第九十五話 青き清浄なる世界のために
あっさりすまし汁
ヨンコク大陸西北部 エッヒメンズの地 オオッス国に着いたのは深夜で有った。
先行のヒーデキンに先に使者を送っていた為に巨大な鍋に炊き出しが出来ていた。
亜里沙はヒーデキンに近付くと彼は本当に同じ物を召し上がるのですか?と、聞かれる。
トークシーマンの地から持って来た食材だった。
蕎麦の実とさつま芋と里芋と人参と大根と昆布が入ったすまし汁だった。
ほのかな醤油と野菜の優しい香りがする。
いい物ばかり食べていた為、口や胃があっさりした物を欲していた。
なんなら、2、3食、抜いても良い位である。
美味しそう、体にも優しそうな良い香りね。
ヒーデキンは素直な亜里沙の言葉を深読みした。
自ら清貧の模範となり、食料消費を抑え、少しでも多くの者に分け与えようと・・くっ!
亜里沙は涙を流すヒーデキンを見て、煙が目に染みたのかな?と、微笑む。
ヒーデキンには後光がさしているかの如く眩しく、清らかに見えた。
身も心も捧げてみようと心から思えた。
そこにタカショタが来る。
何故かタカショタも泣いている。
気付けば周り者は皆、涙を流していた。
亜里沙
そう言えば、入れ物?お椀とか足りるのかな?
ヒーデキン
不揃いながら集めてましたが、流石にコノ人数だと半分と言った所かと・・
そっか、足りないのか、わかりました。
一緒に行きましょ!と、周りの数人を連れて亜里沙は近くの家に行くと玄関ですいませーんと大きな声で呼びかける。
家の主は女王様御一行の先発が来ている事は知っては居たが、流石に夜分遅くになんだ?となり、不機嫌に玄関を開ける。
亜里沙
夜分遅くに申し訳有りません、炊き出し用の食器が足りずに困っています。
食器をお借り出来ないですか?
家の主は黒の女王様、自らが食器を借りに来た事に驚愕し、直ぐに持って参ります。と言い放つと、食器と言う食器をかき集めると炊き出し場所に飛んで行く。
数件回ると、噂になり、周りの家の方々が食器を持って炊き出しを手伝いだした。
器の問題は無くなった。
そして、亜里沙自ら、食器に汁を注ぎ、子供、病傷者、親子連れ、年配者と優先的に渡していく、とくに子連れには大き目のお椀に注ぐ。
お箸が無くて御免なさいねと声を掛けながら渡す。
皆、号泣しながら受け取って行く。
数日、飲まず食わずの者でさえ、ありがた過ぎて口を付けれずにじっと器の汁を見る。
最後に炊き出し係と手伝ってくれた近所の方々に注いで渡す。
一番最後に少ない残り汁をタカショタとヒーデキンにかき集め、器半分位の汁を渡し、ごめんね、少なくてと言う。
タカショタとヒーデキンは滅相も御座いませんと、有り難く頂く。
しかし、飲まず食わずの者達は炊き出し汁一杯では満たされずにお腹を鳴らす。
その時だった、近くに居た眠そうにした小さな女の子が亜里沙に話しかける。
黒の女王様は食べないの?
私はお腹空いてないからいいのよ。と、優しく微笑みかける。
タカショタとヒーデキンはその会話を聞き我にかえる。
あぁ、何と言う事だ・・我々の為に!亜里沙様は・・
空の木椀を落とし天を仰ぎ号泣する。
全ての者達が満腹には程遠いが、それ以上に心が清らかに満たされた瞬間だった。
参照
大洲市
https://www.city.ozu.ehime.jp




