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第二話 再召喚

拙い文章ですが、よろしくお願いします!

それでは、お楽しみ下さいませ!

「あの腹黒じじいめぇ……!」


 狭いトイレの個室に座りながらそう呟いた。大体結果は予想していたが、まさかここまでとは。

 

 最後の最後まで良いように利用されただけ。用無しになったらまるでゴミをゴミ箱に投げ入れるように簡単に捨てられた。


 尊厳は踏みにじられ、功績は奪われた。


 本当に、これが勇者なんて冗談にもほどがある。


 別に勇者に憧れていた訳でもないし、特別扱いして欲しいとも思わなかった。俺はこの世界に帰れれば良かったのだから。


 だが、そうだとしても。


「……くっそ、うぜぇ……」


 とりあえず、頭の中であの王様のふざけた顔を何度もぶん殴っておいた。


 それにしてもなんとも言えない懐かしい感覚だった。魔力も何も感じない澄んだ空気。音姫付きの白い洋式便所。トイレットペーパー。内履。学ラン。


 全ての物に新鮮みを感じる。当たり前だが、異世界とは全く違う。肌に纏わり付く空気感や光の質まで何から何まで違う。


 帰ってきたのだと、純粋にそう思った。


 体感的には約3年振りなのだから懐かしく感じるのは必然だろう。なんとも言えない安心感が心地良い。


 俺をこき使う貴族。俺を襲う魔物。命をかけた死闘。人々の期待。勇者としてのプレッシャー。


 全て取り払われた。俺は自由だ。


 開放感で胸が躍るようだった。


「……ステータスオープン」


 当然そう呟いても出るはずがない。


 ここは魔法なんてものが無い世界なんだ。


 なんて、なんて素晴らしい世界か。


 俺はこれでやっと元の世界に帰ってきたのだと心の底から安堵するとともに、天井に向けて強くガッツポーズをする。


「……そういえば」


 俺はポケットから液晶がついた長方形の薄い金属を取り出す。なんと進んだ文明の結晶か。俺はスマホをまじまじと見つめる。


 電源ボタンを探して慎重に押す。


「……おぉ」


 思わず感心の唸り声が出る。何度もボタンを押して画面をつけたり消したりする。


……特に意味はない。


「えっと、今は……?」


 画面に映し出された日時を確認する。


 2023年9月20日。8時00分。


 概ね俺のこの世界での最後の記憶と一致していた。うろ覚えにすぎない記憶だが。


 確か俺が異世界に召喚されたのは朝トイレの個室に入ってすぐの時だった。場所のズレと時間のズレは無さそうだ。つまり、本当に俺が召喚される前にぴったり戻ってきたということだ。


 まあ転移する前に正確に時間など確認しているはずないので、実際どれほど時間のズレが生じているかは詳細には分からないのだが。ズレていても数分程度だろうと考えておく。


 俺は意を決してトイレから出る。懐かしい廊下を歩き、懐かしい扉に手をかけ、懐かしい教室に足を踏み入れる。  


 なんとも無い行為が感慨深いものに感じてしまう。


 それどまでにあちらの世界とは違いすぎる光景だった。


 久しぶりの教室はザワザワと話し声で騒がしく、既に多くの生徒がクラスに入っていた。しかし、誰も俺が教室に入る事を気にする者はいない。


 3年5組。出席番号28番。スマホケースに挟まれていた学生証の内容を頼りに俺は自分の居場所に戻ってきた。


 俺はまるで新入生の入学初日の時のようにそわそわした態度で教室を歩く。


 緑色の大きい黒板。黒板消しクリーナー。一人に一つ与えられた机と椅子。壁に画鋲で留められている掲示物。


 その一つ一つが俺の過去の記憶を鮮明に思い出させる。


 だが、流石にどこが俺の席なのかは思い出せなかった。最後に座っていた席はどこだったか。学校はころころ席替えするので記憶が曖昧になっている。


 空いている席はたくさんある。どれも自分の席かと思えばそう見えるし、違うと思ったらそのようにも見える。


「……あれ?どうしたの?」


 後ろから急に声をかけられる。思わず声が出そうになるくらいびっくりした。まさか俺が背後を取られるなんて。


 もし、相手に殺意があれば俺は死んでいた。これは一生の不覚だ。


…………などと考えてしまう思考を強引にストップする。


 違う違う。そうじゃない。俺は帰ってきたんだ。


 あっちの常識はこっちの非常識。意識から根本的に変えていこう。


 俺は心を落ち着かせて振り返って声の主を確認する。


 本当に懐かしい顔だった。


 確か彼女はクラス委員長をやっていた………あれだ。うん。名前は出てこないが、存在はちゃんと覚えているぞ。


 くりっと大きな瞳がこちらを見つめている。長い綺麗な黒髪が特徴的で、あちらの世界には黒髪は全然いなかったからどこか違和感を感じてしまう。


「……う、うん?え?」


 とりあえず『あれ?』と言われたので返事をしておく。なんと答えれば良いか分からず口篭ってしまった。


「いや、だからどうしたの?自分の席の前に突っ立って」


 彼女、委員長は俺の目の前の席を指差す。


 少し錆がかった年季の入った机だ。


「あ……いや、なんでも。……座るよ」

「え、う、うん……?」


 自分の席を見つけた俺はすぐさま座る。もう忘れないようにクラスを見渡して自分の席の位置を把握する。


 自分で思ったが、今の俺はかなり挙動不審で不気味な奴に見えていること間違いないだろう。


 委員長も『なに、こいつ…?』みたいな顔で俺をちらっと見た後に俺の前の席に腰掛けた。


(いや!前の席かよ!)


 心の中でそうツッコむ。なんだか気まずいと感じながらもまだ朝礼が始まるまで時間があるので手持ち無沙汰になる。


 こういう時どうやって暇を潰せばいい?


 周りは友達と楽しそうに談笑している。勉強している人もいれば、読書している人もいる。


(あれ?俺って何してたんだ?)


 机の中をガサガサと漁る。教科書と筆記用具が入っているだけ。しかもあまり使われた形跡はない。


 次にキョロキョロと周りを見渡す。当たり前だが、見知った顔が多い。だけど、いくら探してもこの人達と会話した記憶が出てこない。関わった記憶がまるで無い。


──もしかして俺……


 嫌な予感がする。いや、確信に近い。


 そんな時委員長が振り返って俺の顔をじっと見てきた。


「え……な、なに?」

「いや……う〜ん。なんか雰囲気変わった?本当に急に」


 首を傾げて鋭い質問をする。まるで理科の実験の結果を確認する時のように俺をじっくり見て観察する。


 もしかしたら魔王討伐したからですかね?なんて言えるわけないので、


「雰囲気?……そんなことないと思うよ」


 と、なるべく自然に返事をした。


 すると、ぞろぞろと前から男女数人が歩いてくる。


 俺をちらりと見た彼らは顔をしかめて目を逸らす。


 そう、やはり嫌な予感は当たっていたのだ。


「おい、爽夜(さよ)。そんな奴と関わるな」

「おはよっ、さよっち。こっちで話そっ」


 茶髪の高身長爽やかイケメンが一人。その隣に金髪のミニスカギャルが一人。その取り巻き多数。


 俺を見て露骨に嫌そうな顔をした彼らは強引に委員長を前に向かせる。委員長の席に一気に人が集まってきた。


 どうやら委員長は人望が厚いらしい。


 そして、俺はその逆。クラスでかなり嫌われているらしい。理由は覚えていないが、うん。確実にそうだろう。


「ちょっと、みんな急に集まってこないでよ」


 一気に俺の前の席が騒がしくなった。ヘイトを向けられた俺は大人しく机に突っ伏す。


 思い出した。俺は学校で()()過ごしていた。


 そうか。結局俺はここでも一人だったのか。友達も恋人もおらず無味無臭の生活を繰り返していたのか。


 この状態、なんだっけ。


「ボッチに話しかけるだけ無駄だ」

「そうだぜ?あんな陰キャ放っとけよ」

「さやっちはうちらと話してればいいの!」


 あぁ、全部言われた。


 『ボッチ』・『隠キャ』。俺を罵る言葉は繰り返し俺に浴びせられる。この感じ。思い出した。


 聞こえないフリをしてやり過ごそう。


 きっと昔の俺もそうしていた。


 俺は目を閉じる。


 朝礼が始まるまで少しは寝れるはずだ。魔王を倒してからすぐ地球に送還させられたので肉体的疲労と精神的疲労がかなり溜まっている。



 本当に疲れた……じゃあお休み。


 

 俺の意識が完全に途切れる寸前。


 それは来た。


 ゾクッ!!とまるで背中に氷柱を入れられたかのような鋭い寒気を感じる。

 

 一瞬、教室が静まりかえる。教室の掛け時計の針が止まる。


 全身に鳥肌が立ち、何か巨大なものに見つめられているような気持ちの悪いプレッシャーを感じる。


 眠気が一気に吹き飛び、目を開く。


 俺は顔を上げて立ち上がる。冷や汗が止まらない。


 なぜなら、この感覚は()()()と同じだからだ。

 

「まさかっ!」


次の瞬間──

 

 教室は白い光に包まれた。

ここまでご覧頂き本当にありがとうございます!

お楽しみ頂けていたら幸いです!

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