第四百七話 音楽の街
沈む夕陽
R・3・5・23(日)1830
エリア トウカイン チーズニングオカーンの地 コサイン国
既にアイチングの地が近い。
一台の荷車が止まる。
御者席の隣から降りた男は礼を言う。
アシオン
すまねえな、タダで乗せてもらって。
ゴブリンの御者
いや、こっちこそ色んな曲を聞かせてくれてありがとう!
つまんねえ何時もの運送が楽しかったよ。
荷を引くモンスターもアンタの歌で終始上機嫌だ。
そして、荷車は西へ向かった。
しばし歩くと湖が見えた。
アシオンは夕陽をバックに茜色に染まるハマンナ湖を見おろしていた。
アシオンはギターでスローテンポの曲を弾く。
アシオンはヤヤイズ国で再びオケールに会った。
黒猫の姿だったが以前にも増して、歌い方や曲のチョイスや知識が観客達を興奮の坩堝に誘っていた。
圧倒的なパワーを見せつけられた。そして、憧れた。
アシオンはこの旅で自分なりの音楽への姿勢や接し方を掴みたかった。
アシオン
いつまでもオケール婆さんに頼ってちゃーダメだ。
音神さまの知識に頼りきっていてはダメなんだ!
いつの間にかスローテンポの曲は激しいビートをかき鳴らしていた。
遠巻きにだが、聴き入ってる者が数十人はいた。
その中の一人、漁師だろうか?ノームの男性が近付いてきた。
激しいビートをギターが掻き鳴らす。それを目を閉じ、じっと聴き入っていた。
アシオンは引き終わると「センキュー!」と場を閉めた。
散発な拍手が鳴り響く。
ノームの漁師
なんて言やいいんだ?
ノイジーでロックな音、そして清々(すがすが)しい気持ちにさせる。
アンタ、流しのアーティストかい?
アシオン
ああ、そんな所だ・・ギターオンリーだがな。
ノームの漁師
ここで取れた鰻で店をやってるんだが、ウチで流して見ないかい?
一宿一飯は付ける。アンタなら客からお捻りも出るだろう・・どうだい?
アシオン
良いのかい?
何処の馬の骨かも知れない奴だぜ?
まあ、俺にとっては渡りに舟だが・・
ノームの漁師
俺とて昔は隣国の音楽の街、ハママッツン国でそれなりに鳴らしたんだ。
アンタの音はニセモンじゃ無いのは分かるよ。
ふふっ、久々に弾きたくなってくるじゃ無いか。
アシオン
アンタもギター、演るのかい?
ノームの漁師
いや、俺はピアノだけだ。
もう長い事、弾いて無いがな・・
その日はその店で鰻丼を馳走のなり、夜は客のリクエストにギターを鳴らした。
朝、ノームの漁師が漁から戻るとアシオンは一宿一飯の礼を伝えた。
持ってきな!と握り飯を渡される。
アシオン
すまねえな、せめて最後に一曲・・俺の歌を聞け!
「HOLY LONELY LIGHT」を弾き語る。
激しく!熱く!眩しく!
歌い切るとアシオンは旅だった。
後ろ姿を見送るノームの漁師は感動で言葉にならなかった。
〔何者なんだ!ニセモノじゃ無いどころか本物じゃねーか、いや神か!〕
アシオンの旅はまだ始まったばかりであった。
参照
「 HOLY LONELY LIGHT 」
https://www.youtube.com/watch?v=wf9J3wQUCPY




