第二百十四話 悪夢
夢
水崎は目覚める。
横を見ると寝息のカッスンガーが見える。
思わず抱きしめる。
カッスンガー
んー、どうしたの?眠いよー。
何も言わずに口付ける。
安堵が水崎に訪れた、何時もの日常・・それがどれほどに素晴らしい事なのかを思い知る。
日本から飛ばされて平和ボケしていたつもりは無いが、日本以外は治安の悪いのだと身に沁みた。
思案する。
どうすればコノ幸せを維持出来るのか?結論は簡単だった。
水崎はもっと「力」をつけよう!
体力、武力、経済力、知力、忍耐力、情報収集力、包容力、魅力に目力と、力を数え上げたらキリか無い。だが、この幸せを維持し、未来に繋がるのなら、手にする事が出来る全ての「力」を!と決めた。
水崎はリアルなまでのチーギューンの悪意に満ちたニヤつきを思い出し、身震いした。
その時だった、激しく体が揺れる!
地震か?
・
・
目の前でエイッチャーが体を揺さぶっていた。
エイッチャー
水崎はん、一時間後には入港やで!
この飲み水、使てええから身体を洗うて!売り物やけど着替えに使うてや!
流石に血が目立ち過ぎるわ。
目の前に大きな水瓶と手拭いが運ばれていた。・・・自身のYシャツに乾いた血の茶色が目に飛び込む。
一気に現実に戻される。
ヤツのニヤけた顔が思い出される。
強烈なまでのリアルがめまいや吐き気まで感じさせる。
鼓動が早くなり、胃がキリキリと痛み出す。
水崎
そんな・・夢?だったのか・・
ボーッとしていると「パーン!」と頰を叩かれる。
パージメン
しっかりせんかい!
服は全部脱いで海に捨てるで、血塗れの訳有りみたいやし、もう使い物にならんやろ。
早よせいや、切り替えんかい!
シモンズセッキー国に着いたら荷運び、手伝うんやで。
水崎は力無く頷くと服を脱ぎ体に水を掛けだす。
エイッチャー
靴と足袋以外はアカンな、持ち物残して他は捨てるで!
そう言うと海に投げ込んだ。
エイッチャー
もう、入港やから構ってやれんで!
しっかり、しーや。
二人は慌ただしく動く、まるで別世界の様だ。
水崎は自称気味に笑った。
ふふっ、異世界だから別世界なんだが・・
着替え終わると、白いトーブ(イスラム系男性用ワンピース)に黒靴下に黒靴、黒ベルトに脇差し代わりのアキバの木の棒と言う変な格好だった。
パージメン
Tカードは持ってるな?
何があったか知らんけど、デカイ店舗でナップサックでも買うて、ポイントは全部、使うて定期は全額下ろしとき、いざっちゅう時は信用出来んのは銭や!
取り敢えず、名を聞かれたら丁稚です言うとくんやで。
水崎
うん、わかった。
港に入って行くと前とは打って変わって、街は閑散としていた。
港を埋め尽くしていた軍船も一隻だけで港湾は職員と兵が数名だけだった。
ヤーマングッチの地で内戦が各地で勃発し、集結していた軍船は戻って行った様だった。
積荷の食糧を軍船前に運ぶと手数料と褒美をパージメン達は手にした。
次に大きな御店に寄るとパージメンが店主にTカードの入出金は出来るか聞くとOKとの事だった。
水崎はパージメンに言われるがまま、大きなナップサックと布袋と着替えをポイントで購入し、足りない分は現金で支払い、カード内の定期を全て解約し、布袋に降ろしたお金と財布を入れる。
そして、ちゃっかり着替えの服代、¥3,600ーは引かれた。
エイッチャー
ホンマは4,600円やで?千円値引きしてんねんで、感謝してや。
それにしても、まだ早いから一旦、船に戻る?
パージメン
そやな、船で朝食取ろか。
そろそろ、何があったか話して貰うで、ええな?
小さく頷く水崎だった。
次話は久米です。




