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神様の手違い  作者: 理兎
9/10

その後の2人

「なあ、その『僕』って言うの続けるのか?」 


 エドワードが突然そんなことを尋ねてきた。


「……やっぱり変かな。『私』? なんか慣れないなあ」


 なんとなく癖で『僕』って使ってしまうんだよね。確かにすっかり女の子になってもうしばらく経つので、『僕』はちょっとおかしいかもしれない。


「今日一日、試してみたら?」


「効果あるかなあ。すぐ忘れそうだけど」


 難色を示すと、エドワードがちょっと考える素振りをした後、にんまり微笑んだ。


「そうだな、ペナルティがある方がいいか。『僕』って言ったらキス1回でどうだ」


「それ、エドだけ得する話じゃないか?」


 胡乱な目でエドワードを見るけど、さらっとかわされる。


「いいからやってみよう。じゃあ、今からな」


 そうして気を使う一日が始まってしまったのだった。


---


「こっちは僕がやるから……あっ」


「はい3回目」


 長年の習性ってなかなか抜けないもので、あれからたった2時間で3回目の失敗だ。


「わざと間違えてる?」


 にやにやしながらエドワードが近づいてくる。


「違うから! つい言っちゃうんだよ。もーぼ……いや、私のばか……」


「いまのは0.5カウントってとこかなあ」


「判定が厳しい!」


 失敗続きの自分の不甲斐なさに頭を抱えていたら、エドワードが項垂れてしまった僕……じゃない、私の顎に手を添えて軽くキスをした。


「いまのは0.5の分な」


 えっ、と思う間にもう一度、今度は深く唇を塞がれる。顎に添えていた手はいつの間にか耳辺りに移動していて、骨張った指で両耳の穴を塞がれてしまった。外の音は遮断されて、聞こえるのは口中の音だけだ。それが妙に艶めかしい。


 力が入らず、のしかかってくるエドワードを押し返すこともできなくてソファに押し付けられてしまう。


「んぅ……ん……むぅ……はぁ……はぁ……」


 長々と口付けられてようやく解放されたけど、ぐったり力が抜けてしまって起き上がれない。


 エドワードを見ると、紅潮した顔でこちらを見つめている。


「ルカ」


 寄せてきた顔を両手で押しとどめる。


「だめだってば!」


「そんな顔して誘うのが悪い」


 誰が、どんな顔で誘ったって!? 言いがかりだ。

 しかし私の憤慨をよそに抵抗虚しく、顔を抑えていた腕を掴まれて剥がされてしまった。


 首筋にチュッと音を立てながら唇を落とされる。


「ちょっ……やっ……」


 あまり人に触られない部分に柔らかい感触が這って、むずむずする。

 口付けが段々下に移動して、胸元を鼻先でくすぐり始めたので身を捩る。


「やめっ……こっの……目を覚ませ馬鹿!」


 前にも似たようなことがあったけど、今回は手が使えないのでエドワードを止められない。


 どうしよう、どうすれば。


 考えた末に、『手が使えないなら脚だ!』と、立てた両脚を踏ん張り、力一杯勢いをつけてソファを蹴る。その勢いで身体をぐるりと回転させてエドワードごと床に落っこちた。


 さっきとは逆に私がエドワードを押し倒している格好だ。あまり見ない角度で見るエドワードは呆気に取られているけど、そんな顔でも綺麗だなあ、と変な感心をしている場合ではない。


 ぐっと近寄って、耳元で囁く。


「今は仕事中だからダメだよ」


 すると、くすっと笑う声がして


「後でならいいってことだな」


予想外に低い囁きが返ってきた。


「なっ……」


 反射的に身を起こそうとしたけれど、腕を回されてがっちり抱え込まれてしまった。


「いつもは恥ずかしがってなかなかキスさせてくれないから……楽しみにしてるね」


 続けられる笑いを含んだ艶っぽい囁きに、全身が一気に熱くなる。


「ぜったい、絶対、もう『僕』って言わないから!」


「ムキになるのかわいい」


 甘い囁きにあわせて、耳元にふっと息を吹きかけられた。……なんかエドワードのやらしさがレベルアップしてる気がするんだよなあ。


「そういうの、どこで覚えてくるんだ」


「ルカのかわいいとこが見たくて、色々研究してる成果だよ。……具体的に聞きたい?」


エドワードが艶然と微笑みながら、囁いてくる。


「! ……いい! 聞かない!」


「残念、それじゃあ実践で反応を見ようかな」


 完全に揶揄われている。悔しいので、何か意趣返しをしてやろうと思ってがばっと覆いかぶさる。そのまま不意打ちで固まるエドワードの耳に、ぱくり、と齧り付いてやった。ついでに、口に含んだ耳たぶをぺろりと舐め上げてやる。


「うわっ」


 跳ね起きたエドワードが、頭から湯気が出そうなくらい真っ赤になっている。


「僕だってやるときはやるんだからね」


 してやった。にやっと笑ってエドワードの顔を覗き込むが、すぐに失言に気付く。


「4回目だな」


 あっと思ったけど、遅かった。またキスされる、と思ってぎゅっと目を瞑ったけど、頬に軽く唇が触れるだけで済んだ。


「……今これ以上は、俺の自制心がもたない」


 不思議そうにしていたら、真っ赤なエドワードが言いづらそうに呟いた。


 結婚するまで、あと半年。先はまだまだ長いみたいだ。

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