全世界共通ランキング最上位2名の激闘
『──さァッ! 始まりました世紀の決闘! |VRMMORPG、『ツインワーク・バレッティア』がサービスを開始して以来初めてとなる大きなイベントはこちら、プレイヤー全世界共通ランキングナンバーワン、及びにナンバーツーの本気のバトル! 決闘ルールは一対一、両者SPは無限となっています! 決着はどちらかが降参と宣言するか、HPが0になったタイミングとなります! 字幕設定をONにしている視聴者の方々から『!』が多いとありがたいコメントを頂いておりますがあえて言いましょう! この場に居れば誰もが感嘆符を、夏場の便器の裏辺りに住み着かれることが多い黒くてテカテカした名状し難き昆虫の如く大量発生させることでしょう! そんなことを言っていたら低評価数がすでに1万を超えました! 総視聴者数と比べたらそのくらい全然平気! 実況・解説は公式公認プレイヤー、チャーミングなトサカが特徴の〈ナレ郎〉でお送りします! なおこちらの決闘は全世界同時翻訳で放送されています!』
鶏のようなトサカ…………の、ような髪型の好青年アバターがテレビ越しに俺を見てくるので、思わず先程コンビニで買ったカップアイスに付属する木のスプーンを折ってしまった。幸い、プラスチックのスプーンは大量に余ってる。
プラスチックのスプーンをカップアイスに突き刺し、テレビの前に座った。その頃にはチャーミング(笑)トサカの長ったらしい前口上が終わり、今回戦うプレイヤー2人の紹介が行われていた。
『まず紹介するのはナンバーツー、その頑丈さは留まるところを知らぬ要塞〈畑山権座・ブロー〉ッッ!! その名前とは裏腹に、職業欄には格闘術を用いるジョブがない! あとついでに農家要素もない! どうしてくれるんだ!』
『実家は漁師なんだな』
明らかに農家のような格好をしたアバターが、訛った口調で一言、すると『聞いてないよォ!』と実況席から声が飛ぶ。ガチョウクラブかお前は。
『お次はお待たせ致しました最強の男! その背中には『天』の文字と鬼の顔、そして胸元には7つの傷跡に同じ数の種類の悪魔のタトゥーペイント! それらがあっても嘘偽りなし、称号に値する実力は持ち合わせている! 優男に成りすました狼〈ユーマ〉ッッ!!』
『ちなみに傷はありますがタトゥーペイントは入ってません!』
『これはなんという真面目男! バトルが始まってから露わにする本性に期待が高まります! それでは両者、装備を整えて──』
本当に優男のようなアバターに、白銀色の鎧を纏わせたユーマの紹介が終わり、ついに、2名の決闘が始まった。
『──レディー、ファイッ!!』
どこからか鳴ったカーンという音が2名の合間を通り過ぎると、ユーマは装備の杖を地面に突き刺し、権座・ブローは魔法のステッキを振った。
『『【我が戦績、糧となりて穿ち】!』』
『おおっとこれは、両者共に最初からブースト! 今までの決闘の勝敗の割合に応じてステータスが変動する、決闘を1万回行った者しか使えないスキルだぁ! そして先に動くのは──』
『キラキラりん! オラの声に応えて、精霊さんっ! 変・身──【精霊に愛されし魔女】!』
『──権座・ブローだぁぁあッ! なんと権座・ブロー、あの農家のような衣装に農業で鍛えられたような筋肉はただの飾り! 第一職に魔女、第二職に重装兵士を添えた、重装魔女なのだァァァァッ! なお、男でありながら魔女を選んだのは彼が最初で最後! 男が選んでも女が選んでも変化はないが、男が魔女になる唯一のデメリットは周囲からの冷酷な目線ッ! もしやそれに耐えるために重装兵士を選んだのかぁ!? それはともかく──真なる姿、通称魔法少女コスに身を包んだ権座・ブローは、魔法スキルの命中率が通常の1.5倍となります!』
『まだまだ、これだけじゃないぞ! 永遠に空の覇者に在りて、その役目、降り注ぎて果たせ! 【星の流れる夜】!』
『──超・超・超特大魔法スキル、【星の流れる夜】! 本来ならSPを大量に消費しますが、このルールではSP切れの心配は無用! 空から降り注ぐ隕石が1つ直撃する度に相手のSPを吸収する効果はあるものの、このルールでは降る隕石が1個から15個というランダム性から成り立つ高火力に頼ったようです! それに対してユーマは──』
『…………我が名に応えよ、異形なる者。我が血を喰らえよ、異形なる者。我が身体に堕ちよ、異形なる者──【降霊術/蠢く一つ目の触手】』
『──おおっと、こちらは第一職の召喚士、そして召喚士の派生職である第二職、降霊術者の統合スキル! 召喚士は敵MOBを倒した際に【結晶化】というスキルを使うと低確率でアイテム化、インベントリにストックが可能な職であり、通常はその『結晶MOB』を解放することで召喚しますが、その派生職である降霊術者は『結晶MOB』を自分のアバターと置き換えることで、SPが切れるまで自分自身が敵MOBとなって行動できます! もちろんこのルールでは決着までその効果は持続します! ところで、『蠢く一つ目の触手』と言えば……』
トサカがカメラ目線になったので、思わず二杯目のカップアイスに刺さったプラスチックスプーンを折ってしまった。二本目のプラスチックスプーンを取りに行くと、テレビからこの世のものとは思えない咆哮が聞こえ、近所迷惑になるなと思った。
戻ってきて目にしたのは、降り注ぐ八つの隕石をその触手で受け流す、一つの目を核とした触手だけの生命体であった。
『これは恐ろしい! その見た目は思っていたよりもSAN値が削れてしまいそうだ! あのMOBは、高難易度クエストステージ【異形概論】のノーマルMOBではありますが、その強さはマップのエリアボスすべてに劣らないほどです! さぁ、互いに一手動いたこの戦況! どちらが勝利を収めるのでしょうか!』
チャンネルはそのままで、とトサカが言った瞬間、三杯目のカップアイスを持つ手に力が入ったかと思うと、アイスがテーブルの上に溢れていた。