三十三話、イベント夜の戦争
ヨーロッパ。
「亮、この辺には誰もいないみたいだぞ」
「・・・そうだな。だが、敵はどこかに潜んでいる筈だ。慎重に行動しよう」
「さー、いえっさ!」
敬礼のポーズで、修が元気良く返事をした。
この旅館は二階建てで一階に男子、二階には女子と、分かれて宿泊している
現在、亮と修のいる場所は女子達の泊まる二階
彼らは美咲とさつきペアに狙いをつけていたのだが、彼女達の部屋がどこにあるかわからないため
とりあえず、適当に探してみようと二階までやってきたのである。
「ちきしょう! なんで俺達は、クラスの女子のアドレスも電話番号も知らねーんだよ!?」
修が自分の携帯を恨めしげに見つめる
「まぁ、今まで影の薄い生き方してたしな。仕方ないだろ」
「そ、それを言われると・・・何も言えませんな」
落胆する修をちらりと見て「だが・・・」と付け加えた
「それも今日で終わりだ! 俺達は、今夜を境に『影の薄い存在』から逸脱した存在になる!!」
「お、おぉー!?」
・・・お前そんなに気合入ってたのか! と心底驚く修。
「ってことで・・・心の準備はできてるな?」
亮が手に持ったモップを握り締め、後ろに居る修に尋ねる
「もう待ちきれねぇよ! さっさと行こうぜ!」
「わかったわかった。どこに敵がいるかわかんねーから、慎重に進むぞ」
急かす修に背を押され、亮は廊下を進み始めた。後ろに付いていた修が隣に並ぶ
「でもさ、どうやって美咲ちゃんとさつきちゃんの部屋を探し出すんだ?」
適当に探そう。なんて言って出てきたものの
この大きな旅館の中から、たった一部屋を探り当てるのは難しいだろう
そこで亮は、何も考えてなかった修とは違い、ちゃんとした作戦を練ってきていた
「あの二人は確実に皆が狙っているだろうからな。あの二人の部屋の前じゃ、今頃大乱闘が起こっている筈だ」
「あぁー、確かに・・・そんな気がするわ。それで?」
「それでって・・・だから、男達が大乱闘している近くにある部屋が、俺達のお目当ての部屋って事だよ」
・・・随分と浅はかな作戦だった。
「なるほどなー、でもその部屋が、美咲ちゃんとさつきちゃんの部屋じゃなかったらどうするんだ?」
「ふっ、ぬかりはねぇ・・・良く考えてみろ、男達が戦う理由はなんだ?」
「そりゃ、かわいい子と楽しい夜を過ごすため・・・あ、そうか!」
そこまで言って、ようやく修は気付いたらしい
「別に、俺達は美咲ちゃんとさつきちゃんの部屋に行きたい訳じゃない・・・そりゃ、あの二人の部屋にいけたら嬉しいけどな?」
「そうか、男達のいる近くには、かわいい子の部屋が高確率で存在する・・・」
「そう。そして俺達の目的は・・・」
「「かわいい子と楽しい夜を過ごすことだ!!!!」」
仲良くハモってから、二人はにやりと笑う
・・・やはり、とても浅はかであった。
ということで、男達を捜して廊下を進んでいると・・・
がさがさ・・・っ
突然、廊下に飾ってあった観葉植物の葉が揺れる
それと同時に、観葉植物の陰から人影が飛び出した
・・・その人影の手にはSMG。
「修! 伏せろ!」
「え? 何で? ・・・うおぉぉぉ!!?」
ずががががががががががっ!!!!!!!
亮の叫び声のすぐ後に、SMGの銃声が響き渡る
「あんぎゃああああああああああああああああああああ!!!」
人影に逸早く気付いた亮は、その場に伏せて銃弾のBB弾を逃れたが、
反応が遅れて、BB弾の餌食になった修は虚しく床に倒れる
「・・・くそっ、弾切れ早すぎだろ」
そう言って観葉植物の後ろに隠れていた何者かが走り去っていく
普段、教室で見慣れた後姿は・・・西山厚樹だった
「厚樹かっ! ・・・っち、逃がすかよ!!」
伏せていた体を起こし、逃げる厚樹を追いかけようとしたが
観葉植物の裏には、もう一人誰かが隠れていた
亮が駆け出したのと同時に、もう一人が飛び出る
飛び出したのは、とても男とは思えないルックスの持ち主・・・真鍋秋だった
「詰めが甘いね! 戦場では、敵の裏をかいた者が勝つ!!」
秋が、手に持ったSMGを構える
「なっ、フェイントだったのか!? ・・・くそ!」
亮はうつ伏せになっていた修の首根っこを引っ掴むと、自分の前に突き出した
ずがががががががががががががっ!!!!!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!??」
再び鳴り響く銃声。そして、再びSMGの餌食となった修の悲鳴が鳴り響く
すぐに銃声は止んだが、更なる奇襲を警戒した亮は、まだ身動きをとらない
「・・・弾数少なすぎでしょ。流石、地元でやってる夏祭りのハズレ商品」
さっきの厚樹と同じく、弾を切らしたSMGをポケットに押し込み
とっとと逃げ去っていく秋の後姿を確認した亮は、ようやく修の首根っこを離す
どさり。と床に崩れ落ちた修は、ピクリとも動かなかった
亮は二人を追いかけず、SMGの餌食となった修に声をかける
「大丈夫か? 修?」
「お、俺も分まで、女子の部屋で幸せになってくれ・・・がはっ」
・・・武田修、リタイア。
「おい起きろ」
べしべしべしと、白目を剥いた修の頬を叩く
「ぐえっ、ぐえっ、ぐえっ・・・チョコボーぉる・・・って痛いわ!!」
がばっと、上半身を起こす
「起きたか。どうだ? 撃たれた感想は?」
「物凄く痛いわ! ・・・っち、誰だよ、俺を撃ったヤツは!」
額に青筋を浮かべた修は、長い廊下を見渡した
しかし、既に廊下には誰も居ない。
「・・・俺を撃った奴は!?」
「もういねぇよ。撃ったのは厚樹と秋の二人だ・・・っつーか、あいつ等のずる賢さは半端じゃねぇな。お前も、もう少し気をつけ・・・って、修?」
一人感心している間に、修の姿が消えていた・・・
とある女子の部屋にて
「ねぇねぇ、何かすごい音しなかった?」
「さぁ? 男子がしょうもない喧嘩、やってるんじゃない?」
長い長い、旅館の夜は続く・・・
次回、戦争は続く!
秋:・・・戦争する前にさっさと部屋に入ればいいのにね。
厚樹:あ、俺も思ったぞそれ
又二郎:ええぃうるさい!黙れ、そして腐れ!!
秋:まぁ楽しそうだからいいんだけどね。
厚樹:読者の感想が怖いけどなー
又二郎:うるさいっつの!!!
秋:じゃ、次回もよろしく!!
厚樹:意見感想、待ってるぞ!
又二郎:・・・期待してていいのかあああああああああああああああああ!!?