表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/27

005 カルトは最高にカルトだった


カルト教団拠点 マラクス


 どうやらオレを闇市場(ブラックマーケット)で買った奴は常軌を逸していた。

 誘拐・殺人・強姦・拉致監禁に拷問・解体となんでもありだ。

 組織的にそんなヤベえことをしているのかって、当然だよ。

 だって虚ろなる魔神プギツムトって神を崇拝しているイカした奴らなんだからね。

 

 で、オレはってそりゃもう酷いもんですよ。

 言葉を話せる珍しいゴブリンだからって滅茶苦茶にされましたね。

 もう勘弁してくれって話なんだけど、勘弁してくれるわけもなかったよ。

 

 それとさ、オレは確か赤毛の小僧に斬られたはずなんだけど、その傷が一切残ってなかったんだよね。

 気になってたんだけど、イカした奴らに拷問されてわかったんだ。

 どうやらオレの回復速度は異常だってことに。

 ある程度のダメージを追ったら気を失うから本当のところはわかんないけどさ。

 これも暗がりと性欲の神であるイライトのせいなんだろう。


 イライトからすれば善意だったのかもしれんが、お陰でオレはとんでもない目にあっている。

 悲壮感がないって?

 そりゃそうだ。

 ろくでもない前世だったけど、こんな拷問を受けたことはなかった。

 でさ、その記憶から判断するとだ。

 とっくに気が違っていてもおかしくないと思うんだ。


 じゃあどうしてオレは正気を保っているのか。

 これもイライトのせいだと思っている。

 肉体と精神を健全に保つってやつだ。

 まぁ心当たりはあるんだよ。

 だってゴブリンに生まれたと認識して、オレは心が折れたからね。

 その時に狂っててもおかしくなかったんだ。

 でも狂ってないってことは、たぶんそういうことなんだろうさ。

 あと周りは腹をくだしてたけど、オレだけ大丈夫だったし。

 賢いからじゃなかったんだね。

 ちくしょう。


 ちなみにオレは今、カルト教団が行なう儀式のための臓器を提供している。

 住処は四畳半よりも狭い石畳の牢獄だ。

 目玉なんて何度抉られたかわからないよ。

 舌も切り取られるし、ゴールデンなナッツも抜かれた。

 腹を割かれるのなんて毎日だ。

 あいつらは暇つぶしにオレを傷つける。


 最初はさ、色々と言ったんだよ。

 罵ることもしたし、プギツムトをけなしたりもした。

 一週間も飯を抜かれたけどね。

 ここで唯一の楽しみが飯なんだ。

 オレに出されるのは残飯だと思う。

 でもゴブリンの飯より数段マシなんだよね。

 どんだけ貧しい食生活を送ってたんだよって話だ。


 怒りとか絶望とか、そういう感情は腹の底に沈めているんだ。

 今だって降り積もる雪みたいに、腹の底にどす黒い感情がたまっていく。

 ただそれを表には出さないようにしているだけさ。

 表にしても良いことなんかなにもないからね。

 むしろ悪いことしかないんだ。

 こんな劣悪な環境に慣れているってこともイライラの原因だったりするけどね。


レストレスラバー(弛まぬ情夫)


 おっとイカした奴の登場だ。

 こいつらオレのことをレストレスラバーって呼ぶんだぜ。

 なにが弛まぬ情夫だ、中二病かっての。

 つうかなんで英語なのよって思わんでもないんだ。

 たぶんイライトがくれた通訳の機能なんだろうね。


 がちゃりと鍵を開ける音がしたかと思うと、こん棒でぶん殴られる。

 くらくらとしたオレの足を持って、引きずっていくんだこいつら。

 まったく頭にくるぜ。


カルト教団拠点 儀式の間 マラクス


 気がつくと、オレはいつもの祭壇の上で縛られ、仰向けに寝かされていた。

 雰囲気的にはマヤとかアステカのに似ている。

 階段状のピラミッドがあって、その頂上に祭壇があるんだ。

 オレの目には夜空とやけに赤い月が映っている。

 星がきれいだな、なんて現実逃避している場合じゃないんだよね。

 だってもう儀式用のナイフを持った変態たちがいるから。

 儀式用のナイフって切れ味があんまりよくないんだよ。

 ざくっと刺されて、ぎぎぎぃと力づくで肉を引っ張っていく感じ。

 たぶん痛みをより与えるって方向性なんだと思う。

 最悪だろ?


「虚ろなる魔神プギツムト様に捧げる」


 ひときわ偉そうな恰好をした奴が言うと、他の奴らが唱和するんだ。

 もう最高にカルトって感じだ。

 で、こいつら薬物使ってそうなんだよね。

 だって目がガンギマリなんだもの。

 充血しまくっちゃって、そりゃもう怖いったらないよ。


「贄の血を、肉を、心臓を!」


 ばすりとナイフが腹に刺さった。

 最近はなんだか痛みを感じなくなってきているんだよね。

 前は本物の悲鳴をあげていたけど、今じゃ完全にフェイクだ。

 演出じゃなくてヤラセに近い。

 オレに演技力なんて求められても困るんだがな。

 棒読みで”ぎゃああああ”って声をあげる。

 そしたらこいつらは満足するんだ。

 ガンギマリだからね、演技かどうか見抜けるわけもない。


「我らの信仰に大いなる神の慈悲を!」


 うるせえよ。

 自分らの心臓でも抉ってみろや。

 なにが信仰だ。

 こんなにか弱いゴブリンをいじめやがって。

 がっぺムカつく。


『捧げよ、捧げよ、血を肉を心臓を』


 どっかから聞こえてくる怪しい声。

 巨人でも攻めてくんのかよ。

 オレが生贄になってしばらくして、この声が聞こえるようになった。

 ほぼと言うか確信があるんだが、こいつはプギツムトじゃない。

 シモ爺はイライトからの電波を受信していたけど、それは他の誰にも聞こえなかった。

 神官という特殊なクラスあってこそのことだ。

 だからオレや他のイカレポンチどもに聞こえる神の声なんて信じられない。

 何らかの超常的な存在である可能性はある。

 が、ほぼほぼ神ではないと思っているんだよね。


 だけどイカレポンチどもには大人気だ。

”うおおお”って叫ぶバカもいれば、感極まって鼻を啜る音も聞こえるんだよね。

 まぁガンギマリだから仕方ねえか。

 そろそろ腹の中を弄り回すのやめてくれないかね。


【カカカっ! やっぱおめえ面白いヤツだな】


 む?

 なんだこれ? 念話? 心話? ってやつか。

 

【そうだよ。お前だけに話しかけてんだよ】


 偽プギツムトでいいのか?


【ああ、よくわかったな。ゴブリンの癖に】


 ゴブリンの癖にって要らねえだろ。


”フフン”って鼻で笑いやがった。

 ムカつくぜ。


【怒るなよ、おれぁ怨嗟の悪魔マンモノラってモンだ】


 悪魔、ね。

 そりゃ神が実在するんなら悪魔もいるってことか。


【おれぁおめぇに目ぇつけてんだよ。イライトのヤツも酷ぇことしやがるなって】


 それには同意する。

 たとえ善意であってもな。


【おめぇ、おれぁと契約しねえか?】


 契約? それをして何の得があるんだ。


【種族進化させてやるよ】


 ほう。

 進化するとどうなるんだ?


【強くなる】


 おいおいおい。

 それってまさか、アレかい。

 最弱のゴブリンがニンゲン相手に無双できるって話なのかい?


【そうなるだろうな】


 やる。

 契約すんぞ、マンマンちゃん。


【カカカっ! やっぱおめぇは面白れぇなぁ。ってかマンマンちゃんって誰だよ】


 さっき名のったじゃねぇか!


【マンモノラだ。そういうところはゴブリンなのな】


 うるせえ。

 四の五の言ってんじゃねぇよ。

 《《あ》》くしろ。


【落ちつけ。契約するには手順ってモンがあンだよ】


 いいから、《《あ》》くしろよ。


【いいか、おれぁおめぇが腹の底にためこんでいる怨嗟を喰う。その代わりに種族進化させてやる】


 怨嗟を食われるとどうなるんだ?

 ってかそれだとオレの怒りとかなくならない?


【いや逆だ。より怨嗟が強くなる。正気を失うくらいにはな】


 なんでだよ!


【それを説明すると長くなンだよ! いいからおめぇはそれで納得しとけや!】


 ちっ。

 悪魔のくせに契約を軽んじるとはなにごとかね?

 まったく近頃の悪魔ときたら、どいつもこいつもそんなことばかり。

 ああ、まったく嘆かわしいね。


【おめぇはどの立場で物言ってんだゴルァ! おれぁおめぇと契約しなくてもいいンだぞ!】


 ちょっと小粋なゴブリンジョークじゃないか。

 そう目くじら立てなさんなって。

 短気は損気、急がば回れって言うじゃないか。

 ごめんよ、マンマンちゃん。


【マンモノラだっ!】


 もちつけ。


【うるせえ! クソゴブリンがっ!】


 まったく悪魔ってのはもっとこう鷹揚でずる賢くって、スマートでエレガントだと思ってたんだけどな。


【クソがっ! いい感じに壊れてやがンな】


 さぁひと思いにやってくれたまえ。

 キミのラブを注入してくれていいんだよ。


【ああ! もうわかった! 契約だ、契約してやンよ!】


 マンマンちゃんの舌打ちが聞こえたような気がするけど、どうでもいいや。

 だって復讐できるんだもの。



読んでくださってありがとうございます。

評価・コメントをしてくれると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ