第九話 昔話
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
初めて盗賊狩りをした日のことは良く覚えている。まだ俺が異世界に召喚されて一月も経っていない頃だったと思う。
あれはダンジョン遠征の帰りだった。王都に戻る途中、食糧や水を分けてもらうために寄った村での出来事だった。子供もいないような山奥の小さな村だった。
夜番以外が寝静まった真夜中のこと。ダンジョン遠征が終わり、全員が溜まった疲労に負けて泥のように眠っている。遠征が成功して気が抜けていたからかもしれない。
村に侵入する盗賊の気配に気づかなかった。
カンカンカンッ!と村の鐘が鳴る。敵襲を告げるその鐘は眠っていた身体を反射的に起き上がらせる。その音でようやく目覚めた時には既に遅かった。
「……この臭い……まさか!?」
パチパチと木材が焼ける音とともに焦げ臭い匂いがしてきた。宿から飛び出すと盗賊が村に火を放っていることに気づいた。
「ひゃっはっー!」
「燃やせ!燃やせ!」
「全員皆殺しだっー!」
赤いバンダナを巻いた数十人の盗賊が襲来した。後から知ったが、こいつらは王都の周辺の村を荒らしまくる有名な盗賊団だったらしい。
「全員起きろ!敵襲だ!」
当時の王国騎士団団長ーーエルヴィスは馬に騎乗して兵士たちを起こして回る。一番早く盗賊の襲来を感じとったのが彼女であった。
俺は武器を持ってすぐに寝床から飛び出す。
エルヴィスは女性であるのに弱冠20歳で王国騎士団長を任された国の最高戦力。身長は190を超え、その細腕で大きな大剣を力強く振るう。彼女の特徴は圧倒的な腕力と圧倒的な戦闘センス。どんな敵であっても巧みな技と駆け引きで絶対に負けることはない。
ダンジョンの遠征のために組織された騎士団は合計で30人。対して盗賊は目視した限りでは同数以上。盗賊にしてはかなり良い武装をしている。盗賊には似合わない白銀の鎧や魔法使いの杖などを装備している。恐らく誰かから奪ったものだろう。
騎士団もすぐ装備を整えて迎撃する。半分は村人を逃し、もう半分は盗賊を撃退する。俺は撃退する部隊に組み込まれた。
「いけるか、ホーマ」
「任せてください、団長」
国から与えられた片手直剣の【魔剣サンライズ】をしかと握る。その刀身は黄金色に輝き、帯びる魔力によってその色は変わる。また念じるだけで伸びたり縮んだり、必要な長さに変化することができる優れものだ。
「よし!いくぞ!」
団長が号令をかける。すぐそこに迫った盗賊は俺たちを見て少し怯む。まさか反撃してくる戦力がこの村にあるなんて思わなかったのだろう。
「「「おう!!!」」」
俺たちは盗賊の集団につっこんでいった。
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結果から言えばボロ勝ちだった。そりゃそうだろう。国の最高戦力である騎士団が相手なのだ。盗賊ごとき、なんてことはない。
「はぁぁ!!!」
「ぐはぁ!!!」
俺も盗賊を迎え撃ち、合計で三人を切り伏せた。身体の一部を切り落とし、戦意を削いでから縄で縛った。
「……ホーマ!何をやってる!」
刀を血で真っ赤に染めた団長が下馬して俺に近づいてくる。俺とは違って傷ひとつついていない。流石だ。
「……え?ちゃんと捕まえましたよ!」
「なぜ殺さない!盗賊は即刻首を刎ねろ!」
人を殺したこと経験の無い俺は唖然とするしかなかった。いくら盗賊だからって殺すことなんてできない。異形の魔物はどれだけ殺しても心が痛むことはないが、人間は違う。
人間には家族がいて、恋人がいて、友人がいて。こんなクズ達でも帰りを待っている人達がいるのだろう。愛する人がいるのだろう。
「……でも殺す必要なくないですか?」
人を殺すなんて、したく無い。
いや、俺にはできない。その覚悟がない。
「騎士団の規則に従えないというのかホーマ」
その漆黒の剣が俺の首に添えられる。少し触れただけで首が刎ね飛びそうだ。エルヴィスはギラリと鋭い目つきで俺を睨みつける。それだけで俺は腰が抜けそうなくらいだ。
エルヴィスは俺と歳があまり変わらないにも関わらず、歴戦の猛者の貫禄がある。彼女に逆らうなんてできやしない。
しかし、俺には目の前に転がっている盗賊の首を切り落とすことはできない。
「仕方がない。手を貸せ」
「え……?」
エルヴィスは俺の両腕を掴んで振り上げる。そしてそのまま盗賊の首に向かって振り下ろす。
彼女の馬鹿力に抵抗できないまま、俺の魔剣はスパッと盗賊の首を刎ねた。盗賊は声をあげる間もなく、派手な血しぶきをあげて生き絶えた。
初めて人を殺した俺は思わず魔剣を地面に落とす。人の肉を切る感覚。血の匂い。死んだ者の表情。
感じることのできる全ての不快感が一気に俺に押し寄せる。気持ちが悪い。吐き気がする。
「……お、おぇぇぇ!!」
思わず嘔吐してしまう。どんどん団長以外の騎士団員も集まってきた。俺の無様な姿を見て馬鹿にしたように笑っている。
「この軟弱者!人一人殺せなくてどうする!」
エルヴィスは俺の頬をつねる。気づけば残りの二人は既に首が刎ねられていた。俺は地面に這いつくばりながら、エルヴィスを睨む。
「俺は魔物を倒すために召喚されたんです。人を殺すためじゃない」
頬をつねる力がより一層強くなる。エルヴィスの眉間に皺が寄る。
「いて!いてて!」
「馬鹿者!騎士団に所属する以上人を殺すことなどこれから五万とあるぞ!」
確かその日から一週間は何も肉が食えなかった気がする。それどころかほんとんど食事が喉を通らなかった。
そして俺が独り立ちするまでエルヴィスの死ぬほどきつい特訓を受け、人を蟻を踏み潰すように簡単に殺せるまでに成長したのだ。
今思えば本当にいい経験だったと自信をもって言える。
これから俺の元クラスメイトを経験していくのだろう。それができるようになることがこの世界に適応するということなのかもしれない。
だが、この世界で生き抜くためには人を殺せるようになることは必須だ。
「……エリー。後で説教だ」
『……そ、そんな〜』
俺は懐かしい過去を振り返りながらエリミエンスとの同化を解除したのだった。
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