第53話 呼び出し
一年生の皆に無詠唱魔法を教え始めて、数日が過ぎた。
全員がまだ使えるようになったわけではないが、何名かの生徒は使えるようになっていた。
最初は全員が教わりに来たわけではなかったが、何やら凄い事を俺が教えているという話が流れ出すと、一年生の99パーセントは、無詠唱魔法を教わりに来た。
生徒達が使い始めると、当然先生にもそれがバレる。
俺はそれで、先生に呼び出しを食らった。
「君はあの無詠唱魔法を誰から教わったのかね」
俺を呼び出した先生は、ウルベルトだった。
編入試験を受けさせてくれた先生である。
彼は仏頂面を崩さずに俺に問い詰めていた。
誰から教わったといわれると、前世の自分から教わったという事になる。しかし、そう言っても信じてはもらえないだろう。
自分で開発したというか。いや、それも信じてもらえるだろうか?
ただ一生徒が、ここまで凄い魔法を開発したという話は、とんでもない話ではある。
まあ、しかし、前世から知識を得たという話よりかは、少しは現実に起こりえそうな話ではあるだろう。
「自分で開発しました」
俺はそう嘘を吐いた。
この時ばかりは、ウルベルトも驚いた様な表情を浮かべる。
「本当か? じゃあ、あれはここの学院の者しか知らぬ事なのか……ふむ……」
ウルベルトは何やら深く考え込む。
「とんでもない事になったな。これは世界を揺るがす一大事件だ。だが、この学院にとっては、再興のまたとないチャンスである」
再興か。
確かに俺が大魔法大会で、無詠唱魔法をこの学院の生徒が、習得しているということが知れ渡ったら、恐ろしい数の生徒が入学を志願してくるだろう。
それこそ学院中の優秀な生徒は全て、アルバレスへの入学を希望するかもしれない。
そうなると、一気にアルバレスは国内、いや世界で最高の魔法学園になるだろう。
逆に、ミルドレスなどの人気のある学校は、滅びの一途を辿っていくと思われる。
「しかし、君が自分でそれほどの魔法を開発するような生徒だったとはな……なぜ君みたいな天才をミルドレスは手放したのか、理解に苦しむ」
あくまでミルドレスにいた頃は、ただの劣等生に過ぎなかったからだ。
少し気恥ずかしい気持ちになったが、結局前世から知識を得たという事は説明するのも難しいため、黙って聞くことにした。
「あの、それで俺はこのまま、教え続けていいのでしょうか?」
「ああ、構わんよ。どんどん教えてやってくれ。ただ、教師が生徒に教えを請うわけにはいかんから、そこは問題ではあるな」
「無詠唱魔法の使い方を知りたいんですか?」
「当然知りたいに決まっているだろう。まさに革命的なとんでもない魔法だ。魔法使いは全員知りたがるはずだ。……しかし、やはり教師が生徒に教えを請うというのはなぁ……君が卒業したあと教わるというのならいいかもしれないが」
どうもかなり、俺が在学中に教わるということに、抵抗感を抱いているみたいだった。よく分からない感覚であるが、教師のプライドと言うやつだろうか。
「じゃあ、とにかくこの学院で知りたいという人には、全員教えるつもりです」
「そうか、君はほかの学院に行くつもりとかは無いのか?」
「ええ、この学院には感謝の気持ちがありますし、大事な人もいますので」
ウルベルトは嬉しそうな表情で、それはよかったといった。
とにかく俺としては邪魔をされないで、済んだので良かった。
それから、一年生に教え続けて、ほとんどが無詠唱魔法を習得した。
今度は二年生に教えはじめたいと思う。