいか。とりあえず未来の隣に胡坐をかいて座った



 だが、黙認したのかと思っていた有紀がゲームをやりながら、ぶつぶつと文句を言い始めた。有紀のほうもあまり釈然としていないらしい


「しかしなぁ、この部室は男子禁制のはずなのだが・・・」

「いつ決めたのー?」

 そんな有紀の独り言に、律儀に付き合う未来

「・・・今だ」

 って今かよ!? どんだけ僕のこと嫌いなんだよ!?


「・・・なんだ、なにか言いたそうだが?」

「う・・・なんでもありません」


「そうか。私はてっきり『僕、顔は男じゃないから、ここにいてもいいよねー?』くらいの反撃は覚悟していたのだが、思い違いだったか」

「思い違いだよ!! 誰がそんな事言うか!!」

 思わず声を荒げてツッコんでしまう

僕の声に、隣の未来が「わっ」と驚く。しまった、またやってしまった


「おぉ、怖い怖い。男というのは、すぐに騒ぐから困る」

「うぐっ・・・何も言い返せないです」

「ふむ、まぁそう気を落とすな。実際他の男に比べて、真鍋秋・・・そうだな、これからは秋氏と呼ぼうか。秋氏は他の男と比べたらまだマトモだからな」


 マトモって・・・つまり、僕が男っぽくないということですか・・・?

はぁ、この顔のこともショックだけど。それ以上に、早く帰りたいです・・・


次回、茶道部部室!





秋:頑張ったねー

厚樹:そうだなー


又二郎:も・・・燃え尽きたぜ・・・真っ白にな。

秋:どこぞのボクサーかお前は。


厚樹:んまぁ明日は更新無し・・・って・・・

秋:ん?どうしたの厚樹?


厚樹:いや、お気に入り登録者がまた増えたぞ。

秋:え、う・・・

又二郎:嘘だろ!?うおぉ!本当だ!お気に入り登録者が10人!


秋:・・・うるさい、消えろ。

又二郎:うごぉ!


又二郎:・・・お気に入り登録、ありが・・・ぐは。

厚樹:・・・死んだんじゃないか?インフル+鉄拳で。


秋:いや、大丈夫でしょ。

厚樹:そうだな。


秋:それじゃ、また次回!

厚樹:明日は更新無しだぞ!!

秋:登録者に感謝!


厚樹:アデュ!

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