はじめての2人
結婚式を挙げた、その日の夜。
身支度をしてくれたメイドたちはすでに下がっていて、部屋には私とエドワードの2人きりだ。
どちらも寝室のベッドの上で並んで黙りこくってしまっている。
もう小一時間はこうして座っている気がしてきた。
ただ座っているだけなのにこれから起こることを想像してしまい、心臓はばくばくと音を立てて、落ち着かない。
正面から顔を見るのもなんだか恥ずかしくて、目を合わせることもできないままだ。
「……あのさ」
エドワードが意を決したように口を開いた。
「はっはい!」
緊張のあまり、声が上ずる。
「そろそろ、寝ないか?」
「えっ」
思わぬ提案に、間抜けな返事をしてしまう。
「いや、その……違うな。寝るって普通に眠ろうって事じゃなくて、アレだ、そろそろ押し倒してもいいかっていうことであって」
「情緒!」
直球のお誘いについ大きな声で窘めるが、こっちを見る顔は真剣そのものだった。
「そんな薄着で準備万端のルカとベッドの上に2人きりで、ちょっと……我慢の限界だ」
手を伸ばしてきて、私の頬をするりと撫でる。その手つきがいつもより艶かしいので、ますます鼓動が激しくなった。
いまの心境を伝えようとするけど、自分でもわかるぐらい声が震える。
「準備万端なわけないだろ! 緊張でいっぱいいっぱいなんだよ……は、はじめて、なんだから」
「本当に? 嫌じゃない?」
くすぐるように撫でる手と同じように、艶っぽく囁かれた。
こっちは頷くので精一杯だ。
「俺もはじめてだから、余裕無いしうまくできるかわからないけど……できるだけ優しくする」
そう言うなり、押し倒された。
上から見下ろしてくるエドワードの色気が凄くて、今更臆してしまう。
「ちょ、ちょっと待って」
「無理。待てない」
あっという間に唇を塞がれて、深いキスをされる。
離れたと思ったら、またすぐに口付けられて。すごく気持ちいいのだけど、何度も繰り返すので段々酸欠気味になって涙も出てきたし、頭がぼーっとしてきた。
「……エド、くるしい……」
唇が離れた隙に掠れた声でなんとか窮状を訴えてみるけど、通じたのか通じていないのか、それを聞いたエドワードの瞳が凶暴にぎらついた。
「そんな風に名前呼ぶの、反則だ。優しくできなくなる」
一体何が反則なのか。何故だか押さえつける手が少し強くなった。
「え、や、話が違う……」
「煽るルカが悪い」
そう言って覆いかぶさってきたエドワードに対抗できる術はなく、朝まで離してもらえなかったのだった。
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目を覚ますと、日はもう高くなっていた。
明後日までは休暇にしているので寝坊しても問題ない。
服を着たいけどエドワードに抱きしめられた格好なので、そろりと抜け出そうとする。
「……?」
私の動きに気が付いたのか、エドワードがぼんやり目を開けた。
「おはよう」
体を捩ってエドワードの方を向く。
声をかけると、なぜかふにゃっと笑ってぎゅっとくっついてきた。
「……昨日のルカ……かわいかったなあ……」
無意識で呟いたのだろうけど、その言葉に一瞬で全身真っ赤になった。
「な……」
恥ずかしすぎて文句も出てこない。
こっちの気も知らずに、エドワードはふにゃふにゃ幸せそうに微笑みながら寝ぼけている。
腹立ち紛れにぐりっとお腹をつねる。
「うわ、なんだ!?」
驚いて目を覚ましたエドワードの腕から、素早く抜け出した。
「……俺、何かしたか?」
「知らない!」
ぷい、と背を向けガウンを羽織る。
あんな……あんなに恥ずかしいことを呟くなんて不意打ちだ。ずるい。
否応なしに昨夜のことを思い出して、まともに顔が見られない。
「ルカ? 何怒ってるんだ?」
状況を把握してないエドワードが近寄ってきた。後ろから様子を伺うように抱き寄せ、耳元に擦り寄ってくる。
「……怒ってはいないけど……」
「けど?」
「エドが恥ずかしいことを言うのが悪いんだ」
「どんな?」
「昨日の……その……」
言い辛いな、と口籠もっていたらクスッと笑われた。
「! ……からかったな!」
「ごめん。ルカ可愛い、好きだよ」
抱き寄せる腕に力が篭り、すりすりと頭を擦り付けてくる。
「……昨日はありがとう」
おもむろにそう囁かれた。
「うぅ……そんなお礼言われるようなことじゃ……」
「俺の奥さんになってくれて、嬉しい」
こしょこしょ囁かれる声は変に色っぽいわけではないのに、背筋がぞわぞわする。
自分も何か言わなくては、と言葉を探す。
「エドも、あの、昨日は……その………優しくしてくれて、ありがと……」
返事はないけど、背中越しにエドの身体がこわばった感触がした。
「? どうかし……ひゃっ!?」
言い終わる前に抱き上げられて、そのままベッドに連れ戻される。
「俺の奥さん可愛すぎ。今日は一日離せないかも」
エドワードが突然、壮絶な色気を垂れ流しながら迫ってきたけど、訳がわからない。ちょっといちゃいちゃしていただけのはずなのに、何がスイッチを入れてしまったのか。
「昨日より、悦くするから」
「むっ無理! 昨日がはじめてだったんだから休ませて……」
「子作りが目標だから、慣れるまで頑張ろうな」
2人で、と言いながら、掬い取った私の掌に、ちゅっと音を立ててキスをしつつこちらを見つめてくる。
頑張った甲斐があってデラージュ公爵家に双子が産まれるのは、まだちょっと先の話。




