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019 不死の騎士王とゴブリン


リオアハン教国 古代ブラギタ遺跡奥地 マラクス


 ”えいやー”と気の抜ける声で聖女がアンデッドの封印を解く。

 その瞬間に騎士団長が聖女を抱えて逃げ出した。

 荷物のように抱えられて、足をぷらぷらしている聖女の後ろ姿は滑稽だ。


 あとでからかってやろうと思いつつ、オレは聖堂へと足を踏み入れる。

 そこにいたのは黒い甲冑姿の騎士だった。

 デカい。

 たぶん三メートルくらいはあると思う。

 ゴテゴテとした飾りが鎧についているのもあって、横にもかなりの大きさがある。

 

「よう」


『何者だ?』


 兜を被っているが顔は見える。

 ただの灰色ドクロだけど。

 でも目のところが赤く光っていて格好いい。


「オレはマラキザ氏族のマラクスってもんだ。種族は進化しちまったけど、元はしがないゴブリンさ」


『我は不死の騎士王である。生前はフォルクハルト・ヌスバウムと呼ばれていた。そなたが封印を解いたのか?』


「正確にはオレが聖女に言って封印を解いてもらった。目的はアンタと戦うためだ」


『よかろう。ゴブリンとはいえ容赦はせんぞ』


「おう、お互いに手抜きはなしだ」


 不死の何たらが自分の影に手を入れて、バカでかい大剣を抜き出した。

 斬馬刀かよ、というくらいに巨大な剣だ。

 あんなもんまともに振れんだろうとは思わない。

 さっきからコイツの気配はどんどん強くなっている。

 でもまぁ危機を覚えるほどじゃない。


「準備はいいかい?」


 オレの問いにアンデッドが大剣を振り回して応える。

 ぶぅんと音がしたかと思うと、風が巻き起こった。

 スゲーな。

 素直に感心できる。


『さぁ存分に死合おうぞ!』


 アンデッドが踏み込んで剣を振り下ろす。

 かなりの遠い間合いなんだけど、十分に届くんだろうな。

 敢えて前に踏み込んで、頭上から落ちてくる大剣の横っ腹に手を添えるように押した。

 力の流れをそらしただけだ。

 切っ先がドゴンと音を立てて、床の一部を破壊する。

 

 そのまま剣を横薙ぎにでもするのかと思いきや、コイツは剣から手を離して蹴りを繰り出してきた。

 お? コイツはあの駆け引きなんぞなかった狼男とは違うな。

 身を引いてかわすこともできたが、敢えて十字に組んだ腕で受ける。


 なかなかの威力だけど、この身体には通じない。

 前世のオレだと問答無用で吹っ飛んでいた威力だ。

 蹴り足を掴んで、即座に足首の部分を捻ってやる。

 さしたる抵抗も感じずに、足首から下が反対方向を向いた。


 さすがにアンデッドだ。

 痛みも感じないようだが、そのままだと足は使いものにならない。


『むぅ』


 バランスを崩した隙をついて間合いを埋める。

 ヌルヌルと近づいて掌底をくれてやろうとしたら、咄嗟に後ろに跳びやがった。

 なかなか良い反応だ。


 だけどその足じゃあな。

 後ろ側の足を引きつけるように蹴り出して、再び間合いを詰める。

 掌底を打つふりからのローキックだ。

 

 というか身重差が大きすぎるんだよ。

 種族進化したことで身長も伸びたけど、だいたい中学生くらいしかないんだよ。

 対してアンデッドは三メートル程度だ。

 オレの倍くらいの身長があるからな。


 ということで徹底して末端の部位破壊を狙う。

 さっき捻ってやった方の脹ら脛あたりにローキックが炸裂した。

 甲冑の膝から下が吹き飛ぶ。


 体勢を崩したアンデッドの下っ腹あたりに貫手を放った。

 鎧を貫通したんのはいいけど、中身は空っぽかよ。

 骸骨の顔があったから中身もあるのかと思ってた。


 動く鎧(リビング・アーマー)ってやつか。

 力任せに貫手を引き抜いて後ろに跳ぶ。

 追撃をしたいところだけど、有効な手段が浮かばなかった。


『ふはははは。やるではないか! だが我は不死、不死なる騎士の王ぞ! その程度では足らんのだ!』


 ご高説をのたまっているアンデッドの身体が光る。

 その一瞬でさっき傷つけた部分が修復された。

 なるほどね、こりゃ封印するしかないって思うわな。


 ただオレには奥の手があるんだわ。

 神判の力を身体の表面にとどめて循環させる。

 身体能力がアップするわけじゃないけどね。

 この力が魔物にも通用するのか試してみたいんだ。


 脱力。

 そして自然体をとる。

 新陰流における無形の位だ。

 うちの流派だと陰の構えって言う。

 構えない構え。

 無形ゆえに千変万化。

 親爺に叩きこまれたたけど、前世のオレじゃものにできなかった。

 真似事くらいはできたけどね。

 今のオレだともっと高い精度で実現できると思っている。


 アンデッドはオレを見て”ふむぅ”と唸った。


『よいな、実によい。我も奥の手を見せようぞ』


 また自分の影から一振りの剣を出すアンデッド。

 その剣はさっきの大剣よりも小さいが両手剣ではある。

 柄のところまで含めて二メートルくらいか。


 刀身から柄まで含めて真っ黒でデコボコしている。

 デコボコのところがデザイン的にヒトの顔みたいに見えるんだが気のせいだろうか。

 曰くつきの名剣ってところかな。

 だけど当たらなければ意味がない。


 おっと。

 さっきまでとは段違いのスピードで間合いを潰してくる。

 どんだけ重かったんだよ、あの大剣。

 今のも十分にデカいと思うけどな。


 また性懲りもなく正面からの振り下ろしかよ。

 芸がないってなもんだ。

 無刀取りっといきたいところだけど、なんか触りたくないんだよね。

 ってことで一歩踏み込んで半身になってかわそうとする。


「うおおい!」


 アンデッドの持っている黒い剣から影の手が伸びてくる。

 なんだこれ。

 気持ち悪りぃな。


 大きく跳び退いて距離をあける。

 それでも突貫してくるアンデッドを見て、こりゃ遠距離からの攻撃を試してみるかと思った。


 身体の表面に循環させた神判の力を一点に集中させて放出する。

 イメージは完璧だ。

 なんせオレには漫画があるからな。

 

 人差し指を銃身に見立てて狙いをつけた。

 

貫く灰燼(ペネトレイトアッシュ)


 こんなこともあろうかとオレは用意していたのだ。

 中二病が囁いた技名を!

 不可視の波動が指向性を持って解き放たれる。


 それは突っ込んでくるアンデッドの胴体に命中した。

 命中……したよね?

 なにをしたとも問わずにアンデッドは間合いを詰めてくる。


 さらに跳び退いて、追加の一発二発と打ち込んでいく。

 お構いなしに突っ込んでくるアンデッド。

 不感症かよ、こいつは。


 さらに間を取ろうとしたら、既に背後には壁があった。

 どん、と壁に背中があたって覚悟を決める。

 仕方ねえなぁ。


 無造作に踏み込んだ一歩。

 それに合わせるように頭上から振るわれるアンデッドの黒い剣。

 軌道は単純だけど、あの変な影の手が厄介そうだ。

 ってことで敢えて真っ直ぐに間合いを詰めて、アンデッドの真正面に踏み込む。

 その足を軸にして小さく、そして素早く身体を回転させる。


 後ろ足を引きつけるのと同時に蹴り出して、再度身体を回転させた。

 恐らくアンデッドにとってこの連続した動きは、身体をすり抜けて背後に回られたように感じるはずだ。

 目の前にある無防備な腰に向けて、鎧通しと神判の力を併用した掌底を放つ。


『おごっ』


 とアンデッドの口から苦鳴が漏れる。

 同時にアンデッドの身体が崩れ落ちた。

 石造りの床に金属の鎧があたって、甲高い音が響く。


『見事……見事なり』


 余裕がまだあるじゃねえか。

 というか魔物には神判の力って効かないのか。

 なんて思っていると、アンデッドの身体が赤黒い炎に包まれた。


『おお! おお! これは……冥府の炎』


「なにそれ?」


『我のようなアンデッドでも滅ぼす裁きの獄炎だ。感謝するぞ……マラクス』


 え?

 アンデッドに神判の力を使うとこんなことになんの?

 ちょっと待って。

 消滅する前に聞きたいことがある。


「いいけど、ちょっと聞きたいことがあるんだ」


『我が滅びるまでなら付き合おう。さほど時間は残されていないがな』


「じゃあ手短に。あのささっきオレが指を立てて、アンタに力を放ったんだけど効いてなかったの?」


『ん? ああ、アレは我には効かぬ。生の身を持つものであれば効果はあろうがな。我は動く鎧(リビング・アーマー)だ。本体とも言える魔核に攻撃を受けなければ、なにをされても意味がないのだ』


「じゃあ最後の掌底があんたの魔核ってのに攻撃したわけか」


『然様である』


 ”ほおん”と納得している間にもアンデッドの身体が灰へと変わっていく。


『我の最期にふさわしい相手であったよ、マラクス。礼を言う。我が滅ぼされれば武具が残ろう。それは貴殿が好きにすればいい。良き戦いであったぞ!』


 そんな言葉を残して、アンデッドの顔面がボロボロと崩れていった。

 禍々しい騎士の鎧と黒い大剣、バカでかい大剣が灰の山に残されている。

 んーちょっとオレのポケットには入らんかな。

 なんて思いながら、黒い大剣を持ってみる。

 すると大剣が縮んで、オレ好みのサイズになった。


 うん。

 じゃあこれはもらっておくかな。

 墓標の代わり灰の山にバカでかい大剣を突き立てる。

 

 あとは聖女と騎士団長に丸投げだ。



読んでくださってありがとうございます。

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