第51話 決意を固める
「ところで前世から知識を得たのは、分かりましたが、やっぱり何でそれを秘密にしておかなければならないのかは、よく分かりませんわ」
「ああ、それは」
俺は前世の記憶を広めたら、世界を変えてしまい、どうなるか予想は付かなくなってしまうということを話した。
アリスは、俺の話を聞いていて、釈然としないような表情を浮かべる。
「確かに世界は変わると思いますけど、ルドの持っている魔法知識は、間違いなくこの世界の魔法知識より進んでいるのですわよね。ならばきっと傷つく人より救われる人の方が多いと思いますわよ。それなら広めた方がいいじゃありませんか?」
「……確かにそれは尤もであると思うけど」
単純に怖いのだ。世界を変えるという大それたことをするのが。
例え最終的に救われた人間が多くなるとしても、それでも今幸せに生きている何人かの人間の生活を、壊してしまうことになるのは間違いない。
それが俺にはたまらなく怖かった。
ただそう伝えるのは、何だか恥ずかしかったのでどう伝えたものか迷っていると、
「私はルド君の気持ちが分からないでもないけど。世界を変えるのが怖いのでしょう」
ミナには見破られていた。
「まあ、うん、そうだ。正直世界がどうなるか分からないから、やるのが怖いってのが一番の理由だ」
少ししどろもどろになりながらも、説明する。
「でも、ルド君は賢者になりたいんだよね。賢者になりたいと思う人は、皆、世の中を変えるほどの活躍がしたいって思っているはず。ルド君もそうだったでしょ」
「……」
「ルドは難しく考えすぎだと思いますわ。知識を伝えることは決して悪いことじゃありません、それが原因で仮に誰かが傷ついたとしても、ルドのせいなんかじゃありまえんわ」
アリスは毅然とした口調でそう言ってくる。
「やっぱり二人とも言った方がいいと思うか?」
「ええ、それでルドはこの時代に誰よりも偉大な賢者になると思いますわ。その知識を抱えたまま、広めないでおくのは、あまりにも勿体無いと思います」
「私もそう思う。どうしても怖いのなら私も広めるのを手伝うから。一緒にすれば怖くはないでしょ?」
「て、手伝うのは私ですわ! ルドの彼女ですから!」
二人の言葉を聞き俺は徐々に心が動いてきた。
一緒に広めるか。少し男としては情けない気がするけど、それでもやはり誰かがいれば確かに心強い。
アリスの言う通り、この知識を抱えたまま死んでしまったらそれもどうかとも思う。俺がこの知識を得たのには、何か意味があるのかもしれない。
退化してしまった魔法技術を取り戻すことこそが、俺の生まれてきた意味だったのかもしれない。
「分かった……起こそう魔法革命を!」
俺は意を決して、そう宣言した。
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次回更新は今月二十四日です。