第9話 実技の授業
学院には実技練習場がある。
編入試験はそこで受けた
今からそこで、実技の授業を行う。
実技の授業は、2クラス合同でやるらしく、俺達のクラスの1年2組と、1年1組が合同でやる事になった。
約70人くらいの生徒達が、実技練習場に集まっていた。
生徒達を見て気付いたが、ギーシュ達はいなかった。
少しやり過ぎたか。
まあ、相手から絡んできたから、悪いとは思わないけど。
集まった生徒の前には、少し強面の教師が立っていた。
「よーし、今から実技の授業をやるぞ! 最初はウォーミング・アップがてら、下級の攻撃魔法を使う練習だ! 的が10あるから、均等に並んで順に魔法を撃っていけ!」
生徒達が一斉に動きだし、指示された通りに並んだ。
「ルドって魔法も得意なの?」
俺と同じ列に並んだクルツが、話しかけてくる。
「ぼちぼちかな」
「そうかぁ。でも、ミルドレスに入れるほど頭良くて、運動も出来て、魔法までうまかったら、僕敵う所無いよ」
「そんな事ないでしょ」
俺はクルツとは今日あったばかりだが、クルツほど性格のいい奴は、今まで会った事がないな、と思っていた。
黒髪である俺を侮蔑的な目で見てこないし、クラスに編入してきたばかりの俺が孤立しないよう、気を使って一緒にいてくれてるし。
かなり気の利く、いい奴だと思う。
「あ、次ルドだよ」
俺の順番が回ってきた。
編入試験の時より少し抑えめに使うか。
俺は魔法を使った。
すると、見ていた周りの生徒達が、ざわざわと騒ぎだした。
「すごい威力だったな……」「あいつ黒髪の癖に」「ミルドレスにいたらしいが……」
そんな話し声が聞こえてくる。
「今の凄い威力だったね! ぼちぼちじゃなくて、魔法もトップクラスじゃん!」
結構抑えめに使ったんだけどな。
クルツと話してたから、他の生徒が魔法も使ってる所、見てなかった。
まあ、俺は前世から得た進んだ魔法技術を、なるべく周りに知られたくないだけで、優秀に見られたくないというわけではない。
賢者になるなら、常にある程度、優秀に見られていた方がいいだろう。
ただ、俺はミルドレス魔法学院を退学になって、この学院に来たから、最初から優秀だと、違和感を持たれる。
その為、この学院に来てから、しばらくして急成長したみたいにすればいいと思っていたが、もう遅いな。
別にいいか、退学になった理由は適当な言い訳を考えておこう。
そんな考え事をしていたら、
「あ、次ベリルフォーランさんだ」
「見ておこう」
と言いながら、生徒達が俺の列の右隣に集まって来た。
「何だろ?」
俺はクルツに尋ねた。
「ああ、アリス・ル・ベリルフォーランさんが魔法を使うんだろう。1年生では1番魔法の実力がある生徒なんだ」
「そうなんだ」
俺も見てみる。
ってあれは。
「あの子、俺の左隣の席にいた、俺を無視した子だ」
「ああ、そう言えばそうだったね。無視されたんだ。まあ、彼女は誰にたいしてもそうだから、気にすることはないよ」
俺が黒髪だから無視されたってわけでもないのか。
元々あまり人と話すタイプではないのか?
それはそうと、ベリルフォーランってなんか聞いたことある。
どこで聞いたんだっけ? 忘れたけど。
もしかしたら、結構有名な貴族なのかもしれない。
俺はクルツに尋ねてみた。
「ああ、ベリルフォーラン家は公爵家で、この国トップクラスの大貴族さ。そこの5女なんだよ、ベリルフォーランさんは」
「公爵家……どうりで、生まれが平民の俺でも、聞いたことあると思った」
「あ、ルドは平民の出なんだ。僕と一緒だね」
クルツも平民の出なのか。珍しい。
魔法学院には平民はあまりいない。
通わせるのに金がかかるし、そもそも魔法を学ぶのにも大金がかかるから、なかなか平民では、魔法学院には行けないのだ。
平民出で魔法学院のに通っているのは、よっぽど才能があるものか、平民だが、金持ちだという家に生まれた者がほとんどだ。
俺は、親父が高名な魔法使いと親友だったため、魔法の勉強自体は、無償で受けれた。
ミルドレス魔法学院に通うための金は、自分でコツコツ貯めたものだ。
魔法が使えていればそれだけで、何らかの仕事はできる。
12歳くらいから貯め始めてたな。
まあ全部俺の金ではない。親もいくらか出してくれた。
と、ベリルフォーランが、魔法を使うみたいだ。
1番レベルが高いというのだから見ておこう。
彼女が呪文を唱え始める。
素早い。
呪文は本来ゆっくり詠唱しないと、正確に魔法が発動しない。
しかし、技術のある魔法使いなら、早く詠唱しても正確に発動させることが出来る。
そのまま唱え終え、魔法を放つ。
使った魔法は、火属性の下級魔法フレイム。
先ほど俺が放ったフレイムより、高威力のフレイムが的の真ん中に的中した。
「おー」
「すげー。さすがベリルフォーランさんだ」
周りから歓声が上がる。
俺も素直に今の魔法は、素直に凄いと思った。
魔法を評価するポイントは3つ。
威力、速さ、そして精度だ。
今のベリルフォーランが使った魔法は、その全てが優れていた。
「うーん、いつみてもすごいなー」
確かにすごいけど、1つ疑問がある。
「確かにすごいな。何で彼女この学院にいるのかな」
彼女ほど魔法が使える生徒は、ミルドレス魔法学院にもいなかった。
何故、もっとレベルの高い所に行かなかったのか? と俺は疑問に思ったのだ。
「彼女には弱点があるかなぁ」
「弱点?」
何それ? と聞こうとしたら。
「全員ウォーミングアップ終わったなぁ! 次は中級魔法の練習をする!」
そう、教師が言った。