ハッピーバースデーわたし
ロンフェ王国の北西に位置する街、ジェルム村。
そこで、俺。いや私が産まれた。
その日は、雲ひとつない快晴だったらしい。
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
と大きな産声が響き渡る。
「生まれたか!?」
「はい!元気な女の子です!」
「よくやった!」
そう言って父は、強く抱きしめた。
私は、至って普通の子として産まれた。髪の色、肌、顔つき、全て両親のどちらかに似ていて他の人を違うと思われる節は見当たらない。
記憶以外は。
私は、前世の記憶を持って生まれてきた。前世は隣国のベルジュール帝国の貴族で男だった。
貴族という事もあって色々と勉強や礼儀作法を身につけたが、齢9歳の時に馬車での移動中に盗賊に襲われ、母上を守る為に戦いを挑んだ末に殺され今に至る。
「はぁはぁ。私にも抱かせさせて?」
「もちろん。無事生まれて良かったよ」
「えぇ、それにしてもこの子ったら凄く可愛いわぁ♡」
そう言って私を胸に抱いた。母は私の頭を撫でながら微笑む。
次は女か、そう思いながら母に笑い返す。母は笑い返してくれたと大喜びしている。
だが私の本心は少し焦り気味だ。
私は、何度も転生を繰り返している。これで4回目だ。
1回目はエルフのとして、2回目は孤児として生を受けた。そして全員が9歳で死を迎えている。
これは神から与えられた試練なのかわからないが、生まれ変わる以上受け入れるしかないのだ。
こうして私は、新たな人生を歩み始めた。
______
「おい!サリー早くしなさい!」
「ごめんなさい!お父さん」
父に急かされ急いで準備をする。
サリーとは私の名前だ。今日は私がこの体になって9歳になる日だ。
だが特に特別な事をする訳ではなく、いつも通りの日常を送るだけだ。
辺境の農民の子として産まれた為、両親達はそういった事に構っていられる程経済の余裕がなく毎日を生きることに精一杯だ。
今日も父に連れられ私は家畜の世話をしている。
「サリー、のんびりしている時間はないぞ!」
「はい!」
私は、牛舎に入っていき餌となる牧草を取りに行く。
その時後ろから物音が聞こえ振り返るとそこには父が立っていた。
「どうしたんですか?お父さん」
「サリー…に、逃げろ」
「え、何言って…」
疑問に思いながらお父さんの胸元に目線を向けた。
真っ赤だ。
父の胸元は真っ赤に染まっており、そこから血が大量に吹き出している。
「グフッ!!」
ドサッと倒れ込む父を抱き抱えると、父は苦しそうな表情を浮かべる。
「おとうさん!!しっかりして!」
必死に声をかけるが反応がない。
すると後ろから足音が複数聞こえる。
「何なの一体!」
足音がどんどんと近づいてくる。
「やばい!こっちに来る!」
私は父を抱えて外に出ようと走り出す。しかし直ぐに追いつかれてしまう。
私は咄嵯に近くにあった木箱の後ろに隠れようとするが、その前に捕まってしまった。
「お前ら!捕まえたか!?」
「はい!こいつで間違いありません!」
「よくやった!ならすぐにずらかるぞ!」
「了解しました!」
そう言って男は大きな袋を取り出し私を押し込んだ。抵抗しようとしたが、袋の中で暴れても意味が無いと思い大人しくしていた。
そのまま私は、遠くに運び出された。暫く馬車ようなの振動が続いていたが、目的地に着いたのか、揺れは収まった。
「よし、そいつを開けろ」
外から男の声が聞こえる。私は恐怖で体が震えていた。
(嫌だ!死にたくない!)
そう願っても無意味だと分かっていても考えずにはいられなかった。
「うっ……ここは?」
目を覚ますとそこは、パーティー会場だった。一斉に皆がボトルを開放する。
「「「ハッピーバースデー!」」」「お誕生日おめでとうございます!」
「おめでとう」
周りからは拍手喝采が巻き起こる。
「ありがとうございます!」
そう言いながら頭を下げる。
私は今、パーティーに参加している。私の9歳の誕生日を祝うために集まってくれた人達に感謝しながら、目の前にある料理を食べる。
父は撃たれてしまったが、私は祝ってもらえたので結果オーライ!
ハッピーバースデーわたし