第六話 洗礼
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
「……〈清潔〉」
ベタつく身体を魔法で綺麗にしてから床に落ちている制服を拾う。
「ちょっと、少しは余韻に浸りましょうよ。賢者タイム?」
服がはだけてほぼ上裸状態になっていることを何ら気にしない素振りで俺に再度すり寄る。肌と肌が密着した状態で俺の顔を嬉しそうに覗き込む。
まるで子犬の尻尾のように細い帯状の天衣が楽しそうに左右に激しく揺れている。
「バカなこと言うな。魔力を補充しただけだろ」
「もうっ、雰囲気が台無しじゃない」
気高い精霊様は頬をぷくーっと膨らませて俺の鼻を摘む。
精霊は魔力を有していない。つまり、精霊が単体で魔法を使うことは不可能だ。召喚主である俺から補充するのだ。
「というか、久しぶりとは言え気合い入りすぎなのではないですかね?ほとんど持ってかれたんだけど」
俺は大袈裟に頭を抱えてみせた。急に魔力を消費するとその反動で吐き気や頭痛を催す。慣れているとは言え気分が悪いことに変わりはない。
「ふふっ、お・し・お・き♡」
ペロリと小さな舌を出して妖艶に笑う。
制服を全部着てネクタイも締め直す。エリミエンスはくるりと一回転するとはだけた服は一瞬で元に戻った。本当に便利な生物だと羨ましく思う。
しかも、それだけでは無い。
「……う〜ん。なんだか色々大変だったのね」
既に平らげたご馳走の味を思い出すように舌を口の中で転がして、困った顔をみせる。
先程の魔力補給の際に俺の記憶も読み取られていたらしい。わざわざ何があったか説明する手間が省けた。エリミエンスは俺の記憶を読みながら怪訝そうな表情をする。
「ちなみに、なんだけど……」
エリミエンスはこつっと彼女の額を俺の額に合わせる。
「……この人間共はじゃあ……お知り合い?」
頭に鮮明な映像が流れ込む。
そこには今にも殺されそうになっているクラスメイト達の姿があった。
****
──時は数時間前に遡る。
和鳳舞を追放した後、クラスには微妙な空気が流れていた。お互い顔色を伺い、コソコソと何か相談し合っている。元々全員が仲のいいクラスでは無かった。
クラス内でいくつもの派閥が存在していてグループで分かれて行動している。それが異世界に来てから顕著になったのだ。
実際のところ全員が鳳舞を追い出すことに賛成した訳ではない。彼を擁護した女子生徒ーー加賀美ーーを始めとして坂田竜誠をリーダーとするイケイケグループ以外の生徒達は積極的に和鳳舞を排除する意思などなかった。
「すまないが、僕たちはここで失礼するよ」
そんな中。突然そう言い出したのは最初にここが異世界だとみんなに説明した木村君達オタクグループだった。
「はぁ!?何言ってんだよ!お前ら!」
「そうだそうだ!さっき確認した時お前ら結構良いスキル持ってたんだから協力しろよ!」
木村達オタクグループは和鳳舞ほどではないが、やはり陽キャグループからバカにされたり、蔑まれたりしてきた。
異世界に降り立ち、力を持ったオタクは強気な態度を手に入れた。
その態度にやはり気に食わない陽キャ達は苛立ちを露わにして大声で怒鳴る。
「ちょっと!みんな落ち着いて!」
ほぼ全員のクラスメイトから大きな信頼を得ている加賀美が制止するも、止まらない。止められない。
「協力する?笑わせないでくれたまえ。さっき誰かさんを追放したばかりのくせに」
眼鏡をくいっとあげながらそういったのは木村の村角である。彼もオタクの一人。このクラスから離れる準場を既に済ませていた。
「あんな協調性もなんも無い無能なやつといるとみんなが危険に晒されちまうかもだから仕方ねぇだろ!」
「だったら僕たちもあなた達と協調するつもりはないので知識0の状態から頑張って下さいね」
「んだとこらぁ!?さっきからお前らイキりやがって!オタクのくせに調子のんなよ!」
「はいはい、だからどうしたんですか」
そこからは言うまでもなく。
男子達の喧嘩が始まり、結局木村達オタクグループはクラスから離れることになり、早速クラスは分裂した。
なんとかクラスを一つにまとめようとした加賀美もただそれを見ていることしかできなかった。
「……爽夜ちゃん。私達これからどうなっちゃうんだろうね」
隣で震えた声でそう言ったのは加賀美の親友の白石だった
小動物のような愛嬌があり、守ってあげたくなるタイプの可愛い女の子だ。
「だ、大丈夫だよ、きっと。みんなで協力すればなんとかなる……はず」
気を強く見せる彼女も実際見えない未来にとてつもなく恐怖を感じていた。全身が凍てつくように寒い。鳥肌がたち、恐怖で悪寒がする。
せめて森の中じゃなかったらもっと恐怖は和らいでいたかもしれない。
いきなりこんな恐ろしい場所に放り出されて年頃の女の子が平気でいられるはずない。
「……私…お家に帰りたい…」
「うん……そうだね…」
ただそう返事することしかできなかった。ここがどこかも分からない、私達にどんな力があるのかも全く分からない、正直心は折れかけていた。
「みんな!切り替えていこう!とりあえずだんだん日が落ちてきたから森を抜けるのは諦めて野営するしかないと思うんだけど、どうかな?」
クラスのリーダーである坂田は声を大にしてこんな時でもみんなをまとめようとする。その表情には焦りが見える。
しかし──
「でもよ!…俺達野営セットなんてもってないぜ?」
「確かに!……竜誠君、具体的にどうすればいいの?」
現状は何も変わらなかった。
突然学生だった彼らにサバイバルしろなんて無理にもほどがある。いくら彼ら全員に勇者たる資格。そして勇者としての素質があるとしても、その力は未熟すぎる。それに加えて知識もない。
この世界で生き抜くには彼らの考えは甘いと言わざるを得ない。この世界はサバイバル。生きるか、死ぬか、だ。
追放された和鳳舞が懸念した状況が実際に起こっていた。不安と恐怖が伝染してクラス中に広まる。
「そ、それは……」
そして、皆が途方にくれている中。
追い討ちをかけるように最悪の事態が発生した。
森の奥から人声が聞こえてきた。下品な笑い声だ。そして足音がどんどんと近づいてくる。
「おいっ!誰かいるぞ!」
「親分!若いガキがわんさかいますぜ!」
「はっ!はっ!大量!大量っ!」
急に姿を現したのは武装した数十人の大人達だった。見るからに人相が悪い。格好からして山賊の類である。
「あぁ?こんな森の奥になんでガキがいやがる……。それに見ねぇ服装だなぁ」
その中でもドスンッと足音を立ててやってきた巨漢の男は異様な雰囲気を漂わせていた。筋骨隆々で全身墨入り。スキンヘッドで手には大きな斧を持っている。
「たっ!助かった!お願いします!助けてください!」
クラスのリーダーである坂田は迂闊にも賊の一人に近づいてしまった。
──ズドンッ!
気づくと身体は宙を舞っていた。
泡を吹き、気を失って地面にぐったり倒れ込む。
「はっはっ!おいおい!山賊に助けを求めるとか馬鹿か!?常識知らずにもほどがあるだろ!」
「持っている全財産とその見慣れない服をこっちに渡せ!クソガキどもぉ!」
山賊達は大笑いしてゾロゾロと彼らの周りを囲む。
にちゃりと気色の悪い笑みを浮かべてジリジリと近づいていく。異世界の学生達は初めて遭遇した『敵』にただ屈することしかできない。身体が恐怖で動かない。
明確な悪意と血で汚れた鋼の刀がクラスメイト達に向けられた。
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