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016 心が躍らないトップ会談


タタヌ王国 王都近郊 マラクス


 黒神官が去ったあとに、すぐに幕舎が用意された。

 簡易式の大型テントみたいなやつだ。

 中に招かれて入っていくと、若い女の神官たちがいた。

 お、ん、な、だ。

 

 うひょー。

 女と酒。

 まるでそう、キャバクラだね。


 しかしこの神官さんたちも訓練されてるな。

 オレを見ても表情を変えない。

 少し震えているようだけど、その程度はご愛敬だ。


 接待されながら酒を楽しんでいると、幕舎の前にて黒神官が声をかけてきた。


「お愉しみの最中に申し訳ございません。総教主レカサワエルがご挨拶に伺いたいと」


「どうぞー」


 と陽気な声で返答すると、目力の強い老人が姿を見せた。

 総教主と呼ばれた老人も黒い神官服を着ている。

 細身で長身なのもあって、威厳に満ちていると思った。

 白髪と深く刻まれた皺も迫力を出すのに一役買ってそうだ。

 そんな老人の後ろには二十代半ばくらいの男と、同じ年代くらいでローブ姿の女がいた。

 

「失礼いたします」


 幕舎の中に入ってきた三人が片膝をつく。

 その姿を見た接待係の女たちの表情が固まった。

 総教主ってことは国王みたいなもんだろう?

 それが膝をついたんだから驚くよな。


「初にお目にかかります。リオアハン教国総教主レカサワエルでございます。後ろに控えるのは聖騎士団長シドニー・アレクサンドルと聖女ミカリンになります。同席をお許しいただきたく存じます」


 聖女ミカリン……。

 なんじゃそのギャルのあだ名みたいな名前は。

 危うく酒を吹き出しそうになってしまったじゃあないか。

 まったく、けしからんね。


「マラキザ氏族のマラクスってもんだ。よろしくな」


 笑顔になっているのかわからないけど、オレは三人に対して挨拶をした。


「黒神官から聞いたけどさ、オレはニンゲンを滅ぼそうなんて思ってないからな。敵対の意思がなきゃ手を出さないよ」


 三人とも頭を下げているから、表情がわからない。

 ただホッとしたような雰囲気が伝わってきた。


「それは……ありがたい話でございます。改めてになりますが、我ら教国はマラクス様と敵対する意思はございません」


「おう。ただオレを拉致したヤツら許さんよ。それにも異論はないんだよな?」


「異論などございません。元はと言えば、ラモヌイーの冒険者が引き起こしたこと。その責任を取らせるという話でございましょう?」


「そうそう。ところでさ、なんでオレが北に向かうってわかったんだ? それが気になってたんだよね」


 オレとしてはちょっとした質問のつもりだった。

 しかし場の空気が重くなったような気がする。

 なんでだ、と疑問を懐いていると聖女が口を開いた。


「それはガラオリラ様からの手紙から推測したことでございます」


「ガラオリラ?」


「城塞都市ラモヌイーでギルドの副長を担っている人物です。その……マラクス様を捕縛した冒険者かと思われます」


「あの耳長か! あいつは絶対に許さん」


 聖女の顔が凍りついたように固まる。

 ぎこちない笑顔のままで、聖女はゆっくりと頭を下げた。


「話を続けさせていただきますと……」


 引き継いだのは聖騎士団の団長とかいうヤツだ。

 金髪のイケメンだな。

 青白い全身鎧に身を包んでいるけど腰に剣は佩いていない。


「その私と聖女ミカリンの二人は、十年ほど前にガラオリラと共闘したことがあるのです。その縁もあって我らにマラクス様のことを知らせてきたのです」


 ”ほう”と頷いてみせた。

 なんと言って知らせたんだね? と目で促してみる。

 察してくれるかどうかわかんないけど。


「恐らく神の祝福を持っているゴブリンがいた、と。危険なので厄介払いをするために売り払ったという内容でした。買い手が魔神教団であり、我ら教国と国境を接する国に拠点があるので、念のために知らせておいたというものです」


 なるほどね。

 それで教国の連中は、あの国を滅ぼされて焦ったわけだ。

 暗がりと性欲の神イライトは、いったいオレに何をさせたかったんだろうか。

 こんな厄介な祝福を与えてさ。


「我ら教国としてはマラクス様に協力をすると申し出をしました。そこで良ければ船でラモヌイーの近郊までお送りさせていただきたいのです」

 

 余計な揉めごとが起こるかもしれんから国には入ってくれるな、と。

 まぁ別にかまわんがね。

 神判の力を使えば制圧するのはかんたんなんだけど、好き勝手やっていると大陸にいるニンゲン全体が敵に回りそうなんだよね。


 別に手間でもないんだけど、ちょくちょくチョッカイをかけられるのも鬱陶しい。

 そういう意味では国に入らずに、海で移動できるのはありがたいね。

 

「その話は後で聞かせてくれよ。先に確認したいことがまだあるんだ」


 オレの言葉に金髪のイケメンは”畏まりました”と返答した。

 

「確認したいのは、森の近くにある町のことだよ。オレに敵意をむき出しのアイツらは殺すけど、町ごとでも問題ないよな。まぁ反対だって言っても知らんけどな」


 その言葉に反応したのは総教主だった。


「その件についてお伺いしたいことがございます」


 総教主の顔を見つつ頷く。


「マラクス様が仮にラモヌイーを滅ぼしたとしましょう。その後はどうなされるおつもりか?」


 ふむぅと考え込んでしまう。

 確かにそこまで考えていなかった。

 オレにとって大事なのはうちの氏族を皆殺しにしたヤツらに復讐することだ。

 ついでにラモヌイーとか言う町を滅ぼしてもいい。

 そっちはまぁオマケみたいなもんだがな。


 復讐を終えた後にどうしたいのか。

 王道だとここで魔物の国を建国するなんて言っちゃうんだろうけどな。

 そんな考えは毛頭なかったりする。

 そもそもゴブリンって馬鹿なんだよ。

 底辺種族同士で共闘するわけではなく、ただ弱肉強食の掟に従って生きている。

 そんなヤツらを集めて建国したって上手くいくわけがない。


 じゃあゴブリン以外の種族を集めてとなったら、底辺種族がより困るだけだろう。

 上位の種族が底辺を支配する正当性を与えてしまうからだ。

 それは果たしてゴブリン出身のオレに許容できるのか。

 恐らくできないね。

 たぶんどこかでキレて皆殺しだ。


 オレが生きている間は、力による支配ってのもできるだろう。

 だけどオレが死んだらどうなる?

 国をまとめる力がなくなったら、後継者争いの内戦にしかならん。

 オレだって種族進化したとはいっても、どのくらい生きるのかわからんしね。


 ニンゲン側に立って考えると、オレの復讐はもはや止めようがない。

 なので復讐が終われば、どこかに立ち去って欲しいのが本音だろう。

 或いは相打ちになるのがベストかな。

 でもそれは無理だろうってことが、こいつらにもわかっている。

 だから、オレにはこの大陸は狭すぎる、新天地を求めてなんていい方で、厄介払いをしたいはずだ。


 でもなぁそんな口車にのってやるほど、オレは元気があるわけじゃない。

 どちらかと言えば怠け者なんだ。

 だからニンゲンとの全面戦争なんてのもお断りなんだよね。

 負けることはないけど、戦うのが面倒。

 神判の力があるけど大陸が食屍鬼グールだらけになるってのもなんだかなぁである。

 だって美味いメシや酒が食えなくなるんだぜ。

 そりゃどデカい問題だってもんよ。


 少し間をあけてオレは自分の思いを話した。

 なんも考えてなかったんだわって。

 オレの返事に今度はニンゲンたちが黙る番になった。





読んでくださってありがとうございます。

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