三十一話、夕日の後に
伝統のある木造住宅。
「うおりゃああああああああああああ!!!!」
美咲はそう叫んで、木の棒を振りおろした・・・
「スイカ美味いねー!」
美咲がスイカにかじり付きながら笑顔を見せる
灼熱の太陽もオレインジ色に変わり、時刻は夕方。
少し涼しくなってきた砂浜で、クラスの皆は誰も割る事の出来なかったスイカを皆で食べていた
「そうだな、流石俺達1年D組! 漫画の中じゃ定番のスイカ割りが出来るとは思わなかったぜ」
厚樹も満面の笑みでスイカにかじりつく
「このスイカも塚原君が買ったんだよね、流石お金持ちだ!」
「俺もあんなでかい家に生まれたかった・・・」
「全くだねー・・・」
食べかけのスイカを手に空を見上げる。
海についてからずっと騒ぎっぱなしだったので
流石の厚樹と美咲のハイテンションコンビもお疲れの様子だ
「あ、そういえば秋はどこだ?」
ずっとほったらかしにしていた秋を思い出し、厚樹は辺りを見渡した
・・・あいつ怒ってんだろうなー。と心の中で呟く
「あー、そういえば舞ちゃんにどこか引っ張られていったよ? 確か泳ぎを教えているとかで」
「ハァ? 一日中女の子と一緒だったのかあいつは!? ・・・まぁいいか。んで、さつきちゃんはどこ行ったんだ?」
「さつきかー・・・さつきはねー?」
「な、なんだよ?」
なんだかご機嫌な様子の美咲に厚樹も釣られて笑う
「あいつは今、青春しているのだよ!」
「・・・はぁ青春ねぇ?」
ごきげんな理由は良くわからなかった・・・
「できたあああああああああああああああ!!!!!」
秋が見守る中、坂部舞は水中から勢いよく顔を上げ叫んだ
「おめでとうクラス長! ははは。何か僕より泳ぎがうまく待ってるような気がするけど」
心底嬉しそうな坂部舞を微妙な心境で見つめながら秋は微笑んだ
・・・さっきまで泳ぎの弟子だった女の子に泳ぎで負けてしまった師匠の心境は辛かった。
「ありがとう秋君! お陰で泳げるように・・・・・・・って、あぁっ!」
ばしゃばしゃと秋の方に駆けて行こうとした坂部舞はあることに気付き、水平線の方を振り返る
「どうしたのクラス長?」
「ゆ、夕日が・・・沈みかけてる!」
坂部舞の元に駆け寄った秋が彼女の視線の先を追うと
そこには沈みかけた夕日が海面を照らしていた
・・・なんとも綺麗な風景だが、残念。この作者では表現できない。
「うわ! すっげー綺麗だね!」
「う、うん!」
しばらく二人で海を眺めていたが、やがて秋の方から口を開く
「今日はクラス長と居られて良かったよ」
坂部舞は夕日を見つめたままの秋の声に耳を傾ける
・・・今秋の顔を見たら、彼女は失神しかねないからである。
「・・・あ、深い意味は無くって! 今日誰も相手にしてくれなかったから、クラス長が居てくれて嬉しかったなーってさ!」
そう言って秋は照れくさそうに頬を掻いた
「あ、秋君・・・」
ちょっとこれ、いけるんじゃない!? 今告白しとくのが一番でしょ!!? か、考える前に行動よ!!
・・・でも、ちょっと怖いかな? いやいや、それでも今朝からずっと良い感じじゃない! このまま行けば、大丈夫よ! 頑張れ私!
彼女の意志は、固かった!
心の中で、激しい討論を繰り広げた彼女は―――
「秋君・・・あのさっ」
クラス長の声に、夕日から彼女に視線を移す
「どうしたの? クラスちょ・・・え?」
隣で夕日を眺めていたクラス長は、いつの間にか僕の方を見ていた
少し驚いたが、それ以上に驚いたことがあった
夕日色に染まる彼女の顔が・・・なんというか、いつものクラス長ではなく―――
「く、クラス長・・・?」
「実はね? 秋君・・・――――――」
なんとなく赤いような、その瞳が・・・
「私・・・―――――――」
僕に大切な『ナニカ』を伝えようとするその口元が・・・
「秋君のことが・・・――――――」
いつもよりずっと大人びた、その表情とか・・・
そんないつもと違う彼女のことを―――
「おーぃ! 秋ー!?」
ばしゃぁんっ!!
「うわっ! さ、さつき!?」
クラス長が全部言い終わる前に、砂浜の方から駆けてくるさつきの声が遮った
「え、えっと・・・どうしたの?」
「どうしたのって・・・もう皆、旅館に行っちゃったわよ?」
そう言うさつきの姿は既に水着から今朝見た私服姿に変わっていた
泳ぎの練習していたら、いつの間にかそんな時間になっていたらしい。
「ほ、ホントに? 皆行っちゃったの?」
「ビーチ見たらわかるわ」
促されるままビーチの方を見てみると、確かに学生らしき姿は一人も無かった
「な、なんと・・・」
「だから言ったでしょ? ほら、さっさと行くわよ」
そう言って、さつきは僕の腕を引っ張った
「ちょっ、ちょっと待って、まだクラス長が・・・」
「クラス長って・・・なに言ってるの?」
「なにって・・・あ、あれ!?」
いつの間にかクラス長の姿が消えていた。辺りを見渡しても陰一つ無い。
・・・知らなかった。クラス長、瞬間移動が使えたとは。
「・・・fantasy?」
「わけわかんない事言ってないで、ホラ!」
「あぁ。うんわかったって、だからそんな引っ張らなくても・・・」
「うるさいわね、黙って歩きなさい!」
僕の抗議にお構い無しで、さつきはずんずんと大股で歩く
・・・なんか、怒ってないか?
どこかご立腹のさつきに手を引かれながらふと、
「ところで、さつき?」
「・・? なに?」
「皆が帰ったっていうのに、さつきはどうして残ってるのさ?」
「え・・・」
疑問に思ったことをそのまま言うと、彼女の動きがピタリと止まった
「いやあの、それは・・・」
「もしかしてさつきも置いてかれたの?」
「な、なんで私が置いてかれなきゃいけないのよ!」
「違ったか、ごめん・・・」
てっきり砂浜で本を読んでたら
誰にも気付かれずに置き去りにされたのかと思ったのだが、違ったようだ。
「じゃあ、砂浜で寝過ごしたとか・・・」
「何? 私は海に来ても居眠りしかやることがない寂しい人間なの?」
これも違うようだ。
・・・なんか、ますますさつきの機嫌を損ねた気がする
ここは気の利いたジョークで場を和ませるとしよう。
こほん、と咳払いを一つ。そして笑顔でさつきに言う
「もしかして僕のこと心配して、迎えに来てくれたんじゃ―――」
「なななっ何素敵な勘違いしてくれちゃってんのよ馬鹿ぁああああ!!」
ぴしゃぁんっ!!
閃光のようなビンタが僕の頬を打った・・・ってなんで!?
「私先に行くからっ!」
何故か顔を真っ赤にしてお怒りになったさつきは僕の手を振り解き、一人砂浜へと歩き出す
「ま、待ってくだざい・・・さつき様ぁ・・・」
わかもわからぬまま痛む頬を押さえながら、ずるずると彼女の後を追った・・・
「くはーっ! 失敗したー!」
二人が帰った後、私は勢い良く水面から飛び出た
さっきの告白の時。
急にやってきたさつきさんに驚き反射的に水中にもぐってしまったのだ
「他人の前で告白なんて、恥ずかしくて出来るわけ無いじゃない!」
もう一度、あの夕日を振り返る
既にピークは過ぎてしまったようで、水平線に沈む夕日は先程より綺麗には感じられなかった。
「あーぁ、失敗しちゃったなー、もう・・・」
告白が失敗して、悔しくて
でも、失敗して良かったかな? なんて安堵しているのも本当で。
「まぁとりあえず秋君との思い出は残せたし! ・・・よーしっ」
いろいろな想いを乗せて、とりあえず
「頑張るぞーーーーーー!!!」
真っ赤な夕日に向かって、叫んでみた・・・
次回、旅館!
秋:今回は・・・すごかったね・・・
又二郎:まぁ、ラブコメだからな、コレ。一応。
厚樹:初めてじゃないか? こんなにラブラブした感じの話は?
又二郎:書いてて、物凄く痒かった・・・
秋:そうだね・・・
厚樹:まぁ、これなら、俺のイベントってやつも盛り上がりそうじゃねぇか! よかったよかった!
又二郎 秋:え・・・? お前のイベントって・・・もう書いてあるじゃん。
厚樹:は?どこに?
秋:いやいやいや、この話の始めらへんに。
又二郎:そうだ、書いてあるぞ!
厚樹:はぁ!?スイカ食ってるだけじゃん!!
秋:あのなぁ、現実世界で女の子とスイカ食える機会なんて、そこまで無いんだぞ!!
厚樹:現実と小説をごっちゃにすんな!!
又二郎:なんだと!俺がテスト勉強の時間を裂いてまで書いた作品を馬鹿にするのか!?
厚樹:うるせぇ!
秋:ちょっと二人とも・・・
又二郎:くそっ!お前の血で、海の水を染めてやる!
厚樹:やってみろこのヘボ作者!
秋:仲良く、喧嘩しな・・・