第八十九話 5に入っては4従え
「5に入っては4従え」とは?
来日したイスラム教徒達が「郷に入っては郷に従え」をアッラーへの信仰や豚肉製品やアルコール由来品を食べない事等、宗教上、出来ない事以外を合わせる為に実際に出来た造語
同志
トークシーマン国民や旅人達は黒の女王様を一目見ようと街道沿いに群がった。
いきなりの大規模パレードに周りの商店は商売繁盛である。
遠方から聞こえる「よしこの」リズム、阿波踊り独特の曲に掛け声が重なる。
先頭集団が近付くと商店にいた客達は「蜘蛛の子を散らす」かのように街道沿いに散って行く。
店主、店員達も慌てて店を閉めて街道沿いに向かうと先頭集団が現れた。
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アビィン 亜里沙一行はトークシーマン国に入ってから、踊り続けている。
時に激しく、時にスローペースで、そして、最後尾に見ていた人々が踊りに加わってくる。
正に踊る阿保ぅに見る阿保ぅ、同じ阿保なら踊らな損、損とばかりに参加者が増える。
荷物の多い、ただ付いて来るだけの者を最後尾に皆、目をキラキラさせて付いて来る。
ふーん、阿波踊りってカーニバルやパレード形式だから、広い場所や櫓や山車、神輿が要らないから商店街の活性化には便利なお祭りだね。
だから、場所が狭い東京でも高円寺、大塚や東武練馬、小金井、小岩、白金、渋谷とあっちこっちでやってるんだ。
ん、そう言えば阿波踊りって宗教的な意味合いが無い祭りだから、御輿とかが要らないのかな?
そう言いつつ、輿に担がれてる自分自身が可笑しく思え、自然と笑みを振り撒く。
街道沿いから本物だ、ありがたや!、商売繁盛有り難う御座います!と、様々な声が聞こえてくる。
亜里沙は輿の上から笑顔で手を振って答えるのだった。
既に長蛇の列は長過ぎて最後尾が見えなくなっていた。
先頭集団がトークシーマン マスジトの前を大きく周回し始めた。
二周、三周、四周とまだ黒の女王様本体は見え無い。
出迎えに出ているトークシーマン マスジトの導師は祭りの熱気が狂気に変わる事を恐れた。
6周、7周、まだなのか?8周めに輿が見えた!
導師は初めて見る聖なる色の黒い肌に魅了されそうになり、自らを戒める。
イカン、いかんぞ、これだけのパブリックアイ(大衆の目)があるのだ、視線一つ、言葉一つ、行動や身振り、手振り、その全てに注意を払わねばならない。
そして、輿がマスジト前に正対すると、後続が周回に入る。30分後、最後尾が周回に入ると太鼓や鐘の音が止む、女王を中心に幾重にも重なり中心の女王に顔を向けられている。
女王が皆さん、お疲れ様!と言うと、おぉ!、あぁ、わあ、と大歓声があがる。ゆっくりと輿が下され、黒の女王が大地に降り立つとマスジトまでの人の渦がまるでモーゼの十戒での海の様に割れる。
導師は目の当たりにした光景に奇跡だと言葉を発しそうになり、飲み込み。
〔ダメだダメだ、我らが信じるのは唯一、アッラーのみ!〕
一人の男を右前に黒の女王は笑みを振りまきながら向かって来る。
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タカショタ
こちらが黒の女王様、アビィン 亜里沙様である。
ご挨拶を
導師
両手を胸にお辞儀をしながら、遠路遥々、お越し頂き誠に有難う御座います。
わたくしは当マスジトの導師です。
トークシーマン マスジトは貴女様を歓迎致します。
お辞儀し終わると目の前に笑顔の亜里沙の顔があった。
視線を合わせる為に片膝を付き導師の右手に握手する。
急に来てごめんね、お世話になります、私、マスジトに来るのを楽しみにしてたんだ!
導師はフレンドリー過ぎる対応に周りの目を気にした。
い、いけません、女王様、私などに片膝付くなど
亜里沙は導師の肩に手をぽんぽんすると、硬いなぁ、同じ神を信仰するモノ同士、仲良くしましょ!
導師は我が耳を疑った。
今、な、何と申されましたか?
クリスチャンの亜里沙は普通に伝える。
信じる神はこの世に一つでしょ?
導師を始めムスリム、ムスリマ達は目を大きく見開き、口から自然と言葉が出る。
ラーイラーハ、イルアッラー(信じる神は一つのみ)、アッラーフ、アクバル!(神は偉大なり)と
導師は心配事が無くなり、緊張の糸が切れ、黒の女王様が同じ神を信仰すると知り、感動も合わさり、自然と涙が頬を伝うのだった。
次話は丸山岬丸がでます。




