第一話 異世界の勇者
新連載です!!
元々投稿していた作品をリメイクしました!
最初の方は連続で投稿するのでよろしくお願いします!!
どうぞお楽しみ下さい!
場面が変わる所は****このような記号をいれますが、ご了承ください
「……はぁ…はぁ…やっと倒した……のか」
思わず手の力が抜けて長年苦楽を共にした相棒、片手直剣の【魔剣サンライズ】を床に落としてしまった。同時に俺の身体も冷たい地面に倒れ込む。
戦闘が終わりふと辺りを見渡せば、そこはまるで地獄のような光景になっていることに気づいた。
赤黒い空の下。魔物の血溜まりが繋がってまるで一つの大きな池のようになっている地面はひどく冷たい。ぐちゃぐちゃの魔物の死体が散乱しており、ひどい異臭を放っている。
魔族領は日が出ることが無いので、正確な戦闘時間は良く分からないが、よくもまあこんな所でずっと戦闘を続けていたものだ。自分で自分が恐ろしくなる。
感覚的には一週間以上戦い続けていた気がする。狂気の沙汰だ。
数分前の自分はやはり正気では無かった。口に溜まった自分かもしくは魔物の返り血をぺっと吐き出して、地面に手をついてゆっくりと立ち上がる。
「……でもまあ……それもこれで終わりか」
ほとんど視界を失った瞳で天を見上げる。この気持ちは達成感か、それとも虚無感か。不思議と嬉しいという気持ちは湧いてこなかった。
異世界に召喚されてから約三年。
やっとこの瞬間を迎えることができたのに、だ。
俺は今まで元いた世界ーー地球ーーに帰るために戦い続けてきた。腕がもげ、腹に穴が空いても、敵を屠り続けてきた。いつのまにか人々は俺を『勇者』と呼ぶようになり、魔王を打ち滅ぼすことを望んだ。
正直、勇者とか世界を救うとか。俺にはどうだって良かった。地球に帰ることができれば、なんでも良かった。俺にはテンプレ勇者のような高尚な心意気は無かったらしい。
俺を約三年前にこの世界に召喚した【スンナ王国】が俺に元の世界に帰る条件として突きつけたのが、魔王討伐だった。何も知らない土地で当時無力だった俺が反抗できるはずもなく、黙って国の道具として使われることにした。
大した援助も無く、ただ功績だけを求められる都合の良い人形。それが俺だった。
教育?補助金?そんなの何一つ無かったね。
そして孤独のまま俺は最強へと至り、言われた通り魔王討伐を成し遂げた。
心にぽっかりと穴が空いたような気分になる。ぼろぼろの足を引きずって宿敵に最後の挨拶をする。
目の前に見えるのは息耐える寸前の魔王の姿。下半身はなく、青紫色の血液は出尽くしてもう枯れている。
だが、四つある瞳を見れば分かる。
まだ、魔王は完全に息絶えてはいなかった。
「よぉ……気分はどうだよ…」
俺が見下す形で命を削り合った魔族の王様に声をかける。
「……人間なんぞに……俺が……」
目の前の魔王、名をヘルヴィアスという。世界を滅ぼす力を持っているとされ、完全に復活を遂げてしまえば誰も手を付けれなくなってしまうのだという。だからその前に俺が打ち倒した。
「……そうか」
スンナ王国という大した力も持っていない小国家の木偶の坊勇者に敗れる最恐は一体どれほど惨めなものか。どれほど哀れなものか。
ヘルヴィアスは悔しさに塗れた苦痛の表情でそのまま息耐えた。
激しい戦場には時が止まったかのような静寂だけが残る。
もう仇敵はいない。
俺だけが血塗られた地に立っている。
「……これで……帰れるんだよな」
魔剣ランサイズを拾い、異空間収納にしまう。
俺はそのまま一人で帰路に着いた。
****
豪華で荘厳な西洋風の宮殿内にラッパやドラムの音が鳴り響く。続いて大きな拍手と歓声が巻き起こり、部屋の中央の扉が両隣の騎士によってゆっくりと開かれる。
眩しい光に目を少し細めながら、部屋中央を横断するレッドカーペットの上へと足を踏み出す。
俺の体格には大きすぎる赤マントを左右に揺らしながらゆっくりと入場する。歩くたびに腰の剣と銀の鎧が当たってガチャガチャと音が鳴る。マントを踏まないよう厳重な注意を払いながら真っ直ぐ前へと歩みを進める。
(本当に歩きにくい格好だよな……)
そんなことを考えつつも、俺は一歩一歩行進する。向かう先はこの国の王様の下。
この光景ももう見納めだ。
歩きながら俺を取り囲む異質な空間をもう一度目に焼けつける。初めて見た日は本当に驚いたものだ。突然変な部屋に移動したと思ったら、変な格好の変な髪型の奴らに囲まれていた。夢じゃないことを理解した俺はここが日本、いや地球ではないことも一瞬で理解した。
宮殿の様子を表現するならばあ・ち・ら・の・世・界・で言うバロック建築様式だろうか。建築そのものだけではなく、彫刻や絵画を含めた様々な芸術活動によって空間を構成し、複雑さや多様性を示すことを特徴としている。特に内部空間は複雑な構成になっており、いつ見ても思わず息を呑んでしまうほどだ。
そして俺を取り囲むのは全員この国の貴族階級の人間達。
中央に座る王族を筆頭として最上級の地位を持つ貴族達が俺をじっくりと見つめている。そのほとんどが俺を良いように思っておらず都合の良い道具としてしか考えていない。ずっと俺を利用し続けてきた腹黒い連中しかいない。
「よくぞあの最恐の邪神を倒したくれた!勇者ホーマよ!これで世界に平和がもたらされるであろう!」
「ありがたきお言葉です」
いつもよりさらに豪華に飾り付けられた部屋に、各国のお偉いさんがぎゅうぎゅうに敷き詰められている。
俺は盛大な拍手とともに頭を深々と下げた。
「邪神の討伐は予てより全世界が待ち望んでいたこと。お主は世界の英雄となったのだ」
「身に余る光栄です」
口から当たり前のように嘘を吐く。こんなことももう慣れた。だって光栄なんて思うはずが無いだろう。
俺はこの国に道具として飼い殺されてきた。周りには信頼できる人間なんて誰一人いなかったし、いたのは媚びへつらう卑しい大人だけ。
信じられるのは自分の力だけだった。
「……だが、平和な世界にはもはや勇者の存在価値は無いとは思わないかね?」
「…はい?今なんと?」
顔を上げるとそこにはニヤリと笑うウィーシャ王がいた
「……もう用済みだと言ったのだ。安心しろ、すぐに元の世界に帰してやる」
ウィーシャ王がそう言うと急に床が眩しく光り、身体が光に包み込まれた。
「代わりにセレモニーには私の息子が出てやるから感謝しろよ?はっはっはっ!」
ウィーシャ王の汚い笑い声とともに俺は転移魔法で元の世界へと帰されたのであった。
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