第七話 ただいま
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
「……えぇ?」
俺は困惑するしか無かった。たった数時間の間に見事に異世界の洗礼を受けている彼らを見て、ただただ困惑するしか無かった。
盗賊の人数は10程度。クラスメイトはここにいるのは25人。
数では圧倒的に優っているはずなのに、称号『勇者』を持つ彼らは抵抗することなく、大人しく縄で縛られていた。
全員が持ち物と服を剥ぎ取られ、木にくくられている。
流石に可哀想というか、情けを覚えるというか。惨めというか。哀れというか。
(こりゃあ、見殺しにしたら胸糞悪いな)
オタクグループがいないのは気がかりだが、どうせ何かトラブルがあったのだろう。今はどうでもいい。
「みんな盗賊に捕まっちゃったわね〜。あーん、怖いわー!あなた様。どうするの?」
チュッと頬に軽くキスをして俺を揶揄うように笑う。
シリアスな展開になるときに限っておふざけで俺にキスしてくるのが彼女の癖だ。俺はいつものように頭を軽く上から叩く。
「いやん♡」
うるさい精霊の手を強引に引いて洞窟から出る。
「……さっき貸した分、早速返してもらうぞ」
「あら、強引な人ね。あまり無駄遣いしないでよ」
俺は深呼吸をして精神を落ち着かせる。
エリミエンスに持ってかれた魔力は俺の全魔力の七割程度。せっかく俺の魔力を受け取った大精霊が隣にいるんだ。これを使わない手はない。
俺だけでも十分対処できる敵。だが、今回は山賊に俺のリハビリに付き合ってもらおう。
魔法より数段上の次元の圧倒的な力。
人間が辿り着けない境地。
「……久しぶりにやるか、エリー」
「ふふっ♡やっぱり私の出番って訳ね!魔力を精霊力に変換!」
大精霊エリミエンスは胸に手を置いて暖かな風を纏う。枯れた地面から、樹木から、岩から、大気中から、数百、数千の綺麗な花が一気に咲き乱れる。
全てがキラキラと星のように輝き、まるでその空間に大きな虹が出現したかのようにカラフルだ。
「ふふん、こっちも準備万端よ」
「すごいでしょ」とでも言いたげな表情で得意げに鼻を鳴らす。そうだ、せっかく大精霊様を呼び出したんだ。めいいっぱい力を貸してもらおうじゃないか。
エリミエンスの体はエメラルド色に眩く光り、その光は俺を暖かく包み込む。
『ふふ♡この感覚、やっぱり良いわね♡』
脳内にエリミエンスの声が響く。まるで俺の体内に棲みついたみたいな久しぶりの感覚だ。
「感覚共有」
『感覚共有♡』
エリミエンスの力が俺の身体に流れ込んでくる。感覚的にはインストールに近いかもしれない。俺という媒体に精霊の力を一時的にではあるがインストールできるのだ。そして同時に彼女と同化して感覚がタイムラグ無く共有される。
頭の中に情報がスッと流れ込んでくる。
森の地形。その中にいる生物の数・種類・特徴。
エリミエンスが常に感じ取っている感覚だ。
情報量が多すぎて頭がパンクしそうだが、彼女の能力はまだまだこんなものではない。
「……人間だけを探すぞ」
『は〜い♡あなた様〜♡』
甘えた声が脳内に響く。同時に情報も流れ込む。
男、25人。女、15人
男の方が多いのは山賊の分。とりあえず、人が集まっている場所を目指す。ほぼ全員がそこに集まっている。
少し離れた所にいる四人はオタクグループか。もうすぐ森を抜けそうだ。とりあえず放っておこう。多分無事だろう。
「……あ、顔バレは嫌だな。仮面つけてくか。」
《アイテムボックス》から仮面を一つ取り出す。
(えっと、確かここら辺に)
「おっ!これこれ!炎祭の仮面!……確かどっかの祭りで買わされたやつだったかな」
スッとそのヘンテコなデザインの仮面をつける。同時にアイテムボックスから勇者時代に着ていた服を取り出す。
これで今の俺が誰だかは分からないだろう。
「それじゃあ…山賊達には痛い目にあってもらおうか」
「腕が鳴るわね」
俺は心で念じて魔法を発動する。
「〈転移〉」
『〈転移〉♡』
俺たちの身体は一瞬にして、クラスメイトと山賊達の元へと移動した。
****
衣服は剥ぎ取られ、身体は縄で縛られている。
女子はすすり泣いているだけ。男子は暴れ疲れたのかぐったりしている。みんな項垂れているだけで何もできない。
まだスキルなどを上手く操れない彼らは逃げることすらできないでいた。というより、恐怖で自分達に逃げる力があることに気づけないでいるのだ。
彼らの中には縄ぐらいどうにかできるスキルを持っている人もいる。
まあ、レベル1でしかも異世界初日にスキル使いこなせなんて無茶な話だが。
だが、このままではみんな死んでしまう。盗賊なんて慈悲の欠片もない野蛮人。金も命も尊厳も全て奪われる。
「……なるほど」
木の陰に隠れながら俺は状況を把握する。
クラスメイト達はニ箇所に固められている。男子は俺から見て左側。女子は右側。
全員、この世界では珍しいものとされる『制服』を剥ぎ取られたみたいで下着姿で木にくくりつけられている。
それを見張るのは盗賊の下っ端共。男子側に五人。女子側に四人ついている。
そして最も俺に近い所にいる大男。頭と思われる巨漢の男は一人で真ん中に構えている。
これで10人だ。この場にいる男の数は盗賊含めて25人。クラスの男子が15人であることを考えると、丁度だ。
盗賊の頭領は椅子にずっしりと座ってぴくりとも動かない彼の右手に握られた大きな斧はかなり使い込まれている様子だが、その分手入れもきちんとされている。
頭に一人だけ赤いバンダナをつけており、一人だけ銀の鎧を着用している。
盗賊にしては重装なのは少し気になる。スピードではなく、パワー重視なのは盗賊というよりむしろ戦士の気概だろう。
「……いいね」
どしりと大きく構える雰囲気から彼が強者であると分かる。リハビリには丁度いい相手だ。
「……《鑑定》……あっ、やっべ」
鑑定スキルを発動したらすぐに弾かれた。流石に対策していたらしい。鑑定されたことに気づいたその男はこちらに顔を向ける。
すぐに目が合った。
「おいっ!誰だ!出て来い!」
熊のように大きく低い声は森中に響きわたる。
その声を聞いた他の盗賊達もゾロゾロ集まってくる。
俺は隠れるのを辞めてお望み通り姿を見せてやる。こうなったら真っ正面からぶつかってやろう。
盗賊狩りなんて久し振りだ。異世界に来てだいぶ序盤に経験するイベントだ。数は多いが弱すぎる。経験値稼ぎにはまったく向かない。
でも、人殺しを経験するには最適だ。
「……あいつは何してんだ」
俺を追放した張本人を横目で見る。なんと情けないことか、泡を吹いて伸びている。結局俺は坂田竜誠の尻拭いを任されたわけだ。集団をまとめる立場にある人物にはそれ相応の責任が伴う。一国の王がそうであるように、途中退場なんて許されない。
おい、本当はお前がなんとかしないといけないんだぞ。
職業『勇者』の陽キャくんよ。お前のステータスだったら盗賊ぐらいワンパンできるくらいのポテンシャルあるのに。
「……まあ、いいや」
俺は大きく深呼吸して、無理やり笑みを浮かべた。
別にこいつらを助ける訳じゃない。
自分の肩慣らしのためだ。
「……ただいま、異世界。さぁ、やろうか」
『は〜い♡』
楽しい楽しい盗賊狩りが始まった。
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