第49話 無詠唱魔法
その日の授業が終わると、俺はアリスとミナの二人を連れて、学院裏にある練習場に向かった。
アリスが一人で黙々と練習をしていたあの場所だ。人気のない場所に行く必要があった。べ、別にいかがわしいことをするつもりではないぞ。仮にそうだったらミナを連れて行くのはおかしいだろう。
なぜ人気のない場所に連れて行ったのかというと、ミナに無詠唱魔法を教えるためだ。
黒髪のミナは、無詠唱で魔法を使うのが得意なはずだ。今までより遥かにうまく魔法を使用できるようになるはずだろう。
彼女は信頼できるから、言わないでほしいとお願いすれば、無詠唱魔法のことを誰かに喋るということもないだろう。
器用でもあるし、きちんと詠唱魔法に見せかけて、無詠唱魔法を使うことも可能なはずだ。
アリスも連れて行ったのは、ミナにだけ教えるのは、自分の彼女であるアリスへの背信行為のような気がしたからだ。
ただアリスは青髪であるがため、無詠唱魔法はあまり得意にはならないかもしれない。彼女はすごい努力家なので、その程度の壁は軽々と超えてくるかもしれないが。
「それで、今日は何を教えてくれるのですか? ミナも一緒のようですが」
目的地に到着し、アリスが質問してきた。
「えーと、これから教えることは秘密にしておいてほしいんだけど、ミナもいいかな」
「またですか。私は構いませんわ?」
「な、何か危ないこと?」
「そうではありませんわ。ルドはこうして私に色々教えてくれるのです。普通は知らないとんでもない知識を知っているのですが、なぜかそれを秘密にしてほしいというのですわ」
「そうなんだ」
「えーと、じゃあ今日教えるのは、『無詠唱魔法』だ」
「「無詠唱魔法?」」
二人の声が見事に重なった。
「なんですのそれ」
「呪文を唱えずに魔法を使うことさ」
「呪文を唱えずに? そんなこと出来るわけないじゃありませんか」
アリスは断言した。ミナも疑うような表情で俺を見ている。
まあ無理もない。この時代の人間にとって、魔法を使う時、呪文を唱えるというのは絶対の常識であり、唱えずに使うというのは、ありえないことなのだから。
言っただけで信じてもらうことは、いかに親しい二人といえど不可能であろう。
使って見せればいい。
俺は中級魔法、アイスキャノンを無詠唱で使用、誰もいない場所に撃ち放った。
二人はその様子を見て、目を見開いた。
「信じた?」
「う、嘘ですわ。小声で呪文を唱えていたのでは!?」
「何も言ってないよ」
「そ、そんな」
「ほ、本当に無詠唱で使ったのルド君?」
二人は計り知れない衝撃を受けているようだ。
「ああ、これはあんまり他人に知られたくなかったけど、二人には教えてもいいと思って教えた。実はこの学院に来てからは、全部無詠唱で魔法を使っていたんだよ。唱えるふりをしていたんだ」
「本当にルドといると驚かされますわね。魔力増加ポーションといい、この前のフィジカル・アップといい……」
アリスは呆れたようにそう呟いた。
「これを二人にも使えるようになってほしいんだけど、どうかな」
「使えるようになれるの?」
「ああ、普通の魔法が使える人はやり方さえ覚えれば、一週間くらいの練習で使えるようになるはずだよ」
「一週間程度でですか」
「どう、使ってみたくない?」
俺がそういうと二人は、使ってみたいと予想通りの返答をしてきた。
それから二人が出来るようになるまで、授業が終わると毎日ここに来て、魔法を教え続けた。